ハノイ在住13年の現地投資家による、より深い企業分析・投資戦略は👉 メンバーシップで公開中
2025年5月28日に開催された「ベトナム・アジア デジタルトランスフォーメーション(DX)ハイレベルフォーラム2026」において、ベトナム共産党政治局委員であるグエン・ズイ・ゴック(Nguyễn Duy Ngọc)党中央組織部長が、同国のデジタル転換の現状と課題について極めて率直な指導演説を行った。「我々はまだデータを経済的価値の流れに変えることができていない」——この発言は、GDP成長率年平均10%以上という野心的目標を掲げるベトナムが直面する構造的ボトルネックを浮き彫りにするものである。
フォーラムの位置づけ——第14回党大会の「二桁成長」目標と直結
今回のフォーラムは、ベトナムソフトウェア・IT サービス協会(VINASA)と科学技術省が共催したもので、テーマは「二桁成長のための新たな原動力の創出」である。これは2026年に開催された第14回ベトナム共産党大会が掲げた「2026〜2030年の期間にGDP成長率を年平均10%以上にする」という目標に直結している。ベトナムは2024年に約7%台の成長を達成したが、ここからさらに10%超へ引き上げるには、従来型の製造業誘致や輸出拡大だけでは不十分であり、デジタル経済が「実質的な主エンジン」となる必要がある。ゴック氏の演説はまさにこの文脈で行われた。
「データは国家資産」——しかし現実は分断・断片化
ゴック氏は、ベトナムのデジタル転換が一定の成果を上げていることを認めた。「Make in Vietnam(ベトナム発)」の技術ソリューション、たとえば自主クラウド基盤、国際貿易の取引期間を数週間から1日以下に短縮するデジタル金融ソリューション、AIアシスタント、デジタル市民ID(電子身分証)などが経済・社会の姿を変えつつあるとした。
しかし同時に、マクロ管理の視点から見た「不都合な真実」を率直に指摘した。その核心は以下の通りである。
- データ品質と基盤インフラの慢性的課題:国家規模で「正確・完全・クリーン・生きた(đúng, đủ, sạch, sống)」データの整備が極めて不十分。大半のデータベースがいまだ構築・整備途上にある。
- データのサイロ化:省庁間、中央と地方間、官民間でデータが分散・断絶しており、相互連携・共有が進んでいない。
- デジタルプラットフォームの断片化:各種プラットフォームが乱立し、統一性を欠いている。コアとなるプラットフォームの多くが国民や企業にとって使いにくい状態にある。
- 制度の未整備:新しいビジネスモデルに対応する法制度が追いついていない。
- AI時代への準備不足:デジタルインフラとエネルギーインフラの双方が、大規模AI展開に必要な水準に達していない。
- 中核人材の不足:半導体チップ、AI、サイバーセキュリティ分野の技術人材が決定的に足りない。
「これらの弱点を直視し、断固として解決しなければ、時代の波に乗り遅れるだけでなく、自ら飛躍の機会を捨てることになる」とゴック氏は警鐘を鳴らした。
提示された5つの戦略的方向性
ゴック氏は2026年を「認識から実質的な行動への転換期」と位置づけ、以下の5つの戦略方向を提示した。
第一:制度のブレークスルー——イノベーションの障壁を全面撤廃
制度は技術の発展に「先行して道を開く」べきであり、「後追いで管理・制限する」ものであってはならない。AI、ビッグデータ、半導体、デジタル資産に対する規制サンドボックスの整備を急ぐべきだとした。政治局決議57号(Nghị quyết 57-NQ/TW)の具体化を急ぐよう求め、国家機関に対し「管理」思考から「創造的支援(kiến tạo)」思考への転換を促した。
第二:DXはシステム再構築とプロセス標準化と一体で
「煩雑な手作業のプロセスをそのままコンピュータに載せれば、できあがるのは『コンピュータ上の煩雑なプロセス』にすぎず、DXではない」——この明快な表現は、ベトナムの行政・企業双方に蔓延する「形だけのデジタル化」への痛烈な批判である。プロセスと制度の再構築なしにDXは成功しないと断言した。
第三:近代的デジタルインフラの構築とデータ連携
「デジタルインフラは血管のようなもの。中央から末端まで血管が通じてこそ、体は健康になる」と比喩し、データを「国家資産であり、デジタル経済の血液」と位置づけた。公共部門内および官民間のデータ共有を一気に推進するよう求めるとともに、情報セキュリティとデータ安全を「持続的発展の前提条件」として最優先すべきだと強調した。
第四:「技術応用」から「コア技術の自主化」へ
ベトナムはソフトウェア下請けや既存外国技術の応用にとどまるべきではない。大手テクノロジー企業は困難な領域に踏み込み、AI、半導体チップ、IoT、5G(将来的には6G)といった戦略的基幹技術の研究・習得に注力すべきだとした。プロセス最適化モデルから大規模自動化モデルへの転換、さらにはグリーンエネルギーと連動したスマート企業・自律型企業への進化を目指す方向性を示した。
第五:グローバルな視野を持つデジタル人材戦略
デジタル経済の飛躍には「教育・訓練の革命」が不可欠であるとし、省庁、研究機関、大学、企業コミュニティが連携して、デジタル思考を持ち、データに対する責任感と革新への情熱を兼ね備えた人材を育成するプログラムの構築を求めた。
投資家・ビジネス視点の考察
今回の演説は、党政治局員という最高レベルの指導者がデジタル転換の「構造的弱点」を公の場で率直に認め、改革を迫った点で極めて注目に値する。投資家の視点から以下の示唆を読み取ることができる。
1. IT・DX関連銘柄への中長期追い風:政府がデジタルインフラ、データ連携、サイバーセキュリティへの「総力投入」を宣言したことは、FPTコーポレーション(FPT、ベトナム最大手IT企業)、CMCコーポレーション(CMG)、VNPTグループ傘下企業など、IT・DX関連上場企業にとって受注拡大の追い風となる。特にクラウドインフラ、AI、サイバーセキュリティ分野は政策的優先度が極めて高い。
2. 規制サンドボックスとフィンテック・デジタル資産:AI・デジタル資産向けサンドボックス制度の整備が明確に言及されたことは、フィンテック企業やブロックチェーン関連事業にとって重要なシグナルである。制度面の不透明さが最大のリスク要因であったこれらの分野に、ようやく法的枠組みが与えられる可能性が出てきた。
3. FTSE新興市場指数への格上げとの関連:2026年9月に決定が見込まれるFTSE新興市場指数への格上げにおいて、データの透明性、市場インフラのデジタル化、制度の近代化は評価の重要要素である。今回の演説で示された方向性——データ連携の促進、制度の先行整備、デジタルインフラの高度化——は、格上げに向けた環境整備とも軌を一にしている。格上げが実現すれば、数十億ドル規模の海外パッシブ資金が流入すると推計されており、市場全体の底上げが期待される。
4. 日本企業への示唆:ベトナムが「ソフトウェア下請け国家」から「コア技術自主化国家」へ転換を図る中、日本のIT企業にとってはベトナムを単なるオフショア先ではなく、共同開発パートナーとして再定義する必要性が高まっている。半導体、AI、サイバーセキュリティ分野での人材育成協力や技術移転は、日越双方にとって戦略的意義が大きい。一方、データのサイロ化やインフラ未整備は、ベトナム進出日系企業にとっても現場レベルの課題であり、今後の改善動向を注視すべきである。
5. リスク要因:演説で指摘された課題——データの分断、制度の遅れ、人材不足——はいずれも一朝一夕に解決できるものではない。二桁成長目標の達成には、演説の理念が実際の政策・予算配分・規制改革として迅速に具体化されるかが鍵となる。「認識から行動へ」の転換が実行段階で滞れば、市場の期待は失望に変わるリスクもある。
いかがでしたでしょうか。今回のニュースについて、皆さんのご意見もぜひお聞かせください。コメント欄や@viettechtaroのDMでお待ちしています。
この記事が参考になったら、ぜひXでシェアしていただけると嬉しいです。より多くの方にベトナム投資の魅力を伝えたいと思っています。
ハノイ在住13年日本語で毎日配信。
✅ 個別銘柄の詳細分析 ✅ FTSE格上げ関連速報 ✅ 現地だからわかるリアルタイム情報
👉 月額980円でメンバーシップに参加する
出典: 元記事












コメント