こんにちは、ベトナム経済&株式投資ニュース解説のベトテク太郎です。
ハノイで13年間、毎日ベトナムのIT企業の動きを見てきた私でも、今のAIが産業に与えている変化のスピードには正直、少し怖さを感じることがあります。「AIブームで儲かっているのでは?」——そう思われがちなITサービス企業ですが、実態はもう少し複雑です。
今回は、ベトナムを代表するIT企業であるFPTとCMGが、AIという大波のなかでどのような立ち位置にいるのかを整理してみます。投資家目線で見ると、これは単なる「ITセクターの決算分析」ではなく、ビジネスモデルそのものが問われる話です。
AIはIT企業にとって「追い風」ではなく「向かい風と追い風の同時到来」
少し意外に思われるかもしれませんが、世界的なAIブームはITサービス企業にとって必ずしも喜ばしい話だけではありません。
ガートナーの予測によると、2026年の世界IT支出は前年比13.5%増の約6兆3,170億ドルに達する見込みです。ただし、成長が最も大きいのはデータセンター(前年比55.8%増、7,880億ドル)とソフトウェア(同15.1%増)であり、「ITサービス」の成長率は9%にとどまると予測されています。業界全体の成長率を大きく下回る数字です。
この「ギャップ」が何を意味するか、おわかりでしょうか。
AIへの投資マネーは、GPUサーバー・クラウドインフラ・AIソフトウェアプラットフォームに集中しています。一方で、人件費と作業時間に依存する従来型のソフトウェアアウトソーシングは、じわじわと価格下落圧力を受けている。追い風はAI関連の新サービス領域に吹いているのですが、それが旧来の収益モデルの向かい風と同時に吹いている——そういう状況なんです。
FPTの4ヶ月実績:数字の「裏側」を読む
FPTは2026年最初の4ヶ月間(1〜4月)で、売上高17兆2,280億VND(約1,034億円)を達成しました。前年同期比11.6%増です。税引前利益は3兆7,870億VND(約227億円)で17.5%増、純利益は3兆3,600億VND(約202億円)で16%増となっています。
「悪くない数字に見える」という感想を持たれる方も多いと思います。実際、成長は維持できています。ただ、気になるのは伸び率が前年同期を下回っている点と、事業別の「内訳」に大きなコントラストが生まれていることです。
HSC証券のレポートによると、FPTの従来型サービスからの収益は2026年1〜4月で前年同期比わずか3%増の6兆3,490億VND(約381億円)にとどまりました。2025年同期の10%増、2024年同期の29%増と比較すると、減速ぶりは一目瞭然です。これがAIによる価格下落圧力の「構造的影響」と指摘されています。
一方で、デジタル変革事業の収益は25.3%増の6兆770億VND(約365億円)まで拡大し、海外ITサービス収益に占める割合は48.9%に達しました。AI・データ分析事業に至っては前年比83%増という驚異的な伸びを記録しています(FPTはまだ具体的な金額を公表していませんが)。
注目すべき点として、2026年1〜4月に締結された新規デジタル変革契約の約30%がAI関連プロジェクトで占められています。内容はワークフロー自動化とMicrosoft Copilot AIの導入が中心です。
日本市場が「最大の柱」になっている
ベトテク太郎としてどうしても触れておきたいのが、FPTの海外IT事業における日本市場の存在感です。
2026年1〜4月の日本からの売上高は5兆8,800億VND(約353億円)で、海外ITサービス全体に占めるシェアが前年同期の43.5%から47.3%に拡大しました。ほぼ半分が日本案件ということになります。
ハノイで働いていると、日系企業のデジタル化ニーズは肌感覚として感じます。製造業のDX、行政系システム更改、老朽化したレガシーシステムの刷新——これらはAIが台頭しても簡単には消えないニーズです。むしろ「AIを使って何かしたいが、自社ではできない」という企業が増えており、それをベトナムのエンジニアが担う構図が強化されつつある印象があります。
一方で、日本以外の市場(韓国・マレーシアなど)はマクロ経済の不確実性を背景にプロジェクトの遅延が発生しており、成長はより緩やかでした。FPTにとって日本依存が高まっているのは、強みでもあり、集中リスクでもある——そのバランスをどう見るかが投資判断を考えるうえでの一つの論点になるでしょう。
「人を増やせば売上が増える」モデルの終わり
FPTの経営陣が明言しているのが、成果ベースの契約モデルへの移行です。従来の時間給(T&M)モデルに代わり、各プロジェクトに必要な人員を15〜20%削減できるとされる契約方式への転換が進んでいます。
これは、「人をたくさん雇えば雇うほど収益が上がる」という、ベトナムのITサービス産業が長年依拠してきたビジネスモデルとの決別を意味します。もちろん、AIエンジニアの採用・AIインフラへの投資・社内研修といった初期コストが大きく、短期的には利益率を圧迫しますが、中長期的には高付加価値なサービス提供者として再定義できるかどうかの岐路に立っているわけです。
CMGはデータセンターで勝負に出る
CMGについても触れておきます。FPTと比較すると規模は小さいですが、銀行・金融セクターの顧客基盤とデータセンター事業のエコシステムを持つという独自性があります。
特に注目されるのが、ホーチミン市ハイテクパークでのSamsung SDSとの協業計画です。投資規模は約2億5,000万ドル、最大120MWの容量を持つ大型データセンタープロジェクトです。AIアプリケーションの処理・保存・運用に対する需要が高まるなか、このインフラ投資はCMGの将来的なポジションを大きく変える可能性を持っています。
2030年までにAIが世界のデータセンター総処理量の約50%を占めるとされるなかで、ベトナム市場も従来の小規模サーバーコロケーションから、AI最適化された大型データセンターへと移行しつつあります。CMGはその波に乗ろうとしているわけです。
ただし、HSCはCMGの中期見通しについて慎重な姿勢を崩していません。アジア太平洋地域全体がマクロ経済の変動の影響を受けており、大型投資の商業化には時間がかかるという判断です。
公共部門という「隠れた支柱」
もう一点、見落とせないのが国内公共部門の需要です。
FPTの公共部門からの収益は2026年第1四半期に前年同期比50%増という大幅な伸びを見せています。ベトナム政府は2026年に科学・技術・イノベーション分野へのリソースを約36億ドルに拡大する方針で、前年の10億ドルから大幅な増額です。電子政府、デジタルID、オンライン行政サービス、スマートシティ……これらは地方自治体レベルまで広がりつつあるデジタル化の波であり、ITサービス企業にとって安定した国内需要として機能しています。
私がハノイで日々感じるのも、行政手続きのオンライン化が急速に進んでいるということです。3年前には窓口に何度も足を運ばなければならなかった手続きが、今ではスマートフォンで完結するものが増えました。こういった変化が、FPTやCMGのような企業にとって地道ながら確かな収益源になっています。
投資家として「どう見るか」
FPTについて言えば、従来型サービスの減速という構造問題は現実としてあります。しかし、デジタル変革・AI関連の新事業が急成長しており、日本市場での存在感も確固たるものになっています。課題は、新事業の成長が旧事業の圧力をどの程度相殺できるか、そしてAI投資の初期コストが利益率に与える影響がいつ一巡するかです。
CMGは、データセンターという長期的なインフラ投資の文脈で捉えるべき企業です。短期的な業績よりも、Samsung SDSとの大型プロジェクトが本格稼働した際のポテンシャルをどう評価するかが、注目のポイントになるでしょう。
どちらの企業にとっても、「AIの波に乗れるか」ではなく、「AIによって自社のビジネスモデルがどう変わるかに適応できるか」——それがいま問われている本質的な問いです。そういうことなんです。
いかがでしたでしょうか。今回のFPTとCMGのAI対応戦略について、皆さんのご意見もぜひお聞かせください。コメント欄や@viettechtaroのDMでお待ちしています。
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