こんにちは、ベトナム経済&株式投資ニュース解説のベトテク太郎です。
ベトナムの生命保険市場、いま正直ちょっと複雑な時期を迎えています。
新規契約件数は前年比22%減。保険料収入も落ちている。数字だけ見ると「業界ヤバいのでは?」と思いますよね。でも今回、この数字をハノイで見続けてきた私の目線で読み解いてみると、まったく違う景色が見えてきます。これは業界の崩壊ではなく、むしろ「膿を出しきる過程」なんです。
2026年4月末、生命保険市場で何が起きたか
ベトナム保険協会が発表した2026年1〜4月のデータを見てみましょう。
主要商品の新規契約数は348,010件で、前年同期比22%の減少。それに連動して新規保険料収入の合計も6兆6,530億VND(約399億円)と、11.5%落ちています。
新規事業のトップはバオ・ベト生命が1兆4,450億VND(約87億円)で首位を維持。続いて第一生命が7,030億VND(約42億円)、AIA 6,620億VND(約40億円)、マニュライフ 6,290億VND(約38億円)と、日系・外資系が上位に名を連ねているのが目を引きます。
商品構造を見ると、投資連動型保険(ユニバーサル生命+ユニットリンク)が全体の約56%を占め、依然として主流。ただしユニバーサル生命は前年比28%減と大きく落ち込んでいます。一方でユニットリンク型は3.2%のわずかな増加を示しており、このあたりは微妙に動きが分かれてきた印象です。
市場全体の保険料収入は43兆3,980億VND(約2,604億円)で4.3%の減少。大きく見ると「全体的に縮んでいる」というデータではあります。
では、なぜ縮んでいるのか
ここが本題です。
原因のひとつは「流通チャネルのボトルネック」と専門家は指摘しています。数十年にわたって生命保険の成長を支えてきた代理店チャネルが、今の変化に追いつけていない。
何が変わったのかというと、手数料構造です。かつての代理店は初年度に60%以上という非常に高い手数料を受け取れました。ところが新しい保険事業法の施行により、この収入が2年目・3年目に分散される仕組みへと変わりました。代理店にとっては「すぐ稼げる構造」から「長期で付き合って稼ぐ構造」への転換ですから、適応に時間がかかるのは当然です。
加えて、ちょっと悪習慣というか「灰色ゾーン」的なことも起きていました。代理店が自分の手数料を一部割り引いて顧客に渡す、いわばキックバックのようなことが横行していた。規制強化でこの慣行が潰されたわけですが、「割引があるから入る」に慣れていた顧客の一部は、今は買い控えている。市場全体が「正しい習慣」を再構築しているフェーズだということですね。
保険金の支払いが過去最高水準に達している件
もうひとつ、今回のデータで注目すべきは保険金の支払いです。
2026年4月末までの保険給付金の支払い総額は21兆7,380億VND(約1,304億円)に達し、前年同期比で20%以上の増加となりました。収入は落ちているのに支払いは増えている。財務的に大丈夫なの?と思うのが自然な反応です。
ところが専門家の見解は、これを悲観的に見る必要はないということ。理由はシンプルで、ベトナムの生命保険市場は約30年の歴史を持ちます。かつて大量に契約された中長期商品が続々と満期を迎えているわけです。これは保険会社の保険数理部門が何十年も前から計算して、きちんと引当金を積んでいた支払い。想定外のショックではありません。
実はここに、「ベトナムの保険会社は支払ってくれない」という誤解を打ち消す具体的な証拠があります。これだけの額を実際に支払っているという事実は、業界全体への信頼回復につながる材料になりうると私は考えています。
有効契約数も減少しているが
市場全体の有効契約数も4.5%減少し、約1,114万件となりました。
この数字を見て思うのは、過去10年のベトナム生命保険業界の「猛烈な拡大主義」のツケが出てきているということです。架空契約や顧客がすぐ解約してしまうケース、2年目・3年目の継続率が著しく低い契約が大量に生まれていた。企業も代理店も「とにかく新規契約を積む」ことに必死で、品質を犠牲にしてきた面は否定できません。
ここ数年で各社は2年目・3年目の継続率(K2、K3)を業績ボーナスの前提条件に設定し始めました。代理店が誠実に販売しないとボーナスが出ない仕組みへの転換です。これが「政策転換期」と呼ばれる現状を生んでいます。
そういうことなんです。今の数字の悪化は、スポンジから水を絞り出すプロセス。膿を出しきることで、市場が次のステージへ進む準備をしている。
投資家として、この業界をどう見るか
ここは私の個人的な見解として聞いてください。投資判断はご自身でどうぞ。
ベトナムの生命保険市場は、人口構造と経済成長の観点からすれば中長期的なポテンシャルは依然として高いと考えています。生命保険の普及率はまだ低く、中間所得層の拡大とともに保険ニーズは確実に増えていきます。問題なのは「どう売るか」という販売品質であって、市場そのものの需要が消えたわけではない。
実際、ハノイで生活していると、周囲のベトナム人の「保険への見方」は少しずつ変わってきていると感じます。以前は「代理店に言われるままに買うもの」という認識が強かったのが、最近は「何の保険に入っているか、内容を理解しているか」を気にする人が増えた印象があります。これは市場の成熟化のサインだと思っています。
銀行チャネルを持つ金融機関、デジタル×AIで顧客と直接つながれる保険会社、そして代理店依存から脱却して直販比率を高めていける企業──このあたりは今後の観察対象として個人的に注目しています。2026年の苦しい数字は、2027年以降の飛躍への布石になりうる。そう読んでいます。
いかがでしたでしょうか。今回のベトナム生命保険市場の動向について、皆さんのご意見もぜひお聞かせください。コメント欄や@viettechtaroのDMでお待ちしています。
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本記事で提供される情報は、執筆者の個人的な分析と見解に基づくものであり、投資判断の最終的な決定は読者ご自身の責任において行ってください。ベトナム株式投資は価格変動が大きく、元本割れのリスクを伴います。
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