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ベトナム中部クアンチ省(Quảng Trị)に所在する繊維セメント板の製造工場が、電気自動車(EV)、再生可能エネルギー、バイオマスボイラーの導入によって年間約2,000トンの二酸化炭素(CO2)排出を削減し、ベトナム国内で初めて「ゼロカーボン(Zero Carbon)」認定を取得した。製造業における脱炭素の具体的成功事例として、国内外から注目を集めている。
クアンチ省の繊維セメント板工場が達成した「ゼロカーボン」の全容
今回「ゼロカーボン」を達成したのは、クアンチ省に立地する繊維セメント板(tấm xi măng sợi)の製造工場である。繊維セメント板は、セメントに繊維素材を混合して成型した建材で、ベトナムでは住宅や商業施設の屋根材・壁材として広く使われている。従来、この種の建材工場はエネルギー消費が大きく、化石燃料への依存度が高い業種とされてきた。
同工場がゼロカーボンを実現するために導入した主な取り組みは、以下の3つの柱で構成されている。
① 工場内輸送の電動化——EVへの全面転換
工場内で使用される輸送車両を、従来のディーゼル車から電気自動車(EV)に切り替えた。製造業の現場では、原材料の運搬や完成品の移動にフォークリフトやトラックが多用されるが、これらをEV化することで、工場敷地内における直接的なCO2排出をゼロに近づけた。ベトナムではビンファスト(VinFast)をはじめとするEVメーカーが急成長しており、商用EVの調達環境も年々改善されている。
② 再生可能エネルギーの活用
工場の電力源を再生可能エネルギーへ転換した。クアンチ省はベトナム中部に位置し、風力発電や太陽光発電のポテンシャルが高い地域として知られる。同省では近年、大規模な風力発電プロジェクトが相次いで稼働しており、グリーン電力の調達が比較的容易な立地条件にある。工場はこうした地域のエネルギーインフラを活用し、製造工程に必要な電力を再生可能エネルギーで賄う体制を構築した。
③ バイオマスボイラーの導入
セメント製品の製造には高温の蒸気が不可欠であり、従来は石炭や重油を燃料とするボイラーが使用されていた。同工場はこれをバイオマスボイラー(lò hơi sinh khối)に置き換えた。バイオマスボイラーは、木質チップや農業残渣(もみ殻、トウモロコシの茎など)を燃料として使用するもので、燃焼時に排出されるCO2は、原料となる植物が成長過程で吸収したCO2と相殺されるため、カーボンニュートラルとみなされる。ベトナムは農業大国であり、バイオマス燃料の原料となる農業副産物が豊富に存在することも、この転換を後押しした。
年間2,000トンのCO2削減——その意味
これら3つの施策を組み合わせることで、同工場は年間約2,000トンのCO2排出削減を達成した。これによりベトナム国内で初めて「ゼロカーボン」の認定を受けた製造拠点となった。ベトナム政府は2021年の国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)において、2050年までにネットゼロ(温室効果ガス排出実質ゼロ)を達成するという野心的な目標を掲げている。今回の事例は、その目標に向けた具体的な成功モデルとして、政策立案者や他の製造業者にとって重要な参考事例となる。
ベトナムの脱炭素政策と産業界の動向
ベトナムでは、2022年末に「公正なエネルギー移行パートナーシップ(JETP)」が先進国との間で合意され、155億ドル規模の支援パッケージが発表された。これは石炭火力への依存度が高いベトナムのエネルギー構造を転換するための国際的な枠組みであり、製造業を含む産業全体に脱炭素の圧力が強まっている。また、EUの炭素国境調整メカニズム(CBAM)が2026年から本格適用される予定であり、ベトナムからEUへ輸出する鉄鋼やセメントなどの製品には、炭素排出量に応じた課金が求められることになる。建材メーカーにとって、製造過程の脱炭素化は、もはや「環境配慮」にとどまらず、輸出競争力を左右する経営課題となっている。
投資家・ビジネス視点の考察
今回のニュースは、ベトナムの製造業がESG(環境・社会・ガバナンス)対応で具体的な成果を出し始めていることを示す象徴的な事例である。投資家にとっては、以下の視点が重要となる。
ベトナム株式市場への影響:ベトナムでは、ESG関連の情報開示を求める動きが証券取引所レベルで進んでおり、上場企業のサステナビリティ報告の充実が市場の評価向上につながる流れが生まれつつある。繊維セメント板やその他建材セクターの上場企業にとって、ゼロカーボン認定は企業価値の差別化要因となりうる。
FTSE新興市場指数への格上げとの関連:2026年9月に決定が見込まれるFTSE新興市場指数への格上げに際して、ベトナム市場のESG基準への対応状況は、海外機関投資家が資金配分を検討する上での判断材料の一つとなる。ゼロカーボン工場のような具体的成果は、ベトナム市場全体の「投資適格性」を高める材料として間接的にプラスに作用する。
日本企業への示唆:ベトナムに生産拠点を持つ日本企業にとって、サプライチェーン全体での脱炭素が求められる潮流の中、現地パートナーやサプライヤーがゼロカーボンを達成しているかどうかは調達戦略上の重要な要素となる。特に、クアンチ省を含むベトナム中部は、再生可能エネルギーの賦存量が豊富な地域であり、グリーン製造拠点としての立地優位性が今後さらに注目される可能性がある。また、バイオマスボイラーや産業用EV、再エネ関連設備の分野では、日本企業が持つ技術・製品の輸出機会も広がると考えられる。
ベトナムが「世界の工場」としての地位を強化する中で、単なるコスト競争力だけでなく、脱炭素対応力が新たな競争軸となりつつある。今回のクアンチ省の事例は、その転換点を象徴するニュースといえるだろう。
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出典: 元記事












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