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ベトナムの商業銀行におけるUSD売買レートのスプレッド(買値と売値の差)が拡大傾向にある。5月29日時点で大半の銀行が220〜300ドンの差を維持する一方、キエンロン銀行(KienlongBank)では現金取引で1,025ドンという突出した開きが確認された。売値が中央銀行の設定する上限(トランティジア=天井レート)に張り付く中、買値だけが広範に引き下げられるという構図が鮮明になっている。
中央銀行の基準レートと市場の動き
5月29日、ベトナム国家銀行(中央銀行)が公表した中心レート(ティジアチュンタム)は25,139ドンで、前営業日比2ドン高、5月25日比では3ドン高となった。これに伴い、±5%の変動幅の上限にあたる天井レートは26,395ドンに引き上げられている。
インターバンク市場(銀行間市場)では、USD/VNDレートは26,321ドンで、前日比0.03%安、前週比0.18%安と小幅に下落した。ただし前年同期比では1.17%のドン安水準にある。一方、ドルの総合的な強さを示すDXY指数は99.09ポイントで、日次では0.07%上昇したものの、週次では0.15%低下、前年同期比でも0.19%低い水準であった。
売値は天井に「釘付け」、買値は広範に低下
商業銀行のUSD売値は、現金・送金ともに大半が天井の26,395ドンに設定されている。わずかに下回ったのはインドヴィナ銀行(Indovina、26,390ドン)、MBV(26,391ドン)、HDBank・HSBC・VietBank(26,393〜26,394ドン)など一握りに過ぎない。
対照的に、買値はばらつきが大きい。現金での買値は26,090〜26,155ドン、送金での買値は26,115〜26,165ドンが主流であった。最も高い買値を提示したのはHSBCで、現金・送金とも26,170ドン。最も低かったのがキエンロン銀行で、現金25,370ドン、送金25,400ドンと、他行を大きく下回った。
週間推移:買値が20〜45ドン幅で下落
5月25〜29日の一週間を通じて、中心レートは25,136ドンから25,139ドンへ3ドン上昇した。注目すべきは、売値がほぼ26,394〜26,395ドンで「固定」されたまま動かなかった一方、多くの銀行で買値が20〜45ドン引き下げられた点である。この結果、スプレッドは週を通じて拡大基調をたどった。
スプレッドが比較的小さかったのはOCB(193ドン)、HSBC(224ドン)など。UOB、TPBank、ナムアー銀行(Nam A Bank)は320〜345ドンとやや広め。そしてキエンロン銀行は現金ベースで1,025ドン(25,370〜26,395ドン)、送金ベースで995ドン(25,400〜26,395ドン)と、システム全体で突出して大きいスプレッドを記録した。
自由市場(闇レート)との比較
5月29日の自由市場(いわゆる「チョーデン」=ブラックマーケット)では、買値が26,380〜26,401ドン、売値が26,420〜26,521ドンで推移した。スプレッドは40〜120ドンと銀行より狭い。売値は銀行の公式レートより25〜131ドン高く、買値に至っては210〜306ドン高い水準にあった。これは、銀行が買値を意図的に引き下げている(=ドル買いに消極的)ことの裏返しでもある。
投資家・ビジネス視点の考察
今回の動きにはいくつかの重要な示唆がある。
第一に、銀行のドル流動性への警戒感である。売値を天井に張り付けつつ買値を引き下げるのは、銀行がドル売りポジションを極力抑えたい、あるいはドル在庫を厚めに保持したいという意図を反映している。米国の関税政策や貿易交渉の不透明感が続く中、ベトナムの銀行セクターが為替リスクに対して慎重姿勢を強めていることがうかがえる。
第二に、日系企業を含むベトナム進出企業への実務的影響である。スプレッドの拡大は、企業が送金や決済を行う際の実質コスト増に直結する。特に頻繁にドル建て取引を行う製造業・輸出入企業にとっては、取引銀行の選定がこれまで以上に重要になる。HSBCのように狭いスプレッドを提示する外資系銀行と、キエンロン銀行のように1,000ドン超のスプレッドを設定する中小銀行では、取引コストに大きな差が生じる。
第三に、株式市場との関連である。為替の安定はFTSE新興市場指数への格上げ(2026年9月決定見込み)に向けた重要な要件の一つである。中央銀行が中心レートを大きく動かさず、天井レート付近での安定を維持している点はポジティブに評価できる。一方、自由市場との乖離や銀行間でのスプレッド格差の拡大は、為替市場の「歪み」として海外投資家の目に映る可能性もあり、注視が必要である。
銀行株への影響という観点では、スプレッド拡大は為替関連収益にはプラスだが、ドル流動性の逼迫を示唆するシグナルとも取れる。VCB(ベトコムバンク)やBID(BIDV)など大手国有銀行の為替ポジション動向を引き続きフォローすべきである。
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