こんにちは、ベトナム経済&株式投資ニュース解説のベトテク太郎です。
「利益は2倍になったのに、なぜキャッシュフローはマイナスなんだ?」
F88(UPCoM:F88)の2025年決算を眺めながら、私はそんな疑問が頭をぐるぐると回りました。ベトナムの消費者金融セクターの中でも、このF88という会社は本当に独特の存在で、上場直後から株価が40%急騰するわ、その後55%以上暴落するわ、そして今年ホーチミン証券取引所(HOSE)への移籍を狙っているわで、目が離せない銘柄になっています。
ハノイで13年間暮らしていると、バイクのタイヤを担保にお金を借りる人たちの姿を街中でよく見かけます。そういう「銀行では相手にされない層」にお金を貸すのがF88のビジネスで、いわゆる「手頃な価格の金融(アフォーダブル・ファイナンス)」と呼ばれる分野です。現在、全国に約949店舗を展開し、今年中に1,000店舗達成を目標に掲げています。
今回は、このF88のHOSE上場前夜に当たる現在の財務状況を、利益・キャッシュフロー・不良債権の三つの軸から整理してお伝えします。
利益は回復、しかし道のりは平坦ではなかった
F88の業績の歴史は、まるでジェットコースターのようです。
2022年に2,000億VND超という過去最高利益を達成したかと思えば、翌2023年には5,280億VNDの純損失に転落。これは不良債権への引当金を大量に積んだことと、融資ポートフォリオの質を重視して意図的に貸出を絞った戦略的な結果だったとF88は説明しています。
2024年はその正念場となり、3,620億VNDの純利益を計上。これによって2023年末時点で約2,430億VNDあった累積損失が完全に解消されました。総資産は5兆880億VNDに達し、融資残高は前年比27%増の2兆9,000億VNDを超えました。
そして2025年、F88は本格的な飛躍の年を迎えます。サービス収益は3兆1,050億VNDと前年比36.1%増。粗利益は1兆1,930億VNDと90.3%増という驚異的な伸びを記録しました。税後純利益は7,190億VNDで、前年比104.9%増——つまり利益がほぼ倍増した計算です。
数字だけ見れば、文句のつけようがない回復ぶりです。
ところが、である。
「利益は増えてもキャッシュが増えない」という現実
投資をしていると、利益とキャッシュフローは別物だということを痛感させられる場面があります。F88の2025年はまさにその典型例です。
2025年通年の事業活動によるキャッシュフローはマイナス1兆7,520億VNDとなりました。これは2024年のマイナス額の約2.9倍です。利益が2倍になっているのに、キャッシュの流出は3倍近くに膨らんでいる。
なぜこんなことが起きるのか。F88の場合、消費者金融という事業の性格上、貸付を増やせば増やすほど運転資本が必要になります。2025年に融資残高が54%増の5兆6,320億VNDに急拡大しているわけですから、その資金を調達し続けなければならないわけです。投資キャッシュフローと財務キャッシュフローで7,400億VND、6,615億VNDを補っていますが、その大半は借入と債券発行によるものです。
2026年第1四半期でも、営業キャッシュフローは400億VND超のプラスに転じたものの、投資・財務両方のキャッシュアウトが重なり、純キャッシュフローは700億VND超のマイナス。期末時点の手元現金は約467億VNDまで減少しています。
会計上の「利益」と財布の中の「現金」が大きくかい離している——これは成長期の消費者金融会社によく見られる構造的な特徴ですが、それでも注意深く見続ける必要があるポイントです。
不良債権7.83%という数字をどう読むか
2025年末時点で、F88の不良債権(延滞融資)総額は4,415億VNDを超え、前年比55%増加しました。融資残高の増加率(54%)とほぼ同水準で不良債権も増えているため、不良債権比率は約7.83%でほぼ横ばいとなっています。
比率が横ばいだから問題ない、と単純に言えないのがこの数字の難しいところです。
不良債権の内訳を見ると、31日から90日延滞のローンが全体の60%以上を占めており、11日から30日延滞のローンも約1,700億VNDに上っています。これらはまだ「要注意」段階ですが、借り手の収入状況や担保価値が悪化すると、すぐにより深刻なカテゴリへと再分類されるリスクがあります。
実際にF88は2025年に貸倒引当金を46.2%増の714億VNDに積み増し、不良債権の引当・処理に使われた総額は約1兆30億VNDにも上りました。そのうち9,805億VNDが90日超延滞のリスク対処に充てられています。
「利益が増えているのに引当金コストも増えている」という状況は、成長の陰にある信用リスクがじわじわと顕在化していることを示しています。
株価の乱高下と、HOSE上場という次の一手
F88は2025年8月8日にUPCoMで取引を開始しました。基準価格は1株63,490VND(旧単位からの換算後)、上場初日に40%の上限まで急騰し、時価総額は約7兆3,000億VNDに達しました。
その後の値動きは荒々しいものでした。2025年8月から11月は低迷、11月末から上昇が始まり、2026年1月後半には一時30万VND超に迫る水準まで急騰しました。ところがその後急速に調整し、3月初旬には12万〜13万VND付近まで下落。ピーク比で55〜60%の下落というかなり激しい動きです。
2026年5月29日時点の株価は162,100VNDで、9営業日の平均売買高は約14万9,000株となっています。
ここで注目したいのが、今年末を目処に予定されているHOSE(ホーチミン証券取引所)への移籍計画です。UPCoMに上場してまだ1年も経っていないこのタイミングでのHOSE移籍は、規制当局のすべての条件を満たしたからだとF88は説明しています。HOSEへの移籍は、機関投資家や外国人投資家からの認知度向上、株式流動性の改善、そして上場企業としてのガバナンス基準の引き上げに直結します。
ベトナム市場が2026年9月21日のFTSEラッセル新興国指数への正式昇格を控えるこの時期に、HOSE移籍のタイミングを合わせてきたともとれる動きで、市場参加者の注目が集まっている理由の一つでもあります。
ファイナンスの本質をF88は問いかけてくる
F88は今、会計上の「利益」という指標では確かに回復し、次のステージへ進もうとしています。しかし「キャッシュが増えているか」「不良債権がコントロールされているか」という問いに対しては、まだ明確なお墨付きを出しにくい状況です。
消費者金融のビジネスは、規模が大きくなれば大きくなるほど、より多くの資金調達が必要になり、より多くの信用リスクを抱えます。それでも社会的に必要な金融サービスを提供し、約950店舗を通じてベトナムの小さな街の片隅まで融資網を広げてきた事実は、それ自体として意味があると私は見ています。
「利益とキャッシュフローは別物」「比率が横ばいでも絶対額が膨らんでいる不良債権は油断できない」——この二つの視点でF88を引き続き観察していくことが、HOSE上場前後の局面では特に重要になりそうです。
そういうことなんです。
いかがでしたでしょうか。今回のF88の財務分析について、皆さんのご意見もぜひお聞かせください。コメント欄や@viettechtaroのDMでお待ちしています。
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