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ベトナムの大手商業銀行サコムバンク(Sacombank、ホーチミン証券取引所上場・ティッカー:STB)が、不動産開発会社LDGグループ(LDG Investment、ティッカー:LDG)の大型プロジェクト「Viva City」(ドンナイ省)に対し、500件以上の「ソードー」(sổ đỏ=土地使用権証明書、いわゆるベトナム版の権利書)を差し押さえ・回収する決定を下した。LDGが数百億ドン規模の債務返済義務に違反したことが直接の原因である。ベトナム不動産市場が回復途上にある中で発生したこの案件は、業界全体に波紋を広げる可能性がある。
事件の概要——数百億ドンの債務不履行が引き金
サコムバンクの発表によると、LDGグループはViva Cityプロジェクトに関連してサコムバンクから融資を受けていたが、契約上定められた返済スケジュールを履行できず、債務不履行の状態に陥った。未返済額は数百億ドン(hàng trăm tỷ đồng)に上るとされる。これを受け、サコムバンクは担保権を行使し、同プロジェクトに含まれる500件超の土地使用権証明書を回収・処分する方針を決定した。
ベトナムにおいて「ソードー」は不動産取引の根幹をなす極めて重要な書類である。土地は国家の所有であり、個人や法人に認められるのは「土地使用権」であるため、この証明書がなければ売買・譲渡・担保設定などの法的行為は事実上不可能となる。つまり、500件以上のソードーが銀行に差し押さえられるということは、それに対応する区画の購入者あるいは投資家が、権利の行使を大幅に制限される事態を意味する。
Viva Cityプロジェクトとは
Viva Cityは、ベトナム南部ドンナイ省(Đồng Nai)に位置する大規模な都市開発プロジェクトである。ドンナイ省はホーチミン市の東隣に位置し、ロンタイン国際空港(2025年末に第1期開業予定とされてきた新空港)の建設地としても知られる。この地域はホーチミン市のベッドタウンとして急速に都市化が進んでおり、多くの不動産デベロッパーが進出してきた。LDGグループもこの成長を見込んでViva Cityを開発していたが、不動産市場全体の冷え込みと資金繰りの悪化が重なり、プロジェクトは深刻な経営危機に直面している。
LDGグループは近年、法的トラブルにも見舞われてきた。同社の元会長が法律違反で起訴されるなど、経営ガバナンスの問題も浮上しており、投資家からの信頼は大きく損なわれている。ホーチミン証券取引所(HOSE)に上場するLDG株はここ数年で大幅に下落し、時価総額も縮小の一途をたどっている。
サコムバンク(STB)の立場と不良債権処理
サコムバンクはベトナムの主要商業銀行の一つであり、かつて不良債権比率の高さから経営再建を余儀なくされた過去を持つ。近年は不良債権の処理を着実に進め、収益性の改善が顕著であった。今回の担保権行使は、同行が不良債権の整理を引き続き積極的に推進していることの表れともいえる。
ただし、500件以上のソードーを一括で処分することは容易ではない。ベトナムの不動産市場は2022年後半以降、資金繰りの悪化・社債市場の混乱・開発許認可の遅延など複合的な問題に直面しており、担保不動産を市場価格で売却できるかは不透明である。サコムバンクにとっても、回収額が融資残高を大きく下回るリスクは存在する。
購入者・投資家への影響
最も深刻な影響を受けるのは、Viva Cityの物件をすでに購入済み、あるいは購入手続きの途中にある個人の購入者たちである。ソードーが銀行に差し押さえられた場合、購入者が正式な権利書を受け取れない可能性が高い。ベトナムではこうした「権利書未交付」のトラブルが社会問題化しており、各地で購入者による抗議活動が発生している。
LDGグループが経営を立て直し、サコムバンクへの債務を返済できれば差し押さえは解除される可能性もあるが、現在の同社の財務状況を考えると、その見通しは厳しいと言わざるを得ない。
投資家・ビジネス視点の考察
ベトナム不動産セクターへの警鐘:今回のケースは、ベトナム不動産市場に残るリスクを改めて可視化するものである。2024年後半から一部のセグメント(都心部のマンションなど)では価格回復の兆候が見られるものの、地方の大規模開発プロジェクトや中小デベロッパーの経営難は依然として深刻である。投資家は個別プロジェクトの財務健全性とデベロッパーの信用力を慎重に見極める必要がある。
銀行セクターへの影響:サコムバンク(STB)にとっては、不良債権処理を断行する姿勢が評価される一方、担保資産の売却損が発生するリスクもある。ベトナムの銀行株は2026年に入り概ね堅調だが、不動産向け融資の引き当て状況には引き続き注視が必要である。STBだけでなく、不動産融資比率の高い他の商業銀行(VPBank、TPBank、Techcombankなど)にも波及的な警戒感が広がる可能性がある。
FTSE新興市場指数への格上げとの関連:ベトナムは2026年9月にFTSE新興市場指数への格上げが決定される見込みであり、それに伴い海外からの資金流入が期待されている。しかし、こうした不動産関連の不良債権問題が頻発すれば、銀行セクターの信用リスク評価に影を落としかねない。格上げの恩恵を最大限に享受するためには、金融システムの透明性・健全性を示し続けることが不可欠である。
日本企業・投資家への示唆:ベトナム南部の工業団地や住宅開発に関心を持つ日本企業は多い。特にドンナイ省はロンタイン空港の開発効果を見込んだ投資先として注目されてきた。今回の件は、ベトナムでの不動産投資における法的リスク(土地使用権の仕組み、デベロッパーの信用調査、担保設定の確認など)を改めて認識させるものである。進出を検討する日本企業にとっては、現地の法務・金融アドバイザーとの連携が重要であることを再認識すべきケースだ。
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