こんにちは、ベトナム経済&株式投資ニュース解説のベトテク太郎です。
ハノイの朝の通勤をご存知でしょうか。8時台のホアンキエム湖周辺は、バイクとタクシーと配車アプリのGrab、そこにバスが割り込んでくる。ウインカーの概念はほぼ存在せず、横断歩道は「目が合ったら止まる」という暗黙のルールで運営されています。
そんな道路を自動運転で走らせようとしている会社があります。VinFastです。
2026年6月1日、台湾で開催されたCOMPUTEX 2026のNVIDIA GTC Taipeiイベントにおいて、VinFastはNVIDIAおよびAutobrainsとの戦略的パートナーシップを正式に発表しました。目標はレベル4のロボタクシープログラムの開発と、東南アジアを起点にしたグローバル展開です。
これは「絵に描いた餅」ではないかもしれない
正直に言うと、ベトナム企業の「大型提携発表」には慎重に向き合うようにしています。ハノイ在住13年で、派手なプレスリリースが静かに消えていくのを何度か目撃してきました。
ただ今回は、少し毛色が違います。
注目すべきは相手がNVIDIAだという点です。半導体AIインフラの頂点に立つ企業が、ベトナムのEVメーカーと正式な技術提携を結んだ。NVIDIAの自動車部門担当副社長は「NVIDIA DRIVE Hyperion 10プラットフォームの上で開発することで、複雑な交通状況に適した安全な自動運転車の開発を加速させ、ソフトウェア定義型車両のトレンドを推進できる」とコメントしています。NVIDIAがここまで具体的な言葉を出すのは、それなりの技術的根拠があるからでしょう。
もう一社のAutobrainsは、今回の提携で重要な役割を担います。従来の自動運転が「エンドツーエンドモデル」――つまり大量の計算リソースを常時フル稼働させる方式だったのに対し、AutobrainsのAgentic AI技術は「本当に必要な場面でのみ複数の専用AIエージェントを起動する」という設計思想をとっています。これにより処理の高速化と計算コストの最適化が同時に実現するという。AutobrainsのCEOは「商用車における大規模処理向けに設計されたAIエージェントを適用した初のレベル4ロボタクシープラットフォームだ」と断言しています。
「最悪の道路」が最強の試験場になる逆転の発想
ここで少し脱線させてください。
自動運転の難しさは、整備された道路で「うまく動く」ことではなく、予測不能な状況に対処できるかどうかです。カリフォルニアの道路でしか試験していないシステムが、ハノイの交差点では機能しないことは容易に想像できます。
逆に言えば、ハノイやホーチミンの交通環境を制覇できたシステムは、世界のほとんどの都市で通用する可能性があります。VinFastの自動運転機能開発部門副部長は「東南アジアのダイナミックな実世界の交通環境において、費用対効果の高いアプローチを段階的に構築している」と述べています。「段階的に」という言葉が現実的で、かえって信頼感があります。
混沌こそが資産である――そういうことなんです。
「どの株を買えばいいの?」という疑問に答える
前回の記事を読んだ方から、おそらく次のような疑問が湧いたのではないでしょうか。「それで、どの株を買えばいいの?」そして次の瞬間にこんな混乱も生まれるはずです。「VinFastってベトナムの会社なのに、なぜNASDAQに上場してるの? ベトナム株で買えないの?」
ここを整理しておきます。
VinFast Auto Ltd.(ティッカー:VFS)は、2023年8月にアメリカのNASDAQに上場したベトナム発のEVメーカーです。本社はハノイ近郊のハイフォンに置き、製造拠点もベトナムにありますが、株式はNASDAQで取引されています。つまり、日本の投資家がSBI証券や楽天証券の米国株口座から購入できる銘柄であり、ベトナムのHOSE(ホーチミン証券取引所)やHNX(ハノイ証券取引所)では購入できません。
2026年5月末時点でVFSは3ドル台後半で推移しており、直近四半期の純損失は約13億ドルと、損失が継続している状況にあります。2025年通年でのEV納車台数は約19万7,000台、売上高は約36億ドルと規模は拡大していますが、「将来の可能性は大きいが、現時点での財務体力は厳しい」というのが市場の合意に近い見方です。
VICとVFSの関係、VN-Indexへの視点
では「ベトナム株でVinFast関連に投資したい」という方が実際にHOSEで取引できる銘柄として存在するのが、Vingroup(VIC)です。
VingroupはベトナムのHOSEに上場するコングロマリットで、不動産(Vinhomes)、医療(Vinmec)、教育(VinUni)など多角的な事業を展開し、VinFastはその子会社にあたります。VingroupはVN-Index最大の時価総額銘柄であり、2026年5月時点での株価は22万〜23万VND近辺、時価総額は1,700兆VNDを超えています。2026年1月には19万VNDという史上最高値を記録し、1年で300%超の上昇を経験した銘柄でもあります。
簡単に言うと、VingroupはVinFast(VFS)の親会社として資金を供給し、Vinhomesが稼いだキャッシュをVinFastが使う、という構造が続いています。
タイ湖(Tay Ho)周辺を歩いていると、Vinhomesのタワーマンションが林立していることに気づきます。週末にはベトナム中産階級の家族連れがショッピングモールで買い物をし、Vinmecの病院には外資系企業の駐在員が通っています。VingroupはVinFastのニュースで語られる以上に、ベトナム人の日常生活に深く根ざしている会社です。それが「VingroupはVN-Indexそのものだ」と言われる所以でもあります。
VICに投資すれば今回の自動運転ニュースの恩恵を受けられるのかという問いに対しては、「一部は受けられるが、話はより複雑だ」というのが正直なところです。VinFastがロボタクシー事業で実績を積んでいけば、VingroupがAI・テクノロジー企業としての評価を得る可能性はあります。また、VinFastの国内実証実験が進めば、ベトナムのIT・テクノロジーセクター全体への注目度が増すという間接的な効果も考えられます。ただし、これはあくまで私個人の見立てであり、投資判断はご自身の責任でお願いします。
「レベル4」について冷静に言うと
最後に、一つ冷静な視点も加えておきます。
「レベル4自動運転」は、完全に人が介在しないシステムを指します。世界でも実用化しているのはWaymo(Google系)やBaidu(アポロ計画)など、十数年の開発投資を続けてきたプレイヤーに限られます。VinFastはNVIDIA DRIVE Hyperion 10を基盤としてコスト効率の高いアプローチを目指すと発表しましたが、量産・商用化までのロードマップはまだ詳細には開示されていません。
「発表した」と「商用化できた」の間には、巨大な谷があります。ハノイの道路を実際に走ったことがある人間として言わせてもらえば、あの交通環境を本当に自律走行できるシステムを作ることは、技術的に世界最高難度の挑戦の一つです。逆に言えば、もしVinFastが本当にそれを実現したなら、グローバル展開の切り札になりえる。
今は「プレイヤーとして本気だ」という宣言の段階として受け取り、実証データが出てくるまでは継続観察の姿勢でいるのが、長期投資家としての賢明な立ち位置だと個人的には考えています。そういうことなんです。
いかがでしたでしょうか。今回のVinFast×NVIDIA提携とベトナム株への見方について、皆さんのご意見もぜひお聞かせください。コメント欄や@viettechtaroのDMでお待ちしています。
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