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ベトナム最高人民裁判所の裁判官評議会は2025年6月1日、企業破産手続きにおける資産散逸を防止するための緊急暫定措置を詳細に規定した決議02号(02/2026/NQ-HĐTP)を公布した。2026年3月1日施行の「企業再建・破産法」を補完するもので、破産企業の関係者に対する出国禁止命令や口座凍結など、強力な措置が裁判所の判断で迅速に適用可能となる。ベトナムでビジネスを展開する日系企業にとっても、債権回収や取引先リスク管理の観点から見逃せない制度変更である。
決議02号の概要—誰が、どのように緊急措置を請求できるか
決議02号によれば、破産手続きの適用申請の過程において、企業再建・破産法第38条に基づき申立権・義務を有する者、管財人(クアン・タイ・ビエン)、および資産管理・清算を担う企業が、管轄裁判所に対して一つまたは複数の緊急暫定措置の適用を求めることができる。これらの措置は、企業や協同組合の資産保全、労働者の権利・正当な利益の保護、そして破産手続き自体の円滑な遂行を目的としている。
特に注目すべきは、「緊急事態」において深刻な結果を防止する必要がある場合、破産手続きの申請と同時に緊急暫定措置の適用を進めることが可能とされた点である。従来、手続きの順序が厳格に運用される傾向があったが、この規定により、資産隠匿や国外逃亡といった事態への即応性が大幅に向上する。
具体的な緊急暫定措置の内容
決議02号が列挙する緊急暫定措置は多岐にわたる。主なものは以下の通りである。
①腐敗・劣化しやすい資産の売却許可:生鮮食品や分解しやすい物品、ガソリン・石油・液化ガスなどの可燃・爆発性物質、使用期限が60日未満の医薬品・動物用医薬品・農薬など、適時に売却しなければ価値を失う商品について、裁判所が売却を許可する措置である。破産手続きの長期化により資産価値が毀損されることを防ぐ実務的な規定といえる。
②企業・協同組合の資産の差押え・封印:不動産や動産を含む企業資産を差し押さえ、現状を保全する措置である。
③金融機関における口座凍結:企業や協同組合が銀行等の信用機関に保有する口座を凍結し、資金の流出を防止する。
④第三者に預けられた資産の凍結:企業の資産が他の個人・組織に預けられている場合、当該資産を凍結する措置も含まれる。
⑤倉庫・金庫の封印、会計帳簿・関連書類の押収・管理:倉庫や金庫、会計帳簿などの原状維持が必要な場合に適用される。証拠隠滅や帳簿改ざんを防ぐ上で極めて重要な措置である。
⑥資産の引渡し命令:企業や協同組合の資産が違法に占有されている場合、または担保権者が債務弁済のための担保資産の受領を拒否している場合に、強制的な引渡しを命じることができる。
⑦特定行為の禁止・強制:関連する企業・協同組合・個人・組織に対し、破産処理や他者の正当な利益に影響を及ぼす特定の行為を禁止、または実行を強制する包括的な措置である。
⑧労働者の医療保険料の強制納付:使用者に対し、労働者の医療保険料(事業主負担分および給与から控除済みの労働者負担分)を納付させ、速やかに医療保険証を発行させる措置も規定されている。破産の局面で最も弱い立場に置かれる労働者の保護を明確に打ち出した点は、ベトナムの労働者保護政策の強化を象徴するものである。
出国禁止措置—最高裁が示した具体的事例
決議02号の中でも特にインパクトが大きいのが、破産関連紛争の当事者に対する出国禁止措置の適用である。最高裁はこれを具体的な事例で説明している。
事例では、企業Aの破産処理の過程で、企業AがB氏に対し100億ドンの損害賠償を求める訴訟を提起したケースが挙げられている。B氏はベトナム国内に代理人も資産も持たず、出国手続きを進めていたため、企業Aが裁判所にB氏への出国禁止の緊急暫定措置を申請した。この場合、裁判所は民事訴訟法第128条を根拠として、B氏に対する出国禁止措置を適用できるとされている。
この事例は、外国人を含む個人が破産企業に対して多額の債務を負っている場合に、国外逃亡による債権回収不能リスクを裁判所が積極的に防止できることを示している。ベトナムで事業を行う外国人経営者にとっても、この規定の存在は十分に認識しておく必要がある。
企業再建・破産法の背景
今回の決議02号が補完する「企業再建・破産法」(Luật Phục hồi, phá sản)は、2026年3月1日に施行される新法である。従来の2014年破産法を全面的に改正したもので、税務機関や社会保険機関が破産手続き申請を行う権限と責任を明確に規定した第38条をはじめ、多くの重要な改正点を含んでいる。ベトナムでは近年、不動産市場の調整や社債市場の混乱を経て、企業の債務不履行や実質的な経営破綻が増加してきた。しかし、旧法下では破産手続きの件数が極めて少なく、制度が十分に機能していないとの指摘が国内外から寄せられていた。新法と今回の決議は、こうした課題に正面から取り組み、破産制度を実効性のあるものへと転換しようとする動きの一環である。
投資家・ビジネス視点の考察
今回の決議02号は、ベトナムの法制度の透明性と予見可能性を高める重要なステップである。以下の観点から、投資家やベトナム進出企業は注目すべきである。
ベトナム株式市場への影響:破産手続きにおける資産保全の強化は、債権者保護の観点から市場の信頼性向上に寄与する。特に銀行セクターにとっては、破産企業からの債権回収率の改善期待につながり、不良債権リスクの軽減要因となり得る。VCB(ベトコムバンク)、BID(BIDV)、CTG(ベトインバンク)といった国有商業銀行や、TCB(テクコムバンク)、MBB(MBバンク)など民間大手行の資産の質に対する評価にプラスに働く可能性がある。
日系企業への影響:ベトナムに進出している日系企業にとって、取引先が破産した場合の債権回収手段が強化されることは朗報である。一方で、日本人経営者や駐在員が現地法人の債務に関連して出国禁止措置の対象となるリスクも理論的には存在するため、コンプライアンス体制の確認と法務アドバイザーとの連携がこれまで以上に重要となる。
FTSE新興市場指数への格上げとの関連:2026年9月に決定が見込まれるベトナムのFTSE新興市場指数への格上げにとって、法制度の整備と投資家保護の強化は不可欠な要素である。破産法制の近代化と実効性向上は、制度面での評価を底上げする材料の一つとなる。グローバル投資家が重視する「法の支配」や「債権者の権利保護」の面で、ベトナムが着実に改善を進めていることを示すシグナルである。
ベトナム経済全体のトレンド:ベトナム政府はここ数年、企業統治や市場規律の強化を急速に進めてきた。2024年の証券法改正、2025年の新土地法施行、そして2026年の企業再建・破産法施行と、制度インフラの整備が加速している。これらは短期的にはビジネス環境の不確実性を高める面もあるが、中長期的にはベトナム市場の成熟度を高め、海外資金の流入を促す基盤となるものである。
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