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ベトナム政府は2026年7月15日施行の政令第192/2026/NĐ-CP号を公布し、医療分野における特殊手当を大幅に引き上げることを正式に決定した。24時間当直手当、手術手当、感染症防疫手当、さらに村落レベルの医療従事者への月額支援金まで、包括的な処遇改善が図られる。慢性的な医療人材の流出に悩むベトナムにとって、公的医療機関の魅力向上を狙った重要な政策転換である。
24時間当直手当:施設等級に応じた4段階
今回の政令では、平日に24時間当直を行う医療従事者に対し、勤務先の医療施設の等級と業務内容に応じて以下の4段階の手当が設定された。
第1段階:32万5,000ドン/人/当直回
対象は特別等級および第I等級の医療施設、中央法医精神医学院、中央法医精神医学院ビエンホア支院(ドンナイ省に所在)である。これらはベトナムの医療体系の最上位に位置する大規模病院群だ。
第2段階:25万5,000ドン/人/当直回
対象は第II等級の医療施設のほか、地域法医精神医学センター、国防省傘下の軍法医学院、公安省刑事科学院傘下の法医鑑定センター、さらに国家臓器移植調整センター(臓器の摘出・輸送・保管に関する調整当直が対象)などである。
第3段階:18万5,000ドン/人/当直回
上記以外の医療施設全般に適用される。具体的には省級公安の刑事技術課における法医業務担当者、公立の病院前救急施設(救急拠点での当直)、社(コミューン)レベルの保健所、軍民共用診療所、人民公安の診療所、保健省直轄の公立社会福祉施設などが含まれる。
第4段階:7万ドン/人/当直回
功労者向けの介護・療養施設、その他の公立社会福祉施設に適用される。
特別区域・休日の割増率
上記の基本手当に対し、以下の割増が適用される。
- 特別科・特別区域での24時間当直:基本額の1.5倍
- 週休日の24時間当直:基本額の1.3倍
- 祝日・テト(旧正月)期間の24時間当直:基本額の1.8倍
また、12時間シフトの場合は24時間当直手当の50%、16時間シフトの場合は75%が支給される。24時間当直者には手当とは別に食事補助として4万ドン/人/当直回が支給される。
さらに、常駐当直制度に基づく勤務者には、施設等級に応じて3万5,000ドンから16万ドン/人/当直回の手当が支給される。
手術手当:術式の難易度に応じた段階制
専門的な医療行為に対する手当も明確に規定された。手術手当は術式の種類に応じて設定され、主刀医(執刀医)および主たる麻酔・蘇生担当者、または主たる鍼麻酔担当者には、10万ドンから56万ドン/人/手術の範囲で支給される。
助手として手術に参加する者(副執刀医、副麻酔担当など)には6万ドンから40万ドン/人/手術、手術の補助業務を行う者には4万ドンから24万ドン/人/手術が支給される。なお、処置(手技)に対する手当は、同等の手術手当の30%と定められた。
感染症防疫手当:疾病分類に応じた体系
感染症対策に従事する人員に対する防疫手当も体系的に整備された。対象者は2つのグループに分類される。
グループ1:疫学調査・監視、検体採取、検査、感染源処理、感染症患者の診察・治療、感染地域での消毒・除染に直接従事する者。
グループ2:予防接種、検体輸送、患者搬送、機材・薬品の確保、検疫チェックポイントでの勤務、その他の防疫支援活動に参加する者。
感染症の分類に応じた手当額は以下の通りである。
- A類感染症(ペスト、コレラ、エボラなど最も危険な感染症):グループ1が42万ドン/日/人、グループ2が28万ドン/日/人
- B類感染症:28万ドン/日/人
- C類感染症:21万ドン/日/人
週休日は1.3倍、祝日・テト期間は1.8倍の割増が適用される。また、疫病情報が発出された際の24時間常駐防疫当直には平日28万ドン/日/人が支給され、同様に週休日は1.3倍、祝日は1.8倍となる。
ボランティアや協力員がA類感染症の防疫活動に動員された場合、直接的な防疫活動への参加で28万ドン/日/人、啓発活動・チラシ配布・防疫訓練への参加で17万ドン/日/人が支給される。さらに、法令に基づき疫病に関する緊急事態が宣言された場合は、すべての防疫手当および補助金が1.5倍に増額される。
村落レベルの医療従事者への月額支援
政令は、村落(トン)・街区(トーザンフォー)の医療従事者および村落助産師に対する月額支援金についても規定した。支援額は基本給(ベトナム語で「mức lương cơ sở」、公務員給与の算定基準となる基本額)に対する倍率で定められる。
基本給の0.7倍が適用されるのは、350世帯以上の村落、政府が定める困難地域に所在する村落・集落、500世帯以上の街区で勤務する者である。
基本給の0.5倍が適用されるのは、上記以外の村落・集落・街区で勤務する者である。
各省・中央直轄市の人民委員会は、地域の経済社会状況や財政能力に応じて、同級の人民評議会に諮った上で具体的な人数や支援額を決定できるが、国が定めた最低水準を下回ってはならないとされている。
背景:ベトナム医療の人材流出問題
今回の政令の背景には、ベトナムの公的医療機関が長年抱えてきた深刻な人材流出問題がある。新型コロナウイルスのパンデミック以降、過酷な労働環境と低賃金に耐えかねた医療従事者の離職が加速し、2021年から2023年にかけて全国で約4万人の医療従事者が公立病院を退職したとされる。特にホーチミン市やハノイなどの大都市では、民間病院への転職が相次いだ。政府はこうした状況を受け、公的医療従事者の処遇改善を段階的に進めてきたが、今回の政令はその集大成ともいえる包括的な制度設計となっている。
投資家・ビジネス視点の考察
今回の政令は直接的に株式市場を動かすものではないが、以下の観点から注視に値する。
第一に、医療関連銘柄への間接的影響である。公的医療機関の処遇改善は、民間医療機関との人材獲得競争を激化させる可能性がある。ベトナム株式市場に上場する民間病院チェーン(例:ホアンアインザライ病院グループなど)は、人件費上昇圧力を受ける可能性がある一方、公的医療の質が向上すれば民間医療への需要構造にも変化が生じうる。
第二に、財政支出の拡大である。医療従事者への手当増額は国家予算からの支出増を意味する。ベトナム政府は財政健全性を維持しつつ公共サービスの質を高めるという難しいバランスを求められている。2026年9月に予定されるFTSE新興市場指数への格上げ判断に向けて、ベトナムの財政規律は海外投資家から注視されるポイントの一つである。
第三に、日系企業への影響である。ベトナムに進出している日系製造業やサービス業にとって、政府が医療分野の賃金水準を引き上げることは、労働市場全体の賃金上昇トレンドを示唆するシグナルとなる。最低賃金の引き上げとも連動する形で、人件費の中期的な上昇を織り込む必要があるだろう。
第四に、ベトナムの社会保障制度の成熟という文脈である。今回のような細やかな手当体系の整備は、ベトナムが中所得国として制度的な成熟を進めていることの証左であり、長期的な投資先としての信頼性を高める要素となる。
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