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ベトナム北部の主要港湾都市ハイフォン(Hải Phòng)が、夏の観光シーズン幕開けとともに「量」だけでなく「質」の面でも大きな変化を見せている。行政区再編によるハイズオン省(Hải Dương)との統合効果を追い風に、禅(瞑想)ナイトツアーやライチ収穫体験など新たな観光商品を次々と投入し、従来の短期型ビーチリゾートからの脱却を図っている。
行政区統合がもたらす「完璧な補完関係」
ベトナム政府が進める行政区再編(sáp nhập)により、ハイフォン市とハイズオン省が統合された。これにより、一方はカットバ島(Cát Bà)、ドーソン(Đồ Sơn)、バックロンヴィ島(Bạch Long Vĩ)といった海洋・島嶼・港湾都市の観光資源を持ち、もう一方は数千もの文化遺産・寺院・伝統工芸村を擁するという、ほぼ理想的な補完関係が生まれた。東西軸に沿って「ビーチリゾート→都市観光→文化・スピリチュアル→農業・エコツーリズム」という一貫した観光空間の再編が可能になったのである。
インフラ面でも、ハイフォンは高速道路・港湾・空港・鉄道・内陸水路の5種類の交通手段をすべて備える稀有な都市である。ハノイ、クアンニン省(広寧省、ハロン湾を擁する)、ニンビン省(チャンアン景勝地で知られる)と密接に連結しており、直接の観光客受け入れだけでなく、広域周遊ルートのハブ(中継地点)としても機能し得る。
ドーソンが「国際水準の海洋観光回廊」へ
先般開催された学術シンポジウム「新たな発展空間におけるドーソン観光の再認識」において、ハイフォン市文化・スポーツ・観光局のチャン・ヴァン・ゴック(Trần Văn Ngọc)副局長は、ドーソンが国のマクロ戦略的決定によって「新たな発展空間」に位置づけられたと述べた。具体的には、ドーソンをカットバ島群およびハロン湾(Vịnh Hạ Long)と緊密に連結させ、国際水準の海洋観光回廊を形成する計画である。これにより、ドーソンは従来型の海水浴場から、リゾート・エンターテインメント・国際会議の拠点へと段階的に転換を図る。
ベトナム初の「禅ナイトツアー」がドーソンで始動
2025年5月30日夜、旧暦4月15日の仏誕節(ヴェーサーカ祭)に合わせ、ドーソン区はティエン・ツアー・ベトナム(Thiền Tour Việt Nam)と共同で「禅ナイトツアー・ドーソン」のローンチイベントを実施した。ドーソンでは初となる夜間瞑想型観光プログラムであり、世界的に関心が高まるウェルネスツーリズム(健康観光)やヒーリングツーリズム(癒し観光)のトレンドを取り込む重要な試みである。
会場はトゥオンロン塔(Tháp Tường Long)とバーデー廟(Đền Bà Đế)付近のビーチエリアという、文化的・精神的価値と自然景観の両方を兼ね備えた2か所が選ばれた。ドーソン区のファム・ホアン・トゥアン(Phạm Hoàng Tuấn)常任副区長によれば、海・森・丘陵という豊富な自然資源と歴史的価値のある文化・宗教施設を組み合わせることで、文化的深みと健康的価値を兼ね備えた体験型観光商品の構築が可能であるという。
今後は夜間瞑想ツアーに加え、早朝の「日の出瞑想」、養生プログラム、ヘルスケア・ヒーリングプログラムを、ビジネスパーソン、学生、公務員、一般労働者、観光客など幅広い層向けに常設化する方針である。滞在日数の延長と観光付加価値の向上が主な狙いだ。
カットバ島に世界的メディアから熱視線
米国の著名旅行誌コンデナスト・トラベラー(Condé Nast Traveler)は最近、ベトナムを「世界で最もコストパフォーマンスの高いハネムーン先15選」に選出し、その中でカットバ島をベトナムの自然遺産を探索する理想的な拠点として紹介した。同誌は2025年3月にもカットコー3ビーチ(Cát Cò 3)を「世界で最も素晴らしいビーチ」の一つに選定している。さらに2025年11月にはナショナル・ジオグラフィック誌がカットバ島を、ロッククライミング・洞窟探検・海に面した石灰岩壁の踏破を楽しむ「冒険の遊び場」と評した。
カットバ島ではニューラム峰(đỉnh Ngự Lâm)でのトレッキングや、夜間カヤックで海面に浮かぶプランクトンの生物発光を観賞するアクティビティも人気を集めている。旅行口コミサイトTripAdvisorでは、ランハ湾(Vịnh Lan Hạ)の原始的な美しさ、カットバ国立公園の豊かな生態系、静寂なリゾート空間が高く評価されている。
「ライチの里」体験ツアーで季節依存型観光からの脱却
従来、ハイフォンの観光市場は短期滞在型のビーチ観光に大きく依存していた。これに対し、新たに登場した「東方の国のライチ熟す季節(Mùa vải chín Xứ Đông)」ツアーは、観光空間の拡大を目指す画期的な取り組みである。ハイズオン省側のタインハー(Thanh Hà)地区はベトナム有数のライチ産地であり、「スー・ドン(Xứ Đông=東方の地)」と呼ばれるこの地域の文化ブランドを活用している。
ツアーではライチ収穫だけでなく、地元住民とともにライチ花蜂蜜の採取体験、伝統的な手法によるドライライチの製造工程の見学・体験、さらにはライチを使った創作料理(ライチと鴨肉のサラダ、ライチと蓮の実のチェー〔ベトナム風甘味〕など)の試食まで含まれる。既存の物流サプライチェーンを最大限活用し、農業経済と地域文化の発信を両立させるモデルとして注目される。
さらにこのツアーは、コンソン・キエップバック遺跡群(Côn Sơn – Kiếp Bạc、ベトナム三大英雄の一人チャン・フン・ダオゆかりの地)やベトナムの偉大な教育者チュー・ヴァン・アン(Chu Văn An)の祠堂など、東方の地の歴史・宗教遺産とも連携する。「朝はタインハーでライチ狩り、昼は古刹巡り、夕方はランハ湾で夕陽を眺める」——こうした一日完結型の周遊ルートが、季節依存型観光からの脱却と通年集客を実現する鍵として期待されている。
夜の経済圏「ナイトツーリズム」の充実
市の中心部でも、ハイフォンは夜間観光商品の開発を加速させている。「ハンケン(Hàng Kênh)地区の聖なる足跡」と題した文化・スピリチュアルツアー、タムバック湖(Hồ Tam Bạc)沿いの歩行者天国、ヴィンホームズ・ロイヤルアイランド(Vinhomes Royal Island、ベトナム最大手ヴィングループ傘下の大型複合開発)でのイベントなど、多彩なコンテンツを展開中である。フードツアー、シティツアー、伝統芸能のハット・サム(歌謡)、儀式音楽から現代ダンス、ストリートマジックまで、現代性と伝統の融合によって、国内の主要観光都市と競合し得る都市ブランドの構築を進めている。
投資家・ビジネス視点の考察
今回の一連の動きは、ベトナム観光セクターの構造的変化を象徴するものである。いくつかの視点から整理したい。
①関連銘柄への影響:ハイフォン地域の観光インフラ拡充は、ヴィングループ(VIC)傘下のヴィンパール(Vinpearl)やヴィンホームズ(VHM)にとって追い風である。カットバ島やドーソンのリゾート開発が進めば、不動産・ホスピタリティ関連のキャッシュフロー改善が期待できる。また、航空・交通関連ではベトジェット(VJC)やベトナム航空(HVN)、カットビ国際空港の利用増による恩恵も考えられる。
②日本企業への示唆:ウェルネスツーリズムや体験型農業観光は、日本企業が知見を持つ分野である。温泉・瞑想リトリート運営、農業体験プログラムの設計、フードテック分野での協業など、新たなビジネスチャンスが生まれる可能性がある。実際、ハイフォンには多くの日系製造業が進出しており、駐在員やその家族向けの週末観光需要も見込める。
③FTSE新興市場指数格上げとの関連:2026年9月に決定が見込まれるFTSE新興市場指数への格上げが実現すれば、ベトナム市場全体への海外資金流入が加速する。観光セクターの高付加価値化・通年化は、GDP成長の持続性を裏付ける材料となり、格上げ審査においてもプラスに作用し得る。
④マクロ的位置づけ:ベトナム政府は2030年までに観光収入をGDP比10%超に引き上げる目標を掲げている。ハイフォンの事例は、「量から質へ」「季節依存から通年型へ」「単一商品から複合体験へ」という観光政策の方向性を体現するモデルケースであり、今後ダナンやフーコックなど他の観光重点地域にも波及する可能性が高い。
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