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ベトナム最大の経済都市ホーチミン市(旧サイゴン)で、2025年1〜5月の鉱工業生産指数(IIP)が2021年以来、5年ぶりの高い伸びを記録した。特に製造業(加工・組立産業)の回復が顕著であり、コロナ禍後の構造的な回復がようやく本格化してきた兆しとして注目される。
鉱工業生産指数(IIP)が示す力強い回復
ホーチミン市統計局の発表によれば、2025年1〜5月の同市の鉱工業生産指数(IIP)は前年同期比で大幅に上昇し、2021年以降で最も高い伸び率を記録した。IIPは鉱業、製造業、電力・ガス供給などを含む広範な工業活動の動向を測る代表的指標であり、なかでも製造業(工業加工・組立=công nghiệp chế biến – chế tạo)の伸びが全体を牽引している。
ホーチミン市は、ベトナムのGDPの約2割を占める経済の心臓部である。人口約1,000万人を擁し、南部経済圏の中核として外資系企業の集積地でもある。同市の工業生産が力強さを取り戻したことは、ベトナム経済全体の復調を映し出すバロメーターとして極めて重要な意味を持つ。
なぜ「5年ぶり」が重要なのか——コロナ禍からの道のり
2021年は、ホーチミン市がデルタ株による深刻なロックダウンに見舞われた年である。同年7〜10月にかけて厳格な移動制限が敷かれ、工場の稼働停止や労働者の大量帰省が相次いだ。工業生産指数は一時的に急落し、サプライチェーンの混乱はグローバル規模に波及した。その後2022〜2023年にかけて回復基調に入ったものの、世界的なインフレや欧米の利上げに伴う外需の減退が重なり、ベトナムの輸出依存型製造業は苦しい時期が続いた。2024年後半から外需が持ち直し始め、2025年に入ってようやくIIPがコロナ前の成長トレンドを上回る水準にまで戻ってきた格好である。
「5年ぶりの高水準」とは、まさにこの一連のコロナ禍→外需減退→回復という長いサイクルの中で、ホーチミン市の製造業がようやく完全な「正常化」を超えて「再加速」のフェーズに入ったことを意味する。
製造業復調の背景——複数の追い風
今回の回復には、いくつかの構造的な要因が重なっている。
①米中貿易摩擦の恩恵と「チャイナ・プラスワン」の加速
米中間の関税引き上げ合戦が継続するなか、中国からベトナムへの生産移管の動きは衰えていない。ホーチミン市周辺のビンズオン省やドンナイ省を含む南部工業地帯は、電子部品、繊維・アパレル、食品加工などの分野でグローバル企業の受け皿となっている。2025年に入り、これら工業団地の入居率はさらに上昇しているとの報告もある。
②欧米の在庫補充サイクル
2023〜2024年に在庫調整を進めていた欧米の小売・製造業が、2025年にかけて在庫補充を本格化させている。ベトナムからの輸出額も2025年に入って堅調に推移しており、この外需回復がホーチミン市の工業生産を底上げしている。
③ベトナム政府の投資環境整備
ベトナム政府は2025年の目標としてGDP成長率8%以上を掲げ、インフラ投資の加速や行政手続きの簡素化を推進してきた。ホーチミン市でも都市鉄道(メトロ)1号線の開業やリングロード3号の建設進行など、物流・交通インフラの改善が進み、製造業の競争力向上に寄与している。
④FDI(外国直接投資)の継続的流入
日本、韓国、シンガポールなどからの直接投資は引き続き堅調であり、特にホーチミン市及びその周辺の工業団地では新規工場の稼働開始が相次いでいる。日系企業では、電子部品や自動車部品の製造拠点としてベトナム南部を活用する動きが拡大中である。
ホーチミン市の産業構造と製造業の位置づけ
ホーチミン市は金融・サービス業のウエイトが大きい都市であるが、市内及び近郊の工業団地群(サイゴンハイテクパーク、タンビン工業団地、タントゥアン輸出加工区など)には、サムスン、インテルといった大手グローバル企業の工場が集積している。加工・組立型の製造業は雇用の受け皿としても極めて重要であり、IIPの回復は雇用環境の改善や個人消費の押し上げにも波及する。
ベトナム全国のIIPも2025年に入って堅調な推移を見せているが、ホーチミン市の伸び率が全国平均を上回っている点は、南部経済圏の相対的な競争力の高さを改めて裏付けるものである。
投資家・ビジネス視点の考察
【ベトナム株式市場への影響】
ホーチミン市の工業生産回復は、同市に上場する製造業銘柄にとって直接的なポジティブ材料である。ホーチミン証券取引所(HOSE)に上場する工業団地運営企業(キンバック都市開発=KBC、ベカメックスIDC=BCM、ソナドゥジ=SNZなど)は入居率上昇の恩恵を受けやすい。また、食品加工や繊維・アパレル関連のメーカーも受注回復を業績に反映させやすい環境にある。
【FTSE新興市場指数への格上げとの関連性】
ベトナムは2026年9月にFTSE新興市場指数(セカンダリー・エマージング)への格上げが決定される見込みである。格上げが実現すれば、グローバルなパッシブ資金がベトナム市場に流入する。マクロ経済指標の改善——IIPの堅調な伸びはその一つ——は、格上げ審査において「経済のファンダメンタルズの強さ」を裏付ける材料となる。投資家にとっては、格上げ前の仕込み期間として、成長性の高いセクターに注目する意義があるだろう。
【日本企業への影響】
ホーチミン市の製造環境の改善は、同地域に生産拠点を持つ日系企業にとって追い風である。特にJETRO(日本貿易振興機構)の調査でもベトナムは「今後の事業展開先」として常に上位に挙がっており、サプライチェーンの多元化を進める日本企業にとって、ホーチミン市周辺の生産能力回復は安心材料となる。一方で、工業用地の需給逼迫や人件費の上昇といったリスク要因にも引き続き注意が必要である。
【ベトナム経済全体のトレンドにおける位置づけ】
ベトナム政府が掲げるGDP成長率8%以上の達成に向けて、製造業の回復は不可欠なピースである。2025年1〜5月のIIPが5年ぶりの高水準に達したことは、同目標の達成可能性を高める明るいシグナルと言える。今後は、米中関係の動向や世界経済の減速リスク、ベトナム国内の電力供給の安定性など、下半期に向けた不確実性にも目を配る必要がある。
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出典: 元記事












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