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世界最大の半導体受託製造企業TSMC(台湾積体電路製造)のC.C.ウェイCEOが、年次株主総会の場でイーロン・マスク氏の巨大チップ工場構想「Terafab(テラファブ)」に対し「幸運を祈る」と余裕の姿勢を示した。Intel、Samsungを含むあらゆる競合を恐れないと明言し、2026年の売上高30%成長見通しを維持。AI需要の爆発的拡大を背景に、今年は過去最大となる560億ドルの設備投資を計画している。半導体サプライチェーンの中核を握るTSMCの動向は、ベトナムの電子機器製造・半導体関連産業にも大きな影響を及ぼす。
マスク氏の「Terafab」構想に余裕の反応
6月4日に開催されたTSMCの年次株主総会で、ウェイCEOはマスク氏が構想する月産100万枚のウェハーを処理する超大型チップ工場「Terafab」について質問を受けた。ウェイ氏の回答は端的だった。「私は『幸運を祈る』としか言えない。あの計画が現実になるには、かなりの時間がかかるだろう」。
マスク氏はSpaceX(スペースX、宇宙開発企業)のCEOとしても知られるが、近年は半導体の自社製造にも関心を示しており、Terafab構想はその野心の象徴とされる。しかしウェイ氏は、先端半導体の大規模製造には数十年にわたる技術蓄積とノウハウが不可欠であることを暗に示し、新規参入の困難さを強調した形である。
「30〜40年間、競争に勝ち続けてきた」
ウェイ氏はさらに踏み込み、Intel(インテル)やSamsung(サムスン電子)など既存の競合についても言及した。「過去30〜40年間、あらゆる種類の競争に直面してきたが、一度も恐れたことはない。過去にTSMCは勝ってきたし、今後も勝ち続けると確信している」と述べた。
Intelとの関係については興味深い構図が浮かび上がる。Intelは長年TSMCの顧客であり、現在もTSMCの売上上位10社に入る主要顧客である。しかし近年、Intelは自社のファウンドリ(受託製造)事業を強化し、チップの受託製造やパッケージングサービスでTSMCと直接競合する場面が増えている。従来Intelは自社設計のチップを自社工場で製造する垂直統合モデルを採用してきたが、その戦略を大きく転換しつつあるのである。
ウェイ氏はこの点について「Intelからの売上は引き続き確保したいが、同時に自社の知的財産と企業秘密はしっかり守る」と明確に線引きした。競合と顧客という二重の関係を巧みに管理する姿勢が窺える。
チップ価格の急騰には与しない方針
ウェイ氏は部品価格の継続的な上昇がコンシューマーエレクトロニクス業界に圧力をかける可能性についても警告した。特にメモリチップの深刻な供給不足がPC(パソコン)やその他の電子機器の需要に影響を及ぼし始めていると指摘している。
「メモリチップメーカーのように、短期間で400%もの値上げをするつもりはない。正直なところ、彼らの粗利益率80%は羨ましいが、TSMCはそのようなことはしない。それは現実的ではない」とウェイ氏は語り、顧客からの信頼と持続可能な成長の方がはるかに重要であるとの考えを示した。
AI需要が牽引、2026年売上30%増の見通し維持
株主総会でウェイ氏は2026年の業績見通しを据え置き、米ドルベースの売上高が前年比30%増加する可能性があると述べた。この成長を支えるのは、大規模AIコンピューティングインフラに対する空前の需要である。
「我々の顧客、そしてその顧客—主にクラウドサービスプロバイダー—は引き続きポジティブな見通しを示している。AIの大きなトレンドは今後何年にもわたって続くと確信している」とウェイ氏は力強く語った。
TSMCは今年、過去最大となる560億ドルの設備投資を計画している。この巨額投資は、AI向け先端チップの製造能力を大幅に拡充するためのものである。
Nvidiaなど主要顧客のAI攻勢が追い風
日経アジアの報道によれば、TSMCの主要顧客であるNvidia(エヌビディア、米GPU大手)は今週初め、史上最大規模のAIスーパーコンピュータプラットフォームが量産段階に入ったと発表した。このシステムには、AI向けの並列演算処理に特化したGPU「Rubin(ルービン)」、システム全体の制御と汎用処理を担うCPU「Vera(ヴェラ)」、さらにネットワークスイッチチップなど多種多様な重要チップが搭載されており、そのすべてがTSMCで製造されている。
また、NvidiaとMediaTek(メディアテック、台湾の半導体設計大手)はPC市場への本格参入計画も発表しており、「自律型AI」—ユーザーに代わって自ら計画を立て複数のタスクを実行するAIシステム—の時代を見据えた動きを加速させている。
さらに、Arm(アーム、英半導体設計企業)、Marvell(マーベル、米半導体企業)、Qualcomm(クアルコム、米半導体大手)といったTSMCの主要顧客も、データセンターやPC向け最新プロセッサの製造において、TSMCを不可欠なパートナーと位置づけている。
従業員ボーナス配分率は引き下げ、ESG投資を拡大
一方、TSMCは利益からの従業員ボーナス配分率を12%から10%に引き下げた。この背景には、環境・社会・ガバナンス(ESG)関連の支出増加があり、特に再生可能エネルギーへの投資が含まれている。TSMCは2040年までに使用電力の100%を再生可能エネルギーで賄う目標を掲げている。
一部の従業員から不満の声が上がっていることについて、ウェイ氏は「配分率は下がったが、実際に受け取るボーナスの金額は2025年比で30%増加する」と説明。会社の成長が続く限り、この傾向は今後も維持されるとの見通しを示した。
地政学リスクへの警戒
ウェイ氏は中東情勢にも言及し、地政学的緊張が半導体産業の見通しに「不確実性を高めている」と指摘した。米中対立や台湾海峡の緊張に加え、中東の不安定化がサプライチェーン全体に波及するリスクを認識していることが窺える。
投資家・ビジネス視点の考察
TSMCの圧倒的な競争力維持と巨額設備投資の継続は、ベトナムの半導体・電子機器関連産業に複数の経路で影響を及ぼす。
第一に、ベトナムの半導体後工程・パッケージング産業への恩恵である。TSMCが前工程(ウェハー製造)の能力を拡大すればするほど、後工程(テスト・パッケージング・組立)の需要も比例して増加する。ベトナムにはIntelのホーチミン市パッケージング工場をはじめ、Amkor(アムコー)、Hana Micron(ハナマイクロン)など後工程企業の大規模拠点が集積しており、AI需要の拡大はこれらの工場のフル稼働を後押しする。ホーチミン証券取引所(HOSE)に上場する電子部品・半導体関連銘柄にとっても追い風となり得る。
第二に、ベトナムの半導体人材育成戦略との関連である。ベトナム政府は2030年までに半導体分野で5万人の技術者を育成する国家戦略を掲げている。TSMCのようなグローバル大手がAI向け生産を急拡大する中、ベトナムが半導体バリューチェーンの中でどのポジションを確保できるかは、同国の中長期的な経済発展を左右する重要テーマである。
第三に、日本企業への影響も無視できない。TSMCの設備投資拡大は、半導体製造装置で世界的シェアを持つ東京エレクトロン、SCREEN、ディスコなど日本企業の受注増に直結する。同時に、ベトナムに生産拠点を持つ日系電子機器メーカーにとっては、TSMCが価格の急騰を抑制する姿勢を示したことは、部品調達コストの安定化という点でポジティブな材料である。
第四に、2026年9月に判断が見込まれるFTSE新興市場指数へのベトナム格上げとの関連である。半導体・ハイテク産業の集積が進むベトナムは、単なる低コスト製造拠点から高付加価値産業の担い手へと変貌しつつある。グローバル半導体サプライチェーンにおけるベトナムの存在感の高まりは、FTSE格上げに向けた「経済のファンダメンタルズ改善」を裏付ける要素の一つとなる可能性がある。
TSMCの一挙一動は、もはや台湾一国の話ではない。AI革命がもたらす半導体需要の爆発的拡大の中で、ベトナムがサプライチェーンのどの環節で付加価値を獲得していくか——投資家にとって、その動向を注視し続ける意義は大きい。
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出典: 元記事












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