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2026年5月のVN-Indexは前月比+1.2%の1,877.13ポイントで終了し、月中には史上最高値を更新した。しかしその実態は、ビングループ(Vingroup)系銘柄が指数を押し上げる一方、市場の7割超の銘柄がPER10倍以下という「危機時並み」の水準に沈む、極端な二極化である。大手ファンドのキーパーソンたちがこの異常な構造をどう見ているのか、発言を詳しく読み解く。
5月のVN-Index——史上最高値更新も後半は利益確定で調整
5月前半、ビングループ系銘柄の急騰に牽引されVN-Indexは史上最高値を更新した。しかし高値圏での利益確定売りと慎重な資金フローにより、後半は調整に転じた。月間ではVIC(ビングループ、ベトナム最大のコングロマリット)が単独でVN-Indexを+37.3ポイント押し上げ、VHM(ビンホームズ、同グループの不動産開発子会社)がそれに続いた。この2銘柄だけで指数の月間上昇分のほぼ全てを説明できる状況である。
PYN Elite・Maggie Yi氏:「P/Bが30倍——前例のない水準」
フィンランド系ファンドPYN Elite(ベトナム株に特化した欧州系の老舗ファンド)のポートフォリオマネジメントチームに所属するマギー・イー(Maggie Yi)氏は、現在の市場を「極めて強い分極化(phân hóa mạnh)」と表現した。同氏が指摘するポイントは以下の通りである。
- ビングループとその子会社群がVN-Index全体の約28%のウエイトを占有している。
- 同グループは不動産分野では大きな成功を収めているが、EV(電気自動車)やその他の新規事業では利益化までに相当の時間を要しており、その間に有利子負債が著しく積み上がっている。
- 浮動株(フリーフロート)比率が極めて低いため、比較的小さな買い需要でも株価が大幅に上昇しやすい構造にある。
- その結果、ビングループ株のPBR(株価純資産倍率)は30倍に達しており、「過去にほぼ前例のない水準」である。
- ビングループ系を除外すると、市場の残りの部分は年初来でむしろ下落している。大多数の上場企業が好決算を発表しているにもかかわらず、である。
イー氏はこの背景として、ビングループ株が個人投資家を中心とした「モメンタムトレード(動量取引)」の対象となっていることを挙げた。また、中東情勢の安定化が市場全体の信頼回復に必要であり、大口資金がビングループ以外の銘柄へ回帰するきっかけになり得ると指摘。そのうえで「長期的には、これはベトナム株式市場における投資機会だと完全に捉えている」と強調した。
VinaCapital・Kokalari氏:「Vingroup除くと市場は危機時の評価水準」
ベトナム最大級の運用会社ビナキャピタル(VinaCapital)のマクロ経済・市場リサーチ責任者であるマイケル・コカラリ(Michael Kokalari)氏は、より定量的な分析を提示した。
ビングループのエコシステム——VIC、VHM、VRE(ビンコム・リテール、商業施設運営)、VPL(ビンパール、リゾート・ホスピタリティ)——のVN-Indexに占めるウエイトは、2年前の約8%から現在は約30%へと急拡大した。
昨年(2025年)、VN-Indexは約41%上昇したが、ビングループ系を除いた上昇率はわずか約10%にとどまった。2026年に入ってからもVN-Indexはビングループ除外ベースの指数を4〜5ポイント上回るペースで推移しており、定価差は拡大し続けている。
数値で見ると、VN-Index全体の予想PERは13倍・利益成長率15%であるのに対し、ビングループ系を除いた市場のPERは10倍・利益成長率16%である。つまり、成長率がより高い銘柄群のほうがより安く放置されているという逆転現象が生じている。さらに、市場全体の70%超の銘柄がPER10倍以下で取引されている。これは通常、金融危機のような局面でしか見られない水準である。
ビングループ系上昇を支える3つの材料
コカラリ氏は、2026年のビングループ系株価上昇を支えた要因として3つを挙げた。
- ビンファスト(VinFast/VFS)のリストラ計画とVICからの分離——VICは現在VFS発行済株式の50%超を保有しており、その切り離しが企業価値の再評価材料となっている。
- グリーンSM(GSM)のIPO計画——ビングループ傘下のEVタクシー会社で、ビンファストの生産台数の約3分の1を消費する重要な需要先である。そのIPOが新たな資金還流の期待を生んでいる。
- ビンホームズ(VHM)の急成長する業績——不動産デベロッパーは大型の一括マンション販売やプロジェクト譲渡のタイミング次第で、売上・利益を大きく変動させることが可能であり、業績の「見栄え」をコントロールする余地がある点にも留意が必要である。
コカラリ氏は、これらの好材料が出てくるタイミングがビングループの債務リストラのスケジュールと符合しているように見えると指摘し、一定の注意を促した。
同氏は最終的に「ビングループ系の急騰により、残りの市場は経済危機時並みの割安水準にある。しかし現実にはベトナム経済のレジリエンスは維持されており、ハイテク輸出も力強く伸びている。この乖離は注目に値する」と述べた。
投資家・ビジネス視点の考察
今回の「二極化」は、ベトナム株式市場への投資を検討する日本人投資家にとって、複数の重要な示唆を含んでいる。
第一に、インデックス投資のリスクである。VN-Indexに連動するETFやファンドに投資した場合、実質的にポートフォリオの約30%がビングループ系に集中することになる。PBR30倍、低フリーフロートという条件下で、万一ビングループ株に調整が入れば、指数全体が大きく下押しされる構造的リスクがある。個別銘柄やビングループ系を除外した戦略を取るファンドの選択が重要になる。
第二に、2026年9月に決定が見込まれるFTSE新興市場指数への格上げとの関連である。格上げが実現すれば、大規模なパッシブ資金がVN-Index構成銘柄に流入する。しかし現行のウエイト構造のままでは、流入資金の大部分がビングループ系に吸い込まれ、二極化がさらに加速する可能性がある。一方で、FTSEはフリーフロート調整後の時価総額を用いるため、低フリーフロートのビングループ系は実際のウエイトが抑えられる可能性もあり、この点は今後精査が必要である。
第三に、「危機水準の割安銘柄」という逆張り機会である。PER10倍以下で利益成長率16%という銘柄群は、PEGレシオ(PER÷利益成長率)で0.6倍程度と、グローバル基準でも極めて割安である。銀行、消費財、工業セクターなど、ベトナムの内需・輸出の恩恵を受ける銘柄群にとって、モメンタムの転換が起きた際のリターンポテンシャルは大きい。
第四に、日本企業への影響である。ベトナムに製造拠点を持つ日系企業にとって、ベトナム経済のファンダメンタルズが堅調である点はポジティブである。ハイテク輸出の伸長はサプライチェーンの安定を意味し、現地パートナー企業の業績にも好影響を与える。一方、不動産セクターの一部に見られるレバレッジの高さは、金融システムへの波及リスクとして引き続きモニタリングが必要である。
総じて、現在のベトナム株式市場はビングループという「巨象」が指数を歪めている状態にある。しかし、その歪みの裏側に、ファンダメンタルズに基づく本質的な投資機会が眠っている——大手ファンドマネージャーたちの発言は、そのメッセージで一致している。
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