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ベトナム都市住宅の新トレンド——35㎡の狭小地でも「階段デザイン」が暮らしを変える

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📘 この記事は「ベトナム経済研究会」が提供するベトナム最新ニュース解説です。
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ベトナムの二大都市ハノイとホーチミン市では、間口わずか3〜4メートルの狭小住宅(nhà phố)が都市景観の主役である。限られた敷地面積の中で、縦方向への空間展開を成功させる鍵として「階段デザイン」が注目されている。今回は、ハノイの35㎡住宅「Loli House」とホーチミン市7区の細長い住宅「S House」という2つの事例から、ベトナム都市住宅の設計思想と不動産市場への示唆を読み解く。

目次

なぜベトナムの都市住宅で「階段」が重要なのか

ベトナムの都市部、とりわけハノイやホーチミン市の旧市街・住宅密集地では、土地の細分化が極限まで進んでいる。間口3〜5メートル、奥行き10〜20メートルという「うなぎの寝床」型の敷地に、3〜5階建ての住宅を建てるのが一般的である。こうした住宅では階段が占める面積比率が大きく、設計の巧拙が居住性を左右する。階段は単なる移動手段ではなく、採光・通風・収納・美観のすべてに影響を与える「住宅の背骨」とも言える存在である。

設計上の安全基準として、1つの階段区間で連続する段数は最大18段、最低3段とされ、18段を超える場合は幅60cm以上の踊り場(chiếu nghỉ)の設置が求められる。高齢者や子どもがいる家庭では、機能性と安全性の両立が特に重視される。

事例1:Loli House(ハノイ市)——35㎡・間口3.6mの挑戦

ハノイ市北部、チャンクン(Trần Cung)通りに建つ「Loli House」は、敷地面積わずか35㎡、間口3.6メートルという極小住宅である。同通りは2005年に整備された比較的新しい街路だが、もともとコーニュエ(Cổ Nhuế)社のホアン集落群に属する旧農村地帯であり、自然発生的な住宅密集地が広がる。ハノイの都市構造を象徴するような立地と言える。

設計を手がけたのはt+m design office。縦方向の連続的な空間循環をコンセプトに、以下のような工夫が盛り込まれている。

  • 天窓(giếng trời)を設け、自然光を住宅内部の奥深くまで導く。
  • 踊り場に木製ルーバーを採用し、光と風が各階を自由に通り抜ける構造とした。
  • ファサードにはポリカーボネートの透明パネルと大きな窓を配置し、外部環境や近隣との視覚的なつながりを確保。
  • 木製階段はあえて面積を惜しまず設計され、子どもたちが「遊び場」として使うほどの余裕を持たせている。淡い木の色調が室内の木製家具と調和し、共用空間とプライベート空間の自然な遷移を実現した。
  • 1階の入口を奥にセットバックすることで、狭い路地に余白を生み出し、近隣住民との共有空間としても機能させている。

ハノイの路地(ngõ)文化は、単なる通路ではなく、住民が時間帯や目的に応じて多様に使いこなすコミュニティ空間である。Loli Houseはその文化を建築的に継承しつつ、狭小地の制約を創造性へと転化した好例と言える。

事例2:S House(ホーチミン市7区)——メコンデルタの暮らしを都市に再現

ホーチミン市7区タンフアンタイ(Tân Thuận Tây)に位置する「S House」は、間口4.15メートル、奥行き20メートルの細長い敷地に建つ。設計はMM++ architects。Loli Houseのモダン・ミニマルとは対照的に、メコンデルタ(Đồng bằng sông Cửu Long)の農村生活からインスピレーションを得た住宅である。

S Houseの設計哲学は「壁ではなく、天候・植物・開放空間・日々の儀式によって暮らしが形づくられる」というものである。具体的には以下の特徴を持つ。

  • 前庭が生活空間とシームレスに融合し、街路から室内への緩やかな遷移を生む。床面を微妙に高くすることで、視覚的連続性を保ちながら内外の境界を示す。
  • 吹き抜けのリビング空間は、広告映画の監督である家主にとって、撮影の合間の思索と休息の場として機能する。
  • 奥のキッチンは庭に面し、炭火や土製コンロといった伝統的な調理スタイルを維持。浴室やトイレも半屋外設計で、庭を通る動線で母屋とつながる。
  • 屋上は食用植物を栽培する「エディブル・ランドスケープ(edible landscape)」に転用され、食料供給と自然断熱の二重の役割を果たす。
  • 階段は多様な素材・形態で構成される。木製の簡素なロフト階段もあれば、壁から突き出すように「生えた」石の踏み板もあり、空間全体の「通気する住まい」というコンセプトを体現している。

S Houseは、都市の中にあって農村的な時間感覚——床に座る、涼しい面に寝転がる、日光で洗濯物を干す、植物を世話する——を取り戻す試みであり、「都市の喧騒の中でも、もっと軽やかに暮らせないか」という問いを投げかける建築である。

投資家・ビジネス視点の考察

この記事は建築・デザインの話題だが、ベトナム不動産市場を理解するうえで重要な文脈を含んでいる。

第一に、狭小住宅市場の根強い需要である。ハノイ・ホーチミン市の中心部では土地価格が高騰を続けており、30〜50㎡台の狭小地に建てる「nhà phố」は依然として実需層の主要な選択肢である。こうした住宅の付加価値を高めるデザイン力は、デベロッパーや建材メーカーにとって差別化要因となる。ポリカーボネートパネル、木製ルーバー、屋上緑化資材など、関連建材の需要拡大にも注目したい。

第二に、ベトナムの建築設計業界の成熟である。t+m design officeやMM++ architectsのような新世代の設計事務所が、国際的にも評価される質の高いプロジェクトを生み出している。これはベトナムの都市開発が「量から質」へと転換しつつあることを示唆しており、日本の建材メーカーや住宅設備企業にとっては、高付加価値製品のベトナム展開の好機と言える。

第三に、2026年9月に決定が見込まれるFTSE新興市場指数への格上げとの関連である。直接的な影響は限定的だが、不動産セクターはベトナム株式市場の時価総額の大きな割合を占める。都市住宅の需要構造や設計トレンドの変化は、中長期的にビンホームズ(Vinhomes、VHM)やノバランド(Novaland、NVL)といった上場デベロッパーの商品戦略にも波及し得る。狭小地向け高品質住宅の開発に注力する中小デベロッパーの動向も注視すべきである。


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出典: 元記事

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