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ベトナム国家証券委員会(SSC)が2026年6月5日に開催したカンファレンスにおいて、暗号資産(デジタル資産)に関する規制の運用方針が具体的に示された。最大の注目点は、認可済みVASP(Virtual Asset Service Provider=暗号資産サービス提供事業者、いわゆる取引所)が稼働開始してから6カ月以内に、すべての取引を国内認可VASPを通じて行う義務が課される一方、投資家は自身の個人ウォレットでの資産保有を継続でき、国内の取引所に資産を移管しなくても罰則は科されないという点である。
カンファレンスの概要と政府の基本姿勢
SSC傘下の証券科学研究・研修センターと暗号資産取引市場管理委員会が共催した本カンファレンスのテーマは「暗号資産とデジタル金融市場の未来」。2025年末から2026年初頭にかけて整備された一連の法令体系、とりわけ政府決議第05/2025/NQ-CPを法的基盤として、ベトナムは暗号資産市場の試験運用と本格展開を進めている。SSCのブイ・ホアン・ハイ副委員長は、暗号資産、特にRWA(Real World Assets=実物資産のトークン化)が「実験的概念」から「デジタル経済の重要な構成要素」へと変化しつつあると述べ、国際資本の誘致と金融テクノロジー分野でのベトナムの地位向上に強い意欲を示した。
トークン化が期待される実物資産とは
ベトナム暗号資産取引所CAEX(Công ty cổ phần Sàn giao dịch Tài sản Mã hóa Thịnh Vượng Việt Nam)のシニアアドバイザーであるクリス・チュー氏は、ベトナムが暗号資産市場の発展において多くの優位性を持つと指摘した。具体的には以下の点が挙げられた。
- 人口1億人超、暗号資産ユーザー数で世界第7位という高いテクノロジーリテラシー
- GDP成長率8.02%というダイナミックな経済成長
- 株式市場の時価総額がGDP比約72%にとどまり、2030年目標の120%に対して大きな成長余地がある
現状の課題として、個人投資家が不動産やプライベートアセットなど高額資産にアクセスしにくいこと、また90万社超の中小企業が資金調達難に直面していることが挙げられた。トークン化は所有権のデジタル化、透明性の向上、流動性の拡大を通じてこれらの課題を解決しうるとされる。
トークン化の対象として有望な資産カテゴリーとしては、不動産、金、コモディティ、貴金属、インフラ、データセンター、エネルギープロジェクト、工業団地、港湾が列挙された。国際的にはBlackRock、Hamilton Lane、OpenEdenなどの大手金融機関がすでにトークン化商品を成功裏に展開しており、グローバルな暗号資産市場規模は2033年に約1兆9,000億ドルに達するとの予測がある。ベトナム単独では2030年に700〜800億ドル規模が期待されている。
ベトナムは取引成長速度で世界第5位
ベトナムブロックチェーン・デジタル資産協会(VBA)のファン・ドゥック・チュン会長は、暗号資産市場の周期的な調整サイクル、特にビットコイン半減期後の動きに言及した。市場全体の時価総額はかつて約4,000億ドルのピークを記録した後、現在は約1,000億ドル前後で安定推移しており、2026年にはグローバルで約9億人のユーザーが見込まれるという。
ビットコインETF市場の発展により、伝統的な投資家が暗号資産にアクセスする安全な経路が開かれた。BlackRockが約670億ドルの運用資産で市場をリードしている。アジア太平洋地域のデジタル資産取引額は2025年6月時点で約2,400億ドルに達し、ベトナムは取引成長速度で世界第5位に位置する。
RWA市場については、ボストン・コンサルティング・グループやシティバンクが算出方法により6,000〜1兆9,000億ドル規模になると予測している。チュン会長は、こうした世界的なトークン化の潮流を先取りするために政府が決議第05号を策定したと評価し、「ベトナムには1,700万〜2,100万人の暗号資産ユーザーがいるとされ、市場のポテンシャルは極めて大きい」と述べた。
個人ウォレット保有は可、取引は認可VASP経由が必須
SSC暗号資産取引市場管理委員会のトー・チャン・ホア常任副委員長が、規制の具体的な運用方針を明らかにした。要点は以下の通りである。
- 取引義務:最初のVASPが認可を受けてから6カ月後、すべての暗号資産取引は国内の認可済みVASPを通じて行わなければならない
- 資産移管の強制なし:投資家が保有資産を国内取引所に移管しなくても罰則はない
- 個人ウォレットの継続保有:投資家は引き続き個人ウォレットで資産を保管できる。ただし取引が発生する場合は認可VASPを経由する必要がある
- 外国人投資家:ベトナム市場での口座開設・取引参加が認められる
- 国内投資家:すでに暗号資産を保有している者のみ参加可能
- 取引通貨:上場・売買はすべてベトナムドン(VND)建てで行う。BTC/VND、ETH/VNDの形式となり、USDT・USDCなどのステーブルコインも外貨ペッグであってもBTCやETHと同様にVND建てで上場・取引される
VASPは上場する暗号資産を自ら選定する権限を持つが、上場基準・プロセスを策定し、投資家への情報開示を行う義務がある。VASPが提供できる業務は自己売買、取引仲介、カストディ(保管)、トークン発行の4つであり、これらに関連するサービス手数料を徴収することが認められている。
投資家・ビジネス視点の考察
今回の規制方針は、ベトナムが暗号資産を「禁止」するのではなく「管理下に置く」という明確な姿勢を示したものであり、市場関係者にとって複数の重要なインプリケーションがある。
第一に、VND建て取引の義務化は、ベトナムの為替管理政策と整合的であり、中央銀行(ベトナム国家銀行)の通貨主権を維持しながらデジタル資産市場を育成するという慎重なアプローチを反映している。これはベトナム株式市場における外貨決済の制限とも共通する設計思想である。
第二に、RWAトークン化市場の700〜800億ドルという2030年目標が実現すれば、不動産、インフラ、エネルギーといったセクターに新たな資金調達チャネルが生まれる。ベトナムの証券市場の時価総額がGDP比72%にとどまる現状を考えれば、トークン化は2030年のGDP比120%目標達成を補完する手段としても位置づけられる。ビングループ(Vingroup、ベトナム最大手コングロマリット)やビンホームズ(Vinhomes)など大型不動産銘柄、あるいはFPT(ベトナム最大手IT企業)のようなブロックチェーン関連技術を持つ企業にとっては事業機会の拡大が期待できる。
第三に、2026年9月に予定されるFTSE新興市場指数への格上げ判定との関連も見逃せない。暗号資産市場の法整備は、ベトナムの金融市場全体のガバナンス向上を国際的に示す材料となりうる。デジタル資産に対する明確な規制フレームワークの存在は、海外機関投資家がベトナム市場全体を評価する際のプラス要因となる可能性がある。
第四に、日本企業にとっては、VASPライセンスの取得要件やカストディサービスの提供機会が注目ポイントとなる。SBIホールディングスやマネックスグループなど、すでに暗号資産事業を展開する日本の金融グループにとって、ベトナム市場への参入は1億人超の人口を抱える成長市場へのアクセスを意味する。
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