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ベトナム建設省(Bộ Xây dựng)が、低価格賃貸住宅の供給拡大に向けて、土地・税制・信用(融資)の三方面から優遇政策を研究していることが明らかになった。ハノイやホーチミン市をはじめとする大都市で住宅価格の高騰が深刻化するなか、「買う」から「借りる」への住まいの選択肢を広げる政策転換として注目される。
建設省が打ち出す「賃貸住宅振興」の全体像
ベトナム建設省は現在、低価格帯の賃貸住宅(nhà ở cho thuê giá rẻ)セグメントの開発を促進するため、包括的な優遇策の設計に着手している。具体的には、①土地使用に関する優遇措置、②税制上のインセンティブ、③金融・信用面での支援——の3つの柱が検討されている。
ベトナムでは土地の私有が認められておらず、すべての土地は「全人民所有」とされ、国家が管理する。企業や個人は「土地使用権」を取得して開発・利用する仕組みであるため、土地使用料の減免や使用期間の延長といった優遇は、デベロッパーにとって極めて大きなコスト削減要因となる。建設省が土地面での優遇を検討しているのは、まさにこの構造を踏まえたものである。
税制面では、法人所得税の減免や付加価値税(VAT)の優遇などが想定される。ベトナムでは従来、社会住宅(nhà ở xã hội=低所得者向け住宅)に対しては一定の税優遇が存在してきたが、「賃貸住宅」という形態に特化した優遇制度は未整備の部分が多い。今回の動きは、その空白を埋める政策として位置づけられる。
信用・融資面では、賃貸住宅プロジェクトに取り組むデベロッパーや投資家に対し、優遇金利での融資プログラムが検討されているとみられる。ベトナム国家銀行(中央銀行)は近年、不動産向け融資の管理を強化してきたが、「住む人のための住宅」には政策的に資金を流す方向性が鮮明になりつつある。
背景にある深刻な住宅価格高騰
この政策が検討される背景には、ベトナム主要都市における住宅価格の急騰がある。ホーチミン市では、2023年以降に供給された新築マンションの大半が中〜高価格帯に偏り、1戸あたり数十億ドン以上の物件が主流となっている。ハノイでも同様の傾向が顕著で、平均的な労働者の年収の数十倍に達する価格帯が一般化し、「持ち家」のハードルは年々高まっている。
ベトナムの人口は約1億人に達し、都市部への人口流入が続いている。特にハノイ市とホーチミン市を合わせた人口は約2,000万人規模に膨らんでおり、若年労働者や地方出身の工場労働者にとって、手頃な賃貸住宅の不足は生活の質に直結する社会問題となっている。工業団地周辺の労働者向け賃貸住宅も慢性的に不足しており、劣悪な環境の「ミニアパート」に依存せざるを得ない労働者が多い。
2024年に改正・施行されたベトナムの新住宅法(Luật Nhà ở)や新土地法(Luật Đất đai)では、社会住宅の供給促進が重点項目として盛り込まれたが、賃貸住宅に関してはまだ制度設計が途上にあった。今回の建設省の動きは、こうした法制度の枠組みを実務レベルで具体化する作業と言える。
「売る」から「貸す」への転換が意味するもの
ベトナムの不動産市場はこれまで「分譲」が圧倒的な主流であり、デベロッパーのビジネスモデルも「土地を取得→建設→区分販売→利益確定」というサイクルが中心であった。賃貸住宅は利益回収に時間がかかるため、民間デベロッパーが積極的に参入するインセンティブが乏しかった。
今回検討されている土地・税・金融の三位一体の優遇策は、この構造的な課題を解消し、賃貸住宅市場への民間資本の流入を促す狙いがある。国際的に見ても、シンガポールや日本のように賃貸住宅市場が成熟した国では、REIT(不動産投資信託)を含む多様な資金調達手段と税制優遇が整備されている。ベトナムがこの方向に舵を切ることは、不動産市場の「質的な成熟」を意味する。
投資家・ビジネス視点の考察
ベトナム不動産関連銘柄への影響
この政策が具体化すれば、賃貸住宅開発に参入するデベロッパーにとっては追い風となる。ホーチミン市証券取引所(HOSE)に上場する大手不動産銘柄——ビンホームズ(VHM、ビングループ傘下の不動産大手)、ノバランド(NVL)、ナムロン(NLG)などは、社会住宅・手頃な価格帯住宅への取り組みを強化しており、賃貸住宅向け優遇策の恩恵を受ける可能性がある。特にVHMは大規模団地開発のノウハウを持ち、賃貸セグメントへの展開余地が大きい。
一方、銀行セクターにとっても、優遇融資プログラムの受け皿となる政策銀行や商業銀行にとって新たな融資機会となり得る。ベトナム社会政策銀行(VBSP)やビエティンバンク(CTG)、BIDV(BID)など国営系銀行が優遇融資の窓口となる可能性が高い。
日本企業への影響
日本の不動産・建設企業はベトナム市場に積極的に進出しており、住友林業、大和ハウス工業、積水ハウスなどが現地パートナーと共同で住宅開発を進めている。賃貸住宅市場の制度整備が進めば、日本企業が持つ賃貸管理のノウハウやプロパティマネジメントの経験が活かせる場面が増えるだろう。また、日本で普及しているサブリース(一括借り上げ)モデルのベトナム展開も視野に入ってくる。
FTSE新興市場指数格上げとの関連
2026年9月に決定が見込まれるFTSE新興市場指数へのベトナム格上げは、海外機関投資家の資金流入を大幅に拡大させると予想される。不動産セクターはベトナム株式市場の時価総額の大きな割合を占めており、住宅政策の透明性向上や制度整備は、格上げ審査における「市場の成熟度」評価にもプラスに作用する。賃貸住宅市場の育成は、ベトナム不動産市場が投機的な売買中心から、安定的なキャッシュフロー型の資産運用市場へと進化する過程を示すものであり、海外投資家の信頼獲得に寄与するだろう。
ベトナム経済全体における位置づけ
ベトナム政府は2025〜2030年の期間で年間GDP成長率8〜10%を目標に掲げている。急速な工業化と都市化が進むなか、労働者の住環境整備は生産性向上と社会安定の基盤である。低価格賃貸住宅の充実は、製造業の人材確保、都市部への円滑な労働移動、そして内需拡大にもつながる。不動産市場の健全化と住宅の「手が届く化」は、ベトナムが中所得国の罠を超えるための重要な政策課題であり、今回の建設省の動きはその一端を担うものと評価できる。
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