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ベトナム南部の経済発展を左右する重要法案「特別都市法(Luật Đô thị đặc biệt)」の策定が大詰めを迎えている。2026年6月10日、ホーチミン市人民委員会は東南部(ドンナムボー)地域およびメコンデルタ(同バンソンクーロン)地域の各省・市から意見を聴取する会議を開催し、広域連携の法制化に向けた議論を加速させた。同法が国会で可決されれば、ホーチミン市を「牽引役」とした南部経済圏全体の開発体制が大きく転換する可能性がある。
特別都市法とは何か——その背景と狙い
ベトナムでは従来、地域間連携は政策的な方針や実務上の必要性として語られるにとどまり、明確な法的根拠を欠いていた。ホーチミン市はベトナム最大の経済都市であり、国のGDPの約2割を占めるが、周辺省との広域インフラ整備や財源共有においては制度的な壁が存在してきた。特別都市法はこの課題を解消し、広域連携に法的な枠組みを与えることを最大の目的としている。
ホーチミン市人民委員会のグエン・マイン・クオン(Nguyễn Mạnh Cường)副主席によると、2026年6月中旬に法務省が各省庁・地方から意見を聴取し、7月初旬に審査を経て政府へ提出、7月15日までに国会常務委員会へ報告するスケジュールが示されている。市の党常務委員会および人民委員会は、法律の公布・施行後に即座に実行できるよう準備を進めており、「制度の空白期間を生じさせない」方針を明確にしている。
専門家の評価——広域連携の「法制化」という画期
ホーチミン市経済大学のグエン・チョン・ホアイ(Nguyễn Trọng Hoài)教授は、現時点の法案について「かなり完成度が高く、特に広域連携の原則が明確に規定されている」と評価した。同教授は、これまで政策レベルにとどまっていた広域連携が法律に盛り込まれることで、東南部地域とメコンデルタを結ぶインフラ・交通プロジェクトの実施に法的基盤が整う点を重要な進展と指摘している。
さらにホアイ教授は、具体的な提案として以下を挙げた。
- 国家予算・社会資本・その他合法的な資金源を活用した「広域インフラ開発基金」の設立
- 各地方間で責任・利益・税収を共有するメカニズムの構築
- ホーチミン市と周辺地方の関係を「合意・共有・利益の調和」に基づいて構築すること
周辺省の反応——ドンナイ省・ヴィンロン省からの支持と注文
ドンナイ省(ホーチミン市の東隣に位置し、工業団地が集積する主要省)財政局のファム・トゥアン・アイン(Phạm Tuấn Anh)副局長は、同省が現在大きな変革期にあり、独自の特別メカニズム構築とホーチミン市との連携強化を同時に進めていると述べた。ドンナイ省自体は「特別都市」ではないものの、広域連携メカニズムを通じてインフラ整備や地域開発の恩恵を受けられるとの認識を示した。
同副局長は、ホーチミン市が交通プロジェクトやTOD(公共交通指向型開発)事業において投資家を指名・優先選定できる仕組みを支持しつつも、「透明性を確保するための詳細な規定とガイドラインが必要であり、中央政府の承認を得やすい制度設計にすべきだ」と注文を付けた。
一方、メコンデルタに位置するヴィンロン省のグエン・チュック・ソン(Nguyễn Trúc Sơn)人民委員会副主席は、ホーチミン市にはすでに国会が付与した特別メカニズム(第98号決議、第260号決議)の運用実績があり、さらに首都法(ハノイ向け法律)の経験も参照できることから、特別都市法の国会通過には十分な基盤があると評価した。同副主席は中央政府に対し、ホーチミン市への権限移譲をさらに進め、都市管理・運営・開発に必要な法規範を市が主体的に制定できる環境の整備を求めた。また、同法は「数十年先を見据えた長期的視野」を持つべきであり、規定には深み・安定性・包括性が必要だと強調した。
会議の結論——「実質的な連携」に向けた制度設計
会議を締めくくったグエン・マイン・クオン副主席は、参加者からの意見が「十分に強力で、権限と責任が明確で、平等・自発・共同発展の原則を保障する広域調整メカニズムの完成」を求めるものであったと総括した。起草チームに対しては、利益共有・税収共有の仕組みを形式的なものにせず実質的なものとすること、ホーチミン市の調整役としての役割が周辺地方の自主性や正当な利益を制限しないことの明確化を指示した。
クオン副主席は「ホーチミン市と周辺各省・市の発展は切り離すことができない。この法律が国会で可決されれば、メガシティの統治と広域連携発展における画期的な法律となり、ホーチミン市と各地方がともに地域的・国際的な飛躍を遂げる基盤になる」と展望を述べた。
投資家・ビジネス視点の考察
特別都市法の制定は、ベトナム南部経済圏に関わる投資家にとって複数の重要なインプリケーションを持つ。
インフラ・不動産セクターへの追い風:広域インフラ開発基金の設立やTOD事業への投資家指名制度が実現すれば、ホーチミン市周辺の交通・不動産開発が加速する。環状高速道路、メトロ延伸、メコンデルタへの高速道路整備などに関連する建設・素材企業、工業団地運営企業への恩恵が見込まれる。ホーチミン証券取引所(HOSE)上場のインフラ関連銘柄やドンナイ省の工業団地銘柄は注視に値する。
日本企業への影響:東南部地域とメコンデルタの連結性向上は、製造業のサプライチェーン最適化に直結する。特にドンナイ省やロンアン省に生産拠点を持つ日系企業にとっては、物流コスト低減や労働力確保の面でプラスとなる可能性が高い。
FTSE新興市場指数への格上げとの関連:2026年9月に決定が見込まれるFTSE新興市場指数への格上げに向けて、ベトナム政府は制度面の整備を急いでいる。特別都市法のような広域ガバナンス改革は、外国人投資家に対して「制度の予見可能性」を示すシグナルとなり、格上げ判断にも間接的にプラスに作用し得る。
長期的な構造変化:ベトナム南部では、ホーチミン市への一極集中から「多核型メガリージョン」への移行が模索されている。特別都市法はその制度的な礎石となる。税収共有メカニズムの具体的な設計次第では、周辺省の財政基盤が強化され、南部全体の均衡ある発展につながる可能性がある。ただし、法案の詳細規定やガイドラインの策定がどこまで実効性を伴うかが今後の焦点となる。
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