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「あなたが金を買うのは投資のためか、それとも資産を積み上げるためか?」——多くの人が見落としがちだが、市場が大きく揺れ動く今このタイミングだからこそ、極めて重要な問いである。ベトナムでは金への関心が歴史的・文化的に根強いが、目的の違いによって取るべき戦略は大きく異なる。VnExpressが改めてこのテーマを取り上げたことは、ベトナムの個人投資家層が成熟期に差しかかっていることを示すシグナルでもある。
ベトナムにおける「金信仰」の根深さ
ベトナムでは古くから金が最も信頼される資産保全手段とされてきた。戦争やハイパーインフレ、通貨切り下げといった歴史的経験を持つベトナム人にとって、金は銀行預金よりも安心できる「最後の砦」である。結婚式の祝儀は金のネックレスやブレスレットで贈られ、旧正月(テト)の「神の日(Ngày Vía Thần Tài=財神の日)」には金を買うと一年の財運が開けるという信仰も根強い。毎年旧暦1月10日の財神の日には、SJC(サイゴン・ジュエリー・カンパニー)の店舗前に長蛇の列ができる光景はベトナムの風物詩でもある。
こうした文化的背景があるため、ベトナム国内の金需要は「純粋な投資」と「文化・習慣に基づく蓄財(ティック・サン=tích sản)」が混在しており、両者を区別せずに金を購入している個人が少なくない。
「投資」と「資産形成(蓄財)」——その本質的な違い
記事が投げかける問いの核心は、金の購入目的を明確にすることの重要性である。投資(đầu tư)とは、価格変動を利用して利益を得ることを主目的とする行為であり、相場のタイミングや売買判断が不可欠となる。一方、資産形成・蓄財(tích sản)とは、長期にわたって資産を保全・積み上げることを目的とし、短期の値動きに一喜一憂しない姿勢が求められる。
この違いを曖昧にしたまま金を買うと、次のようなミスマッチが生じやすい。
- 「蓄財」目的なのに短期の下落で慌てて売却してしまう
- 「投資」目的なのに損切りできず、含み損を長期間抱え込む
- 生活資金を金購入に回し、流動性リスクに直面する
市場が大きく変動する局面では、こうした判断ミスが増加する傾向にあり、まさに今問い直すべきテーマである。
2025年の金市場——ベトナム特有の事情
2024年後半から2025年にかけて、国際金価格は歴史的高値圏で推移してきた。地政学的リスク、各国中央銀行の金購入拡大、米ドルの先行き不透明感などが主な要因である。ベトナム国内でも金価格は高騰が続いており、SJC金地金の価格は国際価格を大幅に上回る「プレミアム」が付く独特の市場構造が依然として残っている。
ベトナム国家銀行(中央銀行)は2024年以降、金市場の安定化を目的にSJC金地金の直接販売(入札方式)を実施し、国内外の価格差の縮小に取り組んできた。しかしながら、SJC金地金の独占的地位や流通構造の問題から、プレミアムが完全に解消されたわけではない。こうした市場構造は、「投資」目的で金を売買する際のコスト(スプレッド)を高め、短期売買の難易度を上げる要因ともなっている。
また、ベトナムでは金のジュエリー(装飾品)と金地金(SJCブランドなど)では買取価格の差が大きく、購入形態によっても実質的なリターンが異なる点に注意が必要である。
金以外の選択肢と分散投資の視点
ベトナムの個人投資家にとって、金は依然として魅力的な選択肢ではあるが、近年は株式市場や不動産、預金証書(sổ tiết kiệm)、さらには投資信託(ファンド証書)など選択肢が多様化している。特にホーチミン証券取引所(HOSE)のVN-Indexは、ベトナム経済の成長ポテンシャルを反映して長期的に右肩上がりのトレンドを描いており、金一辺倒のポートフォリオからの分散を検討する動きも広がりつつある。
「蓄財」であれば金を長期保有することに一定の合理性があるが、「投資」であれば株式やETF(上場投資信託)など流動性の高い金融商品も視野に入れるべきである。
投資家・ビジネス視点の考察
本テーマは一見すると個人の資産運用の話に見えるが、ベトナム経済・市場全体を読み解く上で複数の重要な示唆を含んでいる。
第一に、金市場への資金滞留は株式市場にとってマイナス材料となりうる。金価格が高騰し、個人マネーが金に流れ込めば、株式市場への新規資金流入が鈍化する。逆に、金への過熱感が一服すれば、資金が株式市場に還流する可能性がある。VN-Indexの動向を見る上でも、金市場のセンチメントは無視できない指標である。
第二に、2026年9月に予定されるFTSE新興市場指数への格上げ判定との関連性がある。格上げが実現すれば、海外機関投資家の資金がベトナム株式市場に大量流入する見通しである。これにより、個人投資家も金から株式へのシフトを加速させる可能性がある。日本の個人投資家にとっても、ベトナム市場への投資チャンスが広がる局面となる。
第三に、日本企業やベトナム進出企業への直接的な影響は限定的だが、間接的には消費動向に関わる。金購入に資金が向かう場合、消費財や小売セクターへの支出が抑制される可能性がある。逆に、金価格が下落すれば「資産効果」の逆回転で消費マインドが冷え込むリスクもある。ベトナムで小売・消費財ビジネスを展開する日系企業にとっては、金市場の動向もウォッチすべき変数の一つである。
結論として、ベトナムにおける金購入の意思決定は、単なる個人の嗜好ではなく、マクロ経済や資本市場全体の資金フローに影響を与えるテーマである。日本の投資家がベトナム市場を分析する際にも、「ベトナム人が今、金をどう見ているか」という視点は意外に有用なシグナルとなりうるだろう。
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