ハノイ在住13年の現地投資家による、より深い企業分析・投資戦略は👉 メンバーシップで公開中
AI・データセンター・EV(電気自動車)の急拡大によりベトナムの電力需要が急増する中、電力システムの信頼性を支える「測定・検定・監視」技術の重要性が飛躍的に高まっている。日本の計測器メーカー・日置電機(HIOKI)のベトナム法人トップが、同国のエネルギー転換における技術的課題とビジネス機会について語った。
電力システムに「かつてない圧力」
日置電機ベトナム(Hioki Electric Vietnam)の竹澤和博(Kazuhiro Takezawa)総経理は、AI、データセンター、電化(電気化)、経済成長、そして気候変動に伴う冷房需要の増大が同時進行で電力需要を押し上げており、「エネルギー業界は現在のシステムの脆弱性を過小評価するリスクがある」と警鐘を鳴らした。
ベトナムでは「改定電源開発計画第8次(QHĐ VIII)」において、再生可能エネルギー(水力を除く)の比率を2030年までに28〜36%、2050年までに約74〜75%へ引き上げる目標を掲げている。同時に2050年のネットゼロ(温室効果ガス排出実質ゼロ)達成も公約しており、電力インフラの根本的な変革が求められている。
竹澤氏は、太陽光発電や風力発電は出力が天候に左右される変動電源であるため、保護・監視・測定の各システムにはこれまで以上の精度が必要になると指摘。「以前なら無視できたわずかな変動が、今では大規模停電の引き金になり得る。正確で継続的かつ安定した測定こそが、送配電網の安全運用の基盤だ」と述べた。
課題として、電力インフラの増強ペースに対し、多層的な測定・評価システムの整備が追いついていない点を挙げ、将来的な潜在リスクになりかねないと警告した。
EV市場の急拡大とバッテリー安全性
ベトナムではVinFast(ビンファスト、ベトナム初の国産EV メーカー)を筆頭にEV市場が急速に拡大しており、充電ステーション網も年々広がっている。バッテリーや充電インフラに関する技術基準も国際規格に近づく方向で整備が進む。
竹澤氏は「ハノイやホーチミン市などの大都市でEVが主流の移動手段になるにつれ、安全検査、バッテリー状態の評価、システム保守の需要は急増する」と予測。バッテリー関連の事故は安全上のリスクだけでなく、メーカーや運営事業者、EVエコシステム全体の信頼を損なうと強調した。
現代の検査機器の最大の価値は「問題が実際の事故になる前に検知できる能力」にあり、規制強化に伴う検定基準の引き上げは負担ではなく、市場全体の品質底上げと、真剣に測定・検定に投資する企業にとっての競争優位になるとの見解を示した。
バッテリー製造拠点としてのベトナムの潜在力
ベトナムは若い労働力、向上する技術力、競争力のある製造環境、そしてグローバルな投資シフトの追い風を受け、地域有数のバッテリー・電化機器の製造拠点になるポテンシャルを持つと評価されている。改定QHĐ VIIIでは、蓄電池(BESS)をエネルギー転換の重要構成要素と位置づけ、2030年までに蓄電容量を1万〜1万6,300MWに拡大する計画である。
竹澤氏は「産業インフラ、サプライチェーン、技術力の整備が進めば、ベトナムは地域で最も重要なバッテリー・電化機器の製造拠点の一つになれる」と語った。
ただし、この機会を活かすには製品の品質と信頼性が決定的に重要であり、バリューチェーン全体で測定・試験・校正・品質管理の需要が拡大すると見る。
現場の課題—校正切れ機器と絶縁劣化リスク
Hioki Electric Vietnamによると、ベトナムの少なからぬ工場では、校正推奨サイクルを超過した計測機器がいまだに使用されている。海外への送付に要するコストと時間がその主因である。また、太陽光発電やBESSの導入スピードが、技術者の育成や監視体制の構築を上回っている現状も指摘された。
特にベトナム特有の高温多湿環境下での絶縁劣化は、「重大な安全リスクでありながら十分に認識されていない」と同社は警告する。
こうした課題に対応するため、日置電機は最近ハノイにアフターサービスセンター(ASC)を開設した。現地ラボでの迅速な故障診断・修理とオンラインサポートを組み合わせ、従来の海外送付と比較してダウンタイムを大幅に短縮する狙いである。
投資家・ビジネス視点の考察
本記事が示唆するポイントは多い。
1. 電力関連銘柄への波及:ベトナム株式市場では、電力・再エネ関連銘柄(PC1、REE、BCG、GEXなど)が改定QHĐ VIIIの恩恵を受けるテーマとして注目されてきた。しかし、竹澤氏の指摘するように、発電容量の拡大だけでなく「測定・監視・品質管理」というインフラの裏方領域が成長のボトルネックになる可能性がある。BESS関連の投資テーマは今後さらに注目度が高まるだろう。
2. 日本企業の商機:日置電機のようなニッチトップの計測器メーカーにとって、ベトナムは成長市場そのものである。同様に、横河電機、安川電機、オムロンなど、電力品質・産業オートメーション分野に強みを持つ日本企業にとっても追い風だ。ベトナム進出日系製造業にとっては、電力品質の不安定化が生産リスクに直結するため、自社工場の電力品質モニタリング投資を再検討する契機となる。
3. FTSE新興市場指数格上げとの関連:2026年9月に決定が見込まれるFTSE新興市場指数への格上げは、ベトナム市場全体への資金流入を促す。エネルギー転換関連のインフラ投資が加速すれば、電力セクターの時価総額拡大を通じて指数構成銘柄にも好影響をもたらす可能性がある。
4. VinFastとEVエコシステム:VinFast(ナスダック上場:VFS)のバッテリー安全性・品質管理体制は、グローバル投資家の評価に直結する。サードパーティによる高精度検査体制の充実は、同社およびベトナムEV産業全体の国際的信頼性向上に寄与するだろう。
電化とエネルギー転換は、発電や車両といった「表舞台」だけでなく、測定・検定・監視という「縁の下の力持ち」の領域にこそ大きなビジネスチャンスと投資テーマが眠っている。ベトナムの高成長とネットゼロ目標の同時達成には、この分野への投資が不可欠であり、関連企業の動向を注視すべきである。
いかがでしたでしょうか。今回のニュースについて、皆さんのご意見もぜひお聞かせください。コメント欄や@viettechtaroのDMでお待ちしています。
この記事が参考になったら、ぜひXでシェアしていただけると嬉しいです。より多くの方にベトナム投資の魅力を伝えたいと思っています。
ハノイ在住13年日本語で毎日配信。
✅ 個別銘柄の詳細分析 ✅ FTSE格上げ関連速報 ✅ 現地だからわかるリアルタイム情報
👉 月額980円でメンバーシップに参加する
出典: 元記事












コメント