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2025年2月末に始まった米国・イスラエルによるイラン攻撃は3カ月超にわたる長期戦となり、ホルムズ海峡の封鎖を通じてアジア経済に深刻な打撃を与えた。ベトナムもクウェート産原油の調達が途絶し、米国・ナイジェリアからの代替調達を余儀なくされるなど、エネルギー安全保障の脆弱性が浮き彫りとなった。6月14日に米イラン間で停戦延長とホルムズ海峡の航行再開が合意されたが、世界経済への影響は長期化する見通しである。
紛争の経緯と全体像
2025年2月28日、米国とイスラエルはイランに対する軍事作戦を開始した。短期決戦を見込んでいたが、イランは数千発のミサイルと無人機で中東全域に反撃し、戦局は膠着状態に陥った。4月初旬に一度停戦が成立したものの、緊張は完全には収まらず、断続的な交戦が続いた。最終的に6月14日(日曜日)、米イラン双方が停戦延長とホルムズ海峡の航行再開で合意に至っている。英フィナンシャル・タイムズ紙の総合報道をもとに、経済的影響を整理する。
湾岸諸国の被害——インフラ修復に約580億ドル
今回の紛争で特徴的だったのは、イランの報復攻撃が湾岸諸国の近隣国に集中した点である。特にアラブ首長国連邦(UAE、米国・イスラエルと最も緊密な関係を持つ湾岸国)は、湾岸諸国向け攻撃の少なくとも45%を受け、軍事・民間双方の施設が被害を受けた。クウェートとバーレーン(いずれも米軍の大規模基地を抱える湾岸協力会議=GCC加盟6カ国中で最も小さい2国)も、停戦後の交戦で被害を受けている。エネルギー調査会社リスタッド・エナジー(Rystad Energy)によれば、2月末から4月初旬にかけて損傷・破壊された湾岸地域のエネルギーインフラの修復費用は約580億ドルに達する可能性がある。
イラン国内の被害
米国とイスラエルはイラン国内の数千の軍事目標を攻撃した。しかし、橋梁・道路、製鉄所、さらに直近では貯水施設2カ所といった民間・経済インフラも損傷・破壊されており、復興費用は数十億ドル規模に上ると予測されている。正確な被害規模の検証は困難だが、影響は数年にわたって続く見通しである。
米国の戦費——最大340億ドルとの試算
米国側も大きな財政負担を強いられた。5月中旬の議会公聴会で国防総省(ペンタゴン)関係者は、紛争による支出が290億ドルに達したと証言した。一方、シンクタンクのアメリカン・エンタープライズ研究所(AEI)は4月の停戦時点で約250億ドル、実際にはそれを大幅に上回る最大340億ドルに達する可能性があると試算している。米国の消費者にも影響は及び、ガソリン平均価格は戦前の約2.9ドル/ガロンから4ドル/ガロンに上昇。カリフォルニア州では一時6ドル/ガロン近くまで高騰した。
ホルムズ海峡封鎖——1日100隻が127隻/3週間に激減
世界最重要のエネルギー輸送ルートであるホルムズ海峡(ペルシャ湾とオマーン湾を結ぶ幅約33kmの海峡、世界の海上石油輸送の約20%が通過)がイランの支配下に置かれ、商業輸送がほぼ停止した。紛争前は1日平均約100隻が通過していたが、ロイズ・リスト・インテリジェンス(Lloyd’s List Intelligence)のデータによると、5月18日から6月7日までの約3週間でわずか127隻しか通過できなかった。事実上の海上封鎖状態であった。
アジアへの影響——ベトナムは原油調達先を転換
アジアはホルムズ海峡封鎖の影響を最も深刻に受けた地域である。同地域の原油輸入量の約60%が中東産であり、供給途絶は即座にエネルギー危機へとつながった。各国は以下のような緊急対応を迫られた。
- ベトナム:クウェート産原油への依存度が高かったが、供給途絶を受け、米国産およびナイジェリア産原油への調達先転換を実施した。
- フィリピン:エネルギー非常事態を宣言し、5年ぶりにロシアから原油を購入。公務員の週4日勤務制を導入してエネルギー消費を抑制した。
- スリランカ:同様に公務員の週4日勤務制を導入した。
アジア開発銀行(ADB)は先週、域内15カ国がエネルギー危機対応のための緊急融資を求めていると明らかにした。
世界経済への広範な影響——世銀が成長率を下方修正
6月11日(木曜日)、世界銀行(World Bank)はイラン紛争の影響を理由に、全対象国の3分の2について成長率見通しを引き下げた。世界経済の成長率は2025年の約2.9%から2026年には2.5%に減速すると予測されている。経済協力開発機構(OECD)も、欧州の主要経済国が大幅な減速リスクに直面しているとし、2026年の成長率見通しを2025年12月時点の予測から下方修正した。ドイツは消費者・企業向けの燃料支援として16億ユーロを投じ、ディーゼルおよびガソリンに対しリッターあたり17セントの減税を実施している。
投資家・ビジネス視点の考察
今回の紛争は、ベトナム経済・株式市場に対して複数の経路で影響を及ぼしている。
エネルギーコストと企業収益:ベトナムは製造業主導の輸出経済であり、エネルギーコストの上昇は生産コストを直接的に押し上げる。ペトロリメックス(PLX)やPVガス(GAS)といったエネルギー関連銘柄は原油高の恩恵を受ける一方、航空(ベトジェット=VJC、ベトナム航空=HVN)や物流セクターは燃料費増大による利益圧縮が懸念される。
原油調達先の多角化:ベトナムがクウェートから米国・ナイジェリアへ調達先を転換した事実は、短期的にはコスト増要因だが、中長期的にはエネルギー安全保障の強化につながる。ベトナム政府が再生可能エネルギーや液化天然ガス(LNG)インフラへの投資を加速させる契機となる可能性がある。
VN指数への影響:世界的なリスクオフ局面ではベトナム株式市場からの資金流出が加速しやすい。ただし、停戦合意によるホルムズ海峡再開はエネルギー価格の安定化を通じて市場心理を改善させる可能性がある。
FTSE新興市場指数格上げとの関連:2026年9月に決定が見込まれるFTSE新興市場指数へのベトナムの格上げに向けて、マクロ経済の安定性は重要な評価要素となる。今回のような外的ショックへの耐性と政策対応の迅速さが注目されるだろう。
日系企業への影響:ベトナムに生産拠点を持つ日系製造業(自動車部品、電子機器など)にとって、エネルギーコスト上昇は利益率を圧迫する要因である。一方で、中東リスクの高まりはチャイナプラスワン・中東プラスワンとしてのベトナムの相対的な立地優位性を再確認させる側面もある。
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出典: 元記事












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