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ベトナムの医薬品調達をめぐる大型汚職事件の控訴審判決が2025年6月15日に言い渡され、ホーチミン市伝統医薬学研究所の元所長フイン・グエン・ロック(Huỳnh Nguyễn Lộc)被告が収賄罪で懲役14年から11年6か月に減刑された。全国13か所の医療機関に対し計710億ドンもの賄賂が渡された本事件は、ベトナムの医療セクターにおける構造的な腐敗の深刻さを改めて浮き彫りにしている。
控訴審判決の概要
6月15日午後、ハノイの最高人民裁判所控訴審法廷は、ランQ株式会社(Công ty cổ phần Y dược LanQ、以下「ランQ社」)およびソンラム製薬株式会社(Công ty cổ phần Dược Sơn Lâm、以下「ソンラム社」)をめぐる収賄・贈賄・詐欺事件の控訴審を一日で審理し、判決を言い渡した。主な被告への量刑は以下の通りである。
- グエン・マイン・クエン(Nguyễn Mạnh Quyền)被告(ランQ社総社長):詐欺および贈賄の罪で懲役17年(一審19年から2年減刑)
- ファム・バン・カック(Phạm Văn Cách)被告(ソンラム社取締役会会長):詐欺および贈賄の罪で懲役11年6か月(一審15年から3年6か月減刑)
- フイン・グエン・ロック(Huỳnh Nguyễn Lộc)被告(ホーチミン市伝統医薬学研究所元所長):収賄罪で懲役11年6か月(一審14年から2年6か月減刑)
このほか複数の被告についても減刑が認められ、一部は実刑から執行猶予付きの判決に変更された。
事件の全容—医薬品調達に絡む組織的汚職
一審判決によれば、ソンラム社のファム・バン・カック被告は、同社の医薬品供給を円滑に進めるため、全国13か所の伝統医学病院・医療センターの権限ある個人に対し、契約の前後を問わず計710億ドンの賄賂を提供していた。ベトナムの公立医療機関における医薬品調達は入札制度を通じて行われるが、カック被告はランQ社のクエン被告と共謀し、不正な手段でソンラム社を唯一の落札者とする仕組みを構築。その後、薬の仕入れ価格を水増しし、バクザン省(Bắc Giang、ハノイの北東約50キロに位置する省)の社会保険機関と精算していた。
さらに、ランQ社はランQ伝統医学病院での保険診療を通じて、バクザン省社会保険および患者の自己負担分から計400億ドンの支払いを受けており、クエン被告と共犯者らはこのうち180億ドンを医薬品売買を通じて不正に取得したとされる。
フイン・グエン・ロック被告については、ホーチミン市伝統医薬学研究所(Viện Y dược học dân tộc TP.HCM)の所長として、保険診療用の医薬品購入契約の締結・履行に関する決定権を有する立場にありながら、その職権を利用してカック被告から470億ドン超の賄賂を受け取っていた。同研究所はホーチミン市における伝統医学の中核的機関であり、その長が汚職に関与していた事実は医療行政への信頼を大きく損なうものである。
減刑の理由—被害弁済と情状酌量
控訴審において、各被告は新たな情状として、勤務時代の功績、多数の個人・団体からの嘆願書、被害の弁済(「khắc phục hậu quả」=損害の回復)、誠実な供述などを提出した。とりわけロック被告の家族は損害の全額を弁済しており、クエン被告も160億ドン超を返納している。ベトナムの刑事司法において、被害弁済は量刑上極めて重要な情状酌量事由として扱われており、今回の減刑もこれに基づくものである。
ベトナム医療セクターの構造的問題
本事件は、ベトナムの公的医療機関における医薬品調達の入札プロセスが、いかに汚職の温床となりやすいかを示す典型的な事例である。ベトナムでは近年、共産党指導部が主導する大規模な反腐敗キャンペーン(通称「燃える炉」運動)が展開されており、医療分野でもCOVID-19検査キット不正事件(ビエットア社事件)など、複数の大型汚職事件が摘発されてきた。入札制度の透明性向上、電子調達システムの導入、独立した監査機関の強化といった制度改革が進められているものの、現場レベルでの利権構造は根深く、改革の道のりは依然として長い。
投資家・ビジネス視点の考察
本事件は直接的に上場企業に関わるものではないが、ベトナムの医薬品セクターに投資する際のリスク要因として注目すべきポイントがいくつかある。
第一に、医薬品流通・調達に関するコンプライアンスリスクである。ベトナムの医薬品市場は年間成長率10%前後で拡大を続けており、日本の製薬企業や商社にとっても魅力的な市場である。しかし、公立病院への医薬品供給には入札を通じた調達が必要であり、本事件が示すように不正が介在するリスクは依然高い。日系企業がベトナムで医薬品事業を展開する際には、現地パートナーの選定において厳格なデューデリジェンスが不可欠である。
第二に、反腐敗キャンペーンの継続がガバナンス改善につながる可能性である。ベトナム政府が2026年9月に決定が見込まれるFTSE新興市場指数への格上げを目指す中で、法の支配や制度の透明性は格上げ審査においても間接的に評価される要素である。医療分野を含む公共調達の透明性向上は、ベトナム全体のガバナンス・スコア改善に寄与し得る。
第三に、医薬品関連上場銘柄への短期的影響は限定的と見られる。本事件の関係企業は非上場であり、ホーチミン証券取引所(HOSE)やハノイ証券取引所(HNX)に上場する大手製薬銘柄(DHG=ハウザン製薬、IMP=イムクソン製薬、DMC=ドメスコなど)への直接的な波及は考えにくい。ただし、医療セクター全体に対する規制強化の流れが加速すれば、入札依存度の高い中小医薬品企業の業績に影響が出る可能性はある。
ベトナムの反腐敗運動は短期的には市場に不透明感をもたらすこともあるが、中長期的には制度の健全化と外国投資家の信頼醸成に資するものであり、投資家としては冷静にその進展を見守る姿勢が求められる。
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出典: 元記事












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