ハノイ在住13年の現地投資家による、より深い企業分析・投資戦略は👉 メンバーシップで公開中
ベトナム株式市場は2026年上半期、VN-Indexこそ上昇基調を見せたものの、実態はビングループ(Vingroup)系銘柄への一極集中が鮮明となり、市場全体の75%がMA200(200日移動平均線)を下回るという異常な二極化状態に陥っている。ACB証券(ACBS)のド・ミン・チャン分析センター長は「現金比率を高め、割安圏でのみ投資すべき」と明確に警鐘を鳴らした。
上半期の市場:指数は上昇、中身はボロボロ
2026年上半期のベトナム株式市場は、VN-Indexが一時5月に新高値を更新するなど表面上は好調に見えた。しかし、その上昇を牽引したのはVIC(ビンコム・グループ)やVHM(ビンホームズ)といったビングループ系の大型株に限られ、大多数の銘柄はむしろ下落していた。
この二極化の深刻さを示すデータがある。ホーチミン証券取引所(HoSE)では上場銘柄の75%が、ハノイ証券取引所(HNX)でも63%がMA200を下回って推移しているのである。VN-Indexの見かけ上の好調とは裏腹に、市場の「体力」は著しく低下している状態だ。
取引高の落ち込みも顕著である。三市場合算で1日あたり約1兆3,000億ドンという記録的な薄商いの日も発生した。2026年第2四半期の1日平均売買代金は約2兆4,000億ドンにとどまり、第1四半期比で76%、2025年第3四半期のピーク時比で60%の水準まで縮小している。
流動性急減の3つの要因
ACBSのチャン氏は、流動性が急減した背景として3つの要因を指摘する。
第一に、信用成長の引き締めである。ベトナム国家銀行(中央銀行)は2026年の信用成長率の上限を15%、四半期あたり約3%に設定した。2025年の実績が19.1%であったことと比較すると、大幅な引き締めとなる。金融機関から証券市場へ流れる資金が構造的に絞られている格好だ。
第二に、預金金利の上昇である。2026年上半期、個人向け預金金利は大きく上昇しており、リスクを取って株式市場に参加するよりも、高金利の預金に資金を移す投資家が増加した。
第三に、外国人投資家の資金流出である。世界的なインフレ圧力と金利上昇傾向の中、外国人投資家は新興国市場全般から資金を引き揚げ、先進国市場やAI・半導体・クラウドといったテーマ投資へ資金をシフトさせている。これはベトナムに限った現象ではなく、アジアの新興国市場に共通する構造的な資金流出である。
割安なのに買われない——P/E 11.35倍の「隠れたバリュー」
興味深いのは、市場全体の割安感が顕著に出ている点である。Fiinproのデータによれば、VN-IndexのP/E(株価収益率)は約13.9倍。しかしビングループ系4銘柄を除外すると、市場全体のP/Eは11.35倍まで低下する。この水準は過去10年間の平均から1標準偏差を下回る、統計的に見ても「割安」と判断できる水準である。
にもかかわらず株価が上がらないのは、流動性の枯渇が最大のボトルネックとなっているためだ。割安でも買い手がいなければ株価は上がらない——これが現在のベトナム市場の本質的な課題である。
下半期の展望:VN-Index 1,750〜1,950ポイントを想定
チャン氏は2026年下半期についても慎重な見方を示す。ベトナム経済自体はGDP成長率8%超を維持し、上場企業の利益成長率も14〜15%程度が見込まれるものの、外部環境が追い風とならない。中東情勢の緊迫化に伴う原油価格高騰によるインフレ再燃リスク、さらには世界経済の景気後退懸念が重くのしかかる。
ACBSの基本シナリオでは、VN-Indexは1,750〜1,950ポイントのレンジで推移し、取引高も「中程度」にとどまると予想している。市場の上昇は引き続き一部の銘柄に集中し、全体に広がる展開は期待しにくい。
注目すべき投資テーマと推奨戦略
下半期に注目すべき投資テーマとして、ACBSは以下の4つを挙げている。
①市場格上げ関連銘柄:FTSE新興市場指数への正式格上げに関連し、外国人投資枠(ルーム)があり、FTSE ETFの構成銘柄に含まれる大型株。銀行、不動産、小売セクターの大型株が中心となる。
②公共投資関連銘柄:建設資材やインフラ関連の業界トップ企業。ベトナム政府が推進する大規模インフラ投資の恩恵を受ける。
③原油高の恩恵を受ける石油ガス関連銘柄:上流・中流に位置し、受注残(バックログ)が大きく、現金比率が高く負債が少ない企業。
④ディフェンシブ・高配当銘柄:生活必需品、電力・水道、小売セクターで、低負債・強いキャッシュフロー・高い現金配当利回りを持つ企業。
そして最も重要な推奨は、「現金比率を高めること」である。チャン氏は「現在の高金利環境を活用し、余剰資金は預金、譲渡性預金証書(CD)、または魅力的な利回りの社債に配分すべき。株式への投資は、バリュエーションが十分に魅力的な水準に下がった時にのみ実行すべき」と明確に述べている。
投資家・ビジネス視点の考察
今回のACBSの分析は、ベトナム株式市場の「見かけの好調」と「実態の脆弱さ」のギャップを鋭く指摘するものであり、日本人投資家にとっても重要な示唆を含んでいる。
まず、2026年9月に予定されるFTSE新興市場指数への正式格上げは、中長期的にはベトナム市場にとって最大のカタリストとなる。しかし短期的には、格上げ期待で先回りした資金が既に大型株に集中しており、「格上げ実現=全面高」という単純なシナリオは成立しにくい。むしろ格上げ後のETF資金流入がどの程度の規模になるかが焦点となる。
日本企業やベトナム進出企業の観点では、信用引き締めの影響に注意が必要である。ベトナム国内の資金調達環境がタイト化する中、現地パートナー企業や取引先の財務状況悪化リスクが高まる可能性がある。一方で、ベトナムのGDP成長率8%超という実体経済の強さは健在であり、中長期的な進出・投資の妥当性は揺るがない。
P/E 11.35倍(ビングループ除外)という水準は、歴史的に見て極めて魅力的である。流動性が回復する局面——たとえば中央銀行の信用枠拡大、預金金利の頭打ち、外国人資金の回帰——が訪れた際には、出遅れ銘柄の急激なリバウンドが期待できる。現金を確保しつつ、その「瞬間」に備えるというACBSの戦略は、合理的と言えるだろう。
いかがでしたでしょうか。今回のニュースについて、皆さんのご意見もぜひお聞かせください。コメント欄や@viettechtaroのDMでお待ちしています。
この記事が参考になったら、ぜひXでシェアしていただけると嬉しいです。より多くの方にベトナム投資の魅力を伝えたいと思っています。
ハノイ在住13年日本語で毎日配信。
✅ 個別銘柄の詳細分析 ✅ FTSE格上げ関連速報 ✅ 現地だからわかるリアルタイム情報
👉 月額980円でメンバーシップに参加する
出典: 元記事












コメント