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ベトナムのレー・ミン・フン(Lê Minh Hưng)首相が、ASEAN(東南アジア諸国連合)とロシアの協力関係において、エネルギー分野を主要な柱として位置づけるよう提案した。具体的にはLNG(液化天然ガス)、水素(hydrogen)、洋上風力発電を協力の中核に据えるという内容であり、ベトナムが進めるエネルギー転換戦略と、ASEAN全体のエネルギー安全保障の両面から注目すべき動きである。
提案の概要—フン首相が示した3つのエネルギー領域
フン首相は、ASEAN・ロシア間の今後の協力において、以下の3分野をエネルギー協力の柱とすることを提案した。
- LNG(液化天然ガス):東南アジア各国で急増する電力需要に対応するための安定的なガス供給源の確保
- 水素エネルギー:脱炭素化に向けた次世代燃料として、製造・輸送・利用の各段階での協力
- 洋上風力発電(điện gió ngoài khơi):ベトナムをはじめ、長い海岸線を有するASEAN諸国が持つ膨大な洋上風力ポテンシャルの開発
この提案は、ASEAN・ロシア首脳会合の場で行われたものとみられ、ベトナムが議長国としてではなく、一加盟国として積極的にアジェンダを設定しようとする姿勢がうかがえる。
背景—ベトナムが描くエネルギー転換の全体像
ベトナムは現在、国家エネルギー戦略において大きな転換点を迎えている。2023年に承認された「第8次国家電力開発計画(PDP8)」では、2030年までに洋上風力発電の導入容量を6GWとする目標が掲げられた。さらに、ベトナム政府は2050年のカーボンニュートラル達成を国際公約としており、化石燃料からの脱却を急いでいる。
一方で、ベトナムの電力需要は年率10%前後の伸びが続いており、再生可能エネルギーだけでは短中期的に賄いきれない。このギャップを埋める「橋渡し燃料」として、LNGの重要性が急速に高まっている。ベトナム南部のバリア=ブンタウ省(Bà Rịa – Vũng Tàu)では複数のLNG受入ターミナルが建設・計画段階にあり、国内のLNGインフラ整備は着々と進んでいる。
ロシアは世界有数の天然ガス産出国であり、かつ水素製造においても豊富な資源を背景に技術開発を進めている。ベトナムにとって、ロシアはソビエト時代からの伝統的な友好国であり、石油・ガス分野ではベトソフペトロ(Vietsovpetro、越露合弁石油企業)を通じた数十年にわたる協力実績がある。この歴史的な関係を、新たなエネルギー領域に拡大しようというのがフン首相の提案の本質と言えるだろう。
ASEAN全体のエネルギー課題とロシアとの関係
ASEAN全体で見ると、域内の一次エネルギー消費は今後20年間で倍増するとの予測がある。インドネシア、フィリピン、ベトナムなど人口の多い国々を中心に工業化・都市化が急速に進んでおり、安定的かつ多様なエネルギー供給源の確保はASEAN共通の課題である。
ロシアは2022年のウクライナ侵攻以降、欧州向けのエネルギー輸出が大幅に縮小し、アジア太平洋地域への販路拡大を模索している。ASEAN諸国にとっては、ロシアからの調達はエネルギー供給の多角化というメリットがある反面、西側諸国との外交バランスへの配慮も求められる。フン首相の提案は、エネルギー安全保障という実利的な議題を前面に出すことで、政治的なセンシティビティを抑えつつ実質的な協力を推進する狙いがあると見られる。
洋上風力—ベトナムの「成長フロンティア」
特に注目すべきは洋上風力発電の位置づけである。ベトナムは約3,260kmの海岸線を有し、世界銀行の推計では洋上風力の発電ポテンシャルは約475GWに達するとされている。これは東南アジアで最大規模であり、ベトナム政府はこの分野を国家的な成長産業として位置づけている。
2024年から2025年にかけて、ベトナム政府は洋上風力に関する法整備を加速させてきた。海域の使用権、環境影響評価の手続き、電力買取価格(FIT)の見直しなどが進められており、外国企業の参入環境も徐々に整いつつある。デンマークのオーステッド(Ørsted)や日本のJERA、住友商事など、複数の国際企業がベトナムの洋上風力プロジェクトへの参入を検討・推進している。
ロシアとの協力という文脈では、洋上風力のインフラ建設に必要な鋼材や特殊機材の供給、あるいは北極圏での洋上開発で培ったロシアの技術知見の活用といった可能性が考えられる。
投資家・ビジネス視点の考察
今回のフン首相の提案は、ベトナム株式市場に対して直接的・短期的なインパクトをもたらすものではないが、中長期的な投資テーマとして以下の点に注目すべきである。
1. エネルギー関連銘柄への追い風:ペトロベトナムガス(GAS)、ペトロベトナム・パワー(POW)など、LNG関連事業を手がける上場企業は、ASEAN・ロシア間のエネルギー協力拡大の恩恵を受ける可能性がある。また、洋上風力関連では、ベトナムの電力公社EVN傘下企業や、風力発電所の建設・運営を手がける企業群の動向にも注目したい。
2. 日本企業への示唆:日本はベトナムのエネルギー分野において最大級のパートナーである。JICAを通じたLNGインフラ支援、丸紅・三菱商事・住友商事などの総合商社による発電所プロジェクトへの参画実績がある。ロシアとの協力拡大が進む場合、日本企業にとっては競争環境の変化を注視する必要がある一方、ASEAN全体のエネルギー市場拡大という大きなパイの恩恵を受ける可能性もある。
3. FTSE新興市場指数への格上げとの関連:2026年9月に決定が見込まれるベトナムのFTSE新興市場指数への格上げは、海外投資家のベトナム株市場への資金流入を大幅に拡大させると期待されている。エネルギー分野の国際協力拡大は、ベトナム経済の成長ストーリーを強化する材料であり、格上げ後の投資資金の受け皿となるセクターの厚みを増す意味でもポジティブに評価できる。
4. 地政学リスクへの目配り:ロシアとの協力拡大は、米国をはじめとする西側諸国の制裁レジームとの整合性が常に問われる。ベトナムは「竹外交(ngoại giao cây tre)」と呼ばれる全方位外交を展開しており、米中ロいずれの大国とも一定の距離感を保ちつつ実利を追求する姿勢を貫いている。投資家としては、この外交バランスが崩れるリスクシナリオも念頭に置くべきである。
総じて、フン首相の今回の提案は、ベトナムが自国のエネルギー転換を国際協力のフレームワークの中で推進しようとする戦略的な動きである。エネルギー安全保障と脱炭素化という二つの課題を同時に追求するベトナムの姿勢は、同国の長期的な成長ポテンシャルを裏付けるものと言えるだろう。
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出典: 元記事












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