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2025年6月18日、ハノイ市公安局(ベトナムの首都ハノイにおける警察機関)は、クレジットカードのPOS端末を悪用した不正現金化サービス、いわゆる「カード回し(đảo thẻ)」に対する警戒を呼びかける通達を発出した。複数のクレジットカードを使い回して返済を先延ばしにする組織的な手口が横行しており、不良債権の増加やキャッシュレス決済システムの信頼性毀損など、ベトナムの金融セクター全体に波及しかねないリスクが指摘されている。
「カード回し」の具体的な手口
ハノイ市公安局の発表によれば、近年、銀行カード決済の仕組みを悪用し、POS端末(カード決済端末機)を通じてクレジットカードの利用枠から不正に現金を引き出す行為が急増している。その手口は以下のとおりである。
まず、実態のないペーパーカンパニーや個人事業主を設立し、形式上は事業者として登録する。しかし実際には商品やサービスの売買は一切行われない。この「幽霊事業者」がPOS端末の設置許可を取得すると、顧客のクレジットカードを端末に通し、あたかも正規の商取引が行われたかのように決済を偽装する。実質的にはクレジットカードの利用枠を現金化しているに過ぎない。決済が成立すると、業者はカード所有者に現金を渡し、取引額の2%〜10%を手数料として徴収する。
さらに悪質なケースでは、複数のクレジットカードを用いて返済を「自転車操業」的に回す組織的サービスも存在する。Aカードの返済期限が迫ればBカードで決済を行い、その資金でAカードの返済に充てるといった形で、債務の支払いを延々と繰り延べ、実質的な支払い不能状態を隠蔽するのである。当局の摘発を逃れるため、取引を少額に分割したり、複数のPOS端末・複数の銀行口座を経由させたりする巧妙な手法も確認されている。
法的リスクと金融システムへの影響
ハノイ市公安局は、こうした行為が銀行関連法規への違反にとどまらず、詐欺、マネーロンダリング(資金洗浄)、脱税など複数の犯罪類型に該当し得ると警告している。ベトナムでは近年、キャッシュレス決済の普及を国策として推進しており、QRコード決済やモバイルバンキングの利用率は急速に伸びている。しかし、POS端末の不正利用が横行すれば、キャッシュレス決済インフラそのものへの信頼が揺らぎかねない。
また、この種の不正は銀行の不良債権比率を押し上げる要因となる。カード所有者が最終的に返済不能に陥った場合、損失を被るのはカード発行銀行である。ベトナムの銀行セクターは2024年以降、不良債権比率の改善傾向にあるものの、こうした「隠れ不良債権」の存在は統計上の数字に反映されにくく、実態把握を困難にしている。
ハノイ市公安局の勧告
ハノイ市公安局は市民に対し、以下の点を強く呼びかけている。
- いかなる形態の「カード回し」「クレジットカード期限延長代行」サービスにも参加しないこと
- クレジットカードは本来の用途で使用し、自身の返済能力に見合った利用を心がけること
- 他人にカードを貸さないこと。カード情報、OTPコード(ワンタイムパスワード)、取引暗証番号を第三者に提供しないこと
- 口座の入出金状況を日常的に確認し、不審な取引を発見した場合は速やかに銀行へ連絡すること
また、POS端末を設置している事業者に対しても、架空取引を行わないこと、端末を第三者に貸与しないこと、不正な現金化行為に加担しないことを求めている。
投資家・ビジネス視点の考察
今回のニュースは、ベトナムの金融インフラの急速な発展と、それに伴う規制・監視体制の課題を浮き彫りにするものである。投資家やベトナム進出を検討する日本企業にとって、いくつかの重要な示唆がある。
第一に、銀行セクターの資産の質への注意である。ベトナムの上場銀行(VCB=ベトコムバンク、TCB=テクコムバンク、MBB=MBバンクなど)は、個人向けクレジットカード事業を成長ドライバーの一つとして拡大してきた。カード不正利用の蔓延は、クレジットカード関連の不良債権増加リスクとして注視すべきである。特に消費者金融比率の高い銀行ほど影響を受けやすい。
第二に、フィンテック・決済関連企業への規制強化の可能性である。ベトナム国家銀行(中央銀行)はキャッシュレス社会の実現を目指しつつも、不正防止のための規制を段階的に強化している。POS端末の設置審査厳格化やKYC(本人確認)要件の引き上げが進めば、決済サービスを展開する企業のコンプライアンスコストは上昇する。日本のフィンテック企業やカード会社がベトナム市場に参入する際には、こうした規制環境の変化を十分に織り込む必要がある。
第三に、2026年9月に判断が見込まれるFTSE新興市場指数への格上げとの関連である。格上げの条件の一つに金融市場の透明性・健全性が含まれる。ベトナム当局がこうした金融犯罪の摘発に積極的な姿勢を見せていること自体は、市場の健全化に向けたポジティブなシグナルと捉えることもできる。規制の「締め付け」ではなく「正常化」として評価されれば、海外機関投資家の信認向上につながるだろう。
ベトナムのクレジットカード発行枚数は年々増加しており、若年人口の多さも相まって消費者信用市場の成長余地は依然として大きい。しかし、その裏側で今回のような不正スキームが蔓延すれば、市場全体の信頼を損ない、成長の足かせとなりかねない。当局の取り締まり強化と、銀行側のリスク管理体制の高度化が、今後の健全な市場拡大の鍵を握ることになる。
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ハノイ在住13年日本語で毎日配信。
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出典: 元記事












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