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ベトナムにおけるグリーン融資(環境配慮型の「グリーンクレジット」)が、総融資残高のわずか約4.3%にとどまっていることが明らかになった。しかもその大半は大規模プロジェクトに集中しており、経済の屋台骨を支える中小企業(SME)にはほとんど届いていない。Ban IV(首相直属の民間経済諮問委員会「第4委員会」)の代表が指摘したこの実態は、ベトナムが掲げる2050年カーボンニュートラル目標の達成に向けた金融面での大きな課題を浮き彫りにしている。
グリーンクレジットの現状——数字が示す偏り
Ban IV(バン・ボン)は、ベトナム首相府直属の民間セクター経済発展に関する諮問機関であり、民間企業の声を政策に反映させる役割を担っている。同委員会の代表によると、ベトナムの銀行セクター全体のグリーンクレジット残高は総融資残高の約4.3%に過ぎない。これは、国際的にESG(環境・社会・ガバナンス)投資や脱炭素の潮流が加速するなかで、ベトナムの金融システムがまだ十分にグリーントランジションを支援する体制を整えられていないことを意味する。
さらに深刻なのは、その限られたグリーン融資の大部分が大規模プロジェクト——たとえば大型太陽光発電所、風力発電施設、大手不動産デベロッパーのグリーンビルディングなど——に集中している点である。ベトナム経済において企業数の約98%を占めるとされる中小企業は、グリーン融資の恩恵をほとんど受けられていないのが実情だ。
なぜ中小企業にグリーン融資が届かないのか
この偏りにはいくつかの構造的要因がある。第一に、グリーンプロジェクトの定義や基準が統一されておらず、銀行側が中小企業の小規模な環境改善投資を「グリーン」として認定する明確なガイドラインが不十分なことが挙げられる。ベトナム国家銀行(SBV、中央銀行)は近年グリーンクレジットの枠組み整備に動いているものの、実務上は大企業向けの大型案件のほうが審査コストに見合いやすく、銀行の融資判断も大型プロジェクトに傾きがちである。
第二に、中小企業側にもグリーン投資に関する知見やノウハウが不足している。省エネ設備への切り替えや排水処理システムの導入といった環境対応投資は、初期コストが大きく、投資回収期間も長い。資金力に余裕がない中小企業にとっては、通常のビジネスローンで運転資金を確保するだけでも精一杯であり、グリーン融資を申請するインセンティブも手続き能力も限られているケースが多い。
第三に、担保要件の壁がある。ベトナムの銀行融資は依然として不動産を中心とした担保主義が根強く、中小企業がグリーンプロジェクト用に無担保や信用ベースで融資を受けることは容易ではない。大企業であれば、プロジェクト自体の将来キャッシュフローやカーボンクレジットの売却見込みを裏付けとしたプロジェクトファイナンスが組めるが、小規模事業者にはそうした選択肢がほぼ存在しない。
ベトナム政府の脱炭素目標との整合性
ベトナムは2021年のCOP26(国連気候変動枠組条約第26回締約国会議)で、2050年までにカーボンニュートラルを達成するという野心的な目標を表明した。その後、JETP(公正なエネルギー移行パートナーシップ)を通じて、先進国グループから155億ドル規模の支援パッケージが約束されるなど、国際社会からの期待も大きい。また、国内でも第8次電力開発計画(PDP8)において再生可能エネルギーの比率を段階的に引き上げる方針が示されている。
しかし、これらの壮大な目標を現実のものとするには、金融セクターの底上げが不可欠である。グリーン融資が大型案件に偏り、経済全体の裾野を支える中小企業に行き渡らない状態では、サプライチェーン全体のグリーン化は進まない。たとえば、日系メーカーのベトナムにおけるサプライヤーの多くはベトナム系中小企業であり、そのサプライヤーが環境対応できなければ、最終製品のカーボンフットプリントを下げることも困難になる。
国際的文脈——EUの炭素国境調整メカニズム(CBAM)の影響
この問題は、ベトナムの輸出産業にとって喫緊の課題でもある。EUが段階的に導入を進めている炭素国境調整メカニズム(CBAM)は、輸入品に対してその製造過程で排出されたCO2に応じた課金を行う仕組みである。ベトナムはEUへの輸出大国であり、鉄鋼・セメント・アルミニウムなどCBAM対象品目を多く輸出している。中小企業のグリーン化が遅れれば、ベトナム製品の国際競争力低下に直結しかねない。
投資家・ビジネス視点の考察
このニュースはベトナム株式市場において、いくつかの重要な示唆を含んでいる。
銀行セクターへの影響:グリーンクレジットの拡大は今後、ベトナムの銀行にとって成長分野の一つとなる。現在、グリーン融資に積極的とされる銀行——たとえばVietcombank(VCB)やHDBank(HDB)、BIDV(BID)など——は、国際金融機関からのグリーンボンド資金調達や技術支援を受けており、中長期的にはグリーン融資ポートフォリオの拡大が収益源となる可能性がある。一方で、グリーン融資の審査基準厳格化は短期的にはコスト増要因ともなりうる。
日本企業への影響:ベトナムに進出している日系製造業にとって、サプライチェーン上の中小企業パートナーが環境規制に対応できるかどうかは、自社のESGコンプライアンスにも直結する問題である。JICA(国際協力機構)やJBIC(国際協力銀行)を通じた中小企業向けグリーンファイナンスの支援拡大は、日越双方にとってウィンウィンの機会となりうる。
FTSE新興市場指数への格上げとの関連:2026年9月に決定が見込まれるFTSE新興市場指数へのベトナム格上げが実現すれば、海外機関投資家からの資金流入が大幅に増加する見通しである。ESG基準を重視するグローバルファンドにとって、ベトナムのグリーンファイナンスの整備状況は投資判断の重要な材料となる。グリーンクレジットの偏りが解消されず、中小企業を含む経済全体のサステナビリティが担保されなければ、ESGスコアの低さが格上げ後の資金流入の足かせになるリスクもある。
今後の注目点:ベトナム国家銀行がグリーンクレジットのガイドラインをどこまで具体化・拡充するか、また中小企業向けのグリーン融資促進策(利子補給、保証基金の設立など)が打ち出されるかどうかが、今後の政策の焦点となる。Ban IVの提言が具体的な政策に反映されるスピード感にも注目したい。
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