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世界的な指数算出会社であるMSCI(モルガン・スタンレー・キャピタル・インターナショナル)は、2025年の年次市場分類レビューにおいて、ベトナム株式市場を新興市場(Emerging Markets)への格上げ監視リスト(ウォッチリスト)に追加しなかった。ベトナムは近年、市場アクセスの改善に向けた多くの改革を実施し、MSCI側もそれらを認知していたにもかかわらず、分類変更には至らなかった。この結果は、ベトナム株式市場の国際的な位置づけに関心を持つ投資家にとって、重要な意味を持つ。
MSCIが評価を据え置いた背景
MSCIは毎年6月に年次市場分類レビュー(Annual Market Classification Review)を公表し、各国の株式市場をフロンティア市場(Frontier Markets)、新興市場(Emerging Markets)、先進国市場(Developed Markets)の3段階に分類している。ベトナムは現在「フロンティア市場」に分類されており、格上げを目指すには、まず「新興市場への格上げ監視リスト」に掲載される必要がある。監視リスト入りから実際の格上げまでには通常1〜2年を要するため、今回の見送りは、ベトナムの新興市場入りがさらに先送りになったことを意味する。
MSCIは今回のレビューにおいて、ベトナム当局がここ数年で実施してきた制度改革の進展を認めつつも、依然として市場アクセスに関する複数の課題が残存していると判断したとみられる。具体的には、外国人投資家の売買における事前資金入金(プリファンディング)要件の完全撤廃、情報開示の英語対応、外国人保有比率の上限規制(FOL: Foreign Ownership Limit)の柔軟化といった点が、これまでMSCIが繰り返し指摘してきた主要課題である。
ベトナムの改革はどこまで進んだか
ベトナム政府および証券当局は、MSCIやFTSEラッセルなど国際的な指数提供会社からの格上げを重要な政策目標として掲げ、近年急ピッチで制度改革を進めてきた。2023年11月には改正証券法が国会で可決され、2024年以降は新たな証券取引制度が段階的に導入されている。
とりわけ注目されたのが、外国人投資家に対するプリファンディング要件の緩和である。従来、ベトナム市場では外国人投資家が株式を購入する際、注文時点で取引口座に全額を入金しておく必要があった。これは国際的な慣行とは大きく異なり、MSCI・FTSEの両方が格上げの障壁として指摘してきた項目だ。ベトナム証券保管振替機関(VSD)は、ノンプリファンディング(NPI: Non-Prefunding of Trades)の仕組みを導入し、一定の条件下で事前入金なしの取引を可能にする方向で制度設計を進めてきた。
また、ホーチミン証券取引所(HOSE)では、新たな取引システム「KRX」(韓国取引所の技術を基盤としたシステム)の導入が長年遅延していたが、2025年に入りようやく本格稼働が進んでいる。KRXシステムは、取引の安定性向上やデリバティブ商品の多様化を可能にするもので、市場のインフラ面での信頼性を高めるものと期待されてきた。
こうした改革の進展にもかかわらず、MSCIは今回、監視リスト入りを見送った。これは、制度の「制定」と「実運用」の間にまだギャップがあること、あるいは改革の効果を確認するためにもう少し実績データが必要だとMSCIが判断した可能性を示唆している。
FTSEとMSCIの違い——ベトナムの「二正面作戦」
ここで重要なのは、MSCIとFTSEラッセルが異なる基準・スケジュールで市場分類を行っている点である。FTSEラッセルは、ベトナムをすでに「新興市場への格上げ候補」として監視リスト(Secondary Emerging Market Watch List)に掲載しており、2025年3月のレビューでもその位置づけを維持した。FTSEによる新興市場への正式格上げは、2025年9月のレビューで最終判断が行われ、早ければ2026年9月に実施される見通しである。
つまり、ベトナムはFTSEの格上げ審査では前進を続けている一方、MSCIの審査ではまだスタートラインにすら立てていないという、非対称な状況にある。MSCIの新興市場指数は、FTSEの指数と並んで世界中の機関投資家が運用のベンチマークとして採用しており、MSCIでの格上げが実現すれば、推定で数十億ドル規模のパッシブ資金がベトナム市場に流入すると試算されてきた。今回の見送りは、少なくとも短期的にはその期待が後退したことを意味する。
投資家・ビジネス視点の考察
ベトナム株式市場への影響
今回のMSCIの判断は、短期的にはベトナム株式市場にとってネガティブ材料となる。VN-Index(ベトナムを代表する株価指数)は、MSCI格上げ期待を織り込んで推移してきた側面があり、期待の剥落は一時的な売り圧力につながる可能性がある。特に、外国人投資家の保有比率が高い大型銘柄——ビングループ(Vingroup、ベトナム最大手のコングロマリット、ティッカー:VIC)、FPT(ベトナム最大手のIT企業)、ビンホームズ(Vinhomes、大手不動産デベロッパー、ティッカー:VHM)など——は影響を受けやすいと考えられる。
FTSEの格上げとの関連性
一方で、投資家が過度に悲観する必要はないとも言える。FTSEラッセルによる新興市場への格上げは、依然として2026年9月に実現する可能性が高いとみられており、こちらが実現するだけでも、推定で10億ドル以上のパッシブ資金流入が見込まれている。FTSEの格上げが先行すれば、それ自体がMSCIの評価にもプラスの影響を与える可能性がある。つまり、FTSEの格上げが「呼び水」となり、MSCIの監視リスト入りが翌年以降に実現するというシナリオも十分に想定できる。
日本企業・ベトナム進出企業への影響
日本はベトナムにとって最大級の投資国であり、多くの日系企業がベトナムに製造拠点やサービス拠点を置いている。市場の国際化が進むことは、日系企業にとっても、現地子会社のIPOやベトナム市場での資金調達といった選択肢が広がることを意味する。MSCIの格上げが遅れたことで、こうした動きのタイムラインにも若干の影響が出る可能性があるが、根本的なベトナム経済の成長トレンド——若い労働力、堅調なGDP成長率、チャイナ+1戦略による製造業の流入——は変わらない。
ベトナム経済全体のトレンドにおける位置づけ
ベトナム政府は2025年のGDP成長率目標を8%以上に設定しており、製造業の輸出拡大、外国直接投資(FDI)の増加、デジタル経済の成長などがその原動力となっている。株式市場の格上げは、こうした実体経済の成長を金融市場の発展と結びつけるための「最後のピース」のひとつである。今回のMSCIの見送りは挫折ではあるが、ベトナムの市場改革が着実に進んでいること自体はMSCI自身も認めている。改革の成果が実運用レベルで定着すれば、来年以降の格上げ審査で前進する余地は十分にある。
長期的な視点で見れば、ベトナムがMSCI新興市場に分類されるのは「もし」ではなく「いつ」の問題であるとの見方は、多くのアナリストに共有されている。投資家にとっては、格上げ前の現在こそが、割安な水準でポジションを構築する好機とも言えるだろう。
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出典: 元記事












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