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欧州連合(EU)が循環型経済の推進とプラスチック廃棄物の削減を目的に制定した新たな包装・包装廃棄物規制(PPWR:Regulation (EU) 2025/40)が、ベトナムの輸出企業、とりわけ水産加工・輸出業界に大きな影響を及ぼそうとしている。2026年8月12日から段階的に適用が開始されるこの規制は、食品接触包装における有害化学物質の使用制限、再生プラスチック含有率の義務化、ラベル表示の統一など、極めて広範かつ厳格な内容を含んでおり、EUを主要輸出先とするベトナム企業にとって「新たな技術障壁」として立ちはだかる形だ。
従来の指令を置き換える包括的な新規制
今回のPPWRは、1994年に制定された包装・包装廃棄物に関する旧指令(Directive 94/62/EC)を全面的に置き換えるものである。旧指令は「指令(Directive)」という法形式であったため、EU加盟各国が国内法に落とし込む際に解釈のばらつきが生じ、域内貿易における障壁ともなっていた。新規制は「規則(Regulation)」として制定されたため、EU全27カ国に直接適用される。これにより、加盟国間の規制差異が解消され、域内市場の統一性が高まる一方、域外からの輸出企業にとっては単一の厳格な基準への適合が求められることになる。
規制の対象は、EU市場に流通するすべての包装材に及ぶ。具体的には、食品に直接接触する包装、一次包装(販売用包装)、二次包装(まとめ包装)、輸送用包装のすべてが含まれる。
PFAS規制——2026年8月12日から適用開始
最も差し迫った変更の一つが、包装材に含まれる「懸念物質(Substances of Concern:SoC)」に関する規制の厳格化である。ベトナム水産加工輸出協会(VASEP)は、この変更が食品・水産業界に直接的かつ深刻な影響を及ぼすと警鐘を鳴らしている。
2026年8月12日以降、すべての包装材はSoCに関する新たな閾値を遵守しなければならない。特に注目すべきは、食品に直接接触する包装材におけるPFAS(パーフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物)の含有規制である。PFASは撥水性・撥油性に優れることから、食品包装の表面処理に広く使用されてきたが、自然環境中で極めて分解されにくい「永遠の化学物質(forever chemicals)」として世界的に規制強化の流れにある。
EUが設定した具体的な閾値は以下の通りである:
- 個別のPFAS単一物質:25 ppb以上で禁止
- PFAS全種類の合計:250 ppb以上で禁止
- ポリマー形態を含むPFASグループ全体:50 ppm以上で禁止
これらの物質は、包装の全ライフサイクル——廃棄物管理やリサイクル工程を含む——にわたって最小限に抑えることが求められる。水産企業が日常的に使用するプラスチックトレー、ラップフィルム、ポリ袋などの包装材はすべてこの規制の対象となり、技術文書においてPFAS含有量を明示する義務が課される。
2030年までにすべての包装がリサイクル可能な設計に
PPWRのロードマップによれば、2030年までにEU域内で流通するすべての包装材は、リサイクル可能な設計であることが義務付けられる。加えて、包装の重量と体積を「機能を果たすために必要な最小限」まで削減するという厳格な要件が設定されている。
特に輸送用包装およびEC(電子商取引)用包装については、2030年1月1日から空間充填率の上限が50%と定められる。注目すべきは、エアクッション(気泡緩衝材)などの充填材で埋められた空間も「空き空間」としてカウントされる点である。これは、過剰包装が常態化しているEC物流において特に大きなインパクトをもたらす。輸出企業は段ボール箱のサイズ設計や緩衝材の使用方法を根本から見直す必要に迫られる。
再生プラスチック含有率の段階的義務化
循環型経済の推進という観点から、プラスチック包装に含まれる再生プラスチックの最低含有率も段階的に引き上げられる。2030年時点での義務的な含有率は以下の通りである:
- PET(ポリエチレンテレフタレート)を主材料とする食品接触包装:最低30%
- PP(ポリプロピレン)やPE(ポリエチレン)など、PET以外のプラスチック製食品接触包装:最低10%(2040年には25%に引き上げ)
ベトナムの水産加工企業がEU向けに使用している冷凍食品用トレーやフィルムの多くはPPやPE製であり、まずは10%の再生プラスチック含有を達成する必要がある。サプライチェーン全体での原材料調達の見直しが避けられない。
ラベル表示の統一化——2028年8月までに対応必須
ラベル・表示に関しても大きな変更がある。遅くとも2028年8月12日までに、すべての包装材にはEU統一規格に基づく廃棄物分類ラベルを印刷し、EU域内の消費者がごみの分別を適切に行えるよう誘導することが義務付けられる。さらに2030年1月以降は、包装に含まれる懸念物質に関する識別情報の表示も必須となる。
EUは2026年8月12日までにラベル表示に関する詳細なガイドラインを公表する予定であり、輸出企業はこれを注視し、包装デザインの更新計画を策定しておく必要がある。
VASEPの警告と企業への提言
ベトナム水産加工輸出協会(VASEP)は、EUの「欧州グリーン戦略」および「循環型経済行動計画(CEAP)」の一環として今回の規制を位置づけ、ベトナム水産企業にとっての新たな技術障壁であると明確に認識している。EUはベトナムにとって最大級の水産物輸入市場であり、この市場を失うことは産業全体にとって致命的な打撃となりかねない。
VASEPは以下の具体的な対応策を推奨している:
- Regulation (EU) 2025/40の全文を精読し、包装設計・リサイクル内容・ラベル表示に関する要件を正確に把握すること
- EUが2026年8月12日までに公表予定の統一ラベル表示ガイドラインを継続的にフォローし、輸出用包装の更新計画を立てること
- 自社工場の包装システム全体を見直し、EU規制への適合を証明する書類を整備すること
- 包装の適合宣言書(DoC:Declaration of Conformity)を2026年8月の期限前に準備しておくこと
投資家・ビジネス視点からの考察
今回のEU包装規制は、ベトナムの輸出産業構造に複数の角度から影響を及ぼす。
第一に、水産輸出セクターへの直接的影響である。ベトナムの対EU水産物輸出額は年間10億ドル規模に達しており、ホーチミン市証券取引所に上場するヴィンホアン(VHC)、ミンフー水産(MPC)、ナムヴィエット(ANV)といった大手水産企業にとって、包装コストの上昇は利益率を圧迫する要因となり得る。再生プラスチックの調達コスト、PFAS検査費用、包装デザインの刷新費用など、短期的にはコスト増が避けられない。
第二に、包装資材メーカーへの波及である。ベトナム国内でEU向け食品包装を供給する企業は、再生プラスチックの調達体制の構築やPFASフリー素材への切り替えを迫られる。逆に言えば、いち早く対応できた企業は競争優位を確保できる可能性がある。
第三に、日本企業との関連である。ベトナムに進出している日系食品加工・包装資材メーカーにとっても、EU向け製品の包装仕様変更は無関係ではない。日本の包装技術やリサイクル技術はグローバルに高い水準にあり、ベトナム企業との技術提携やコンサルティングの機会が拡大する可能性がある。
第四に、ベトナムのFTSE新興市場指数への格上げ(2025年9月に最終判断見込み)との関連である。EU市場における規制対応力は、ベトナム企業のガバナンスやESG(環境・社会・ガバナンス)対応能力を示す指標ともなる。グローバル投資家がベトナム市場を評価する際、こうした国際規制への対応状況は重要な判断材料となるだろう。規制をクリアできる企業とそうでない企業の間で、株価パフォーマンスに差が生じる可能性も十分に考えられる。
総じて、今回のEU規制はベトナム輸出企業にとって短期的にはコスト増要因であるが、中長期的には包装品質の向上、循環型経済への適応、そしてEU市場での信頼性確保というプラスの側面も併せ持つ。投資家としては、規制対応を先行して進めている企業を選別的に注視することが重要である。
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