ベトナムITコングロマリットの雄、FPTグループ(FPT Corporation)が、傘下の通信子会社FPTテレコム(FPT Telecom)に関する経営成績の会計計上方法を2026年から変更することを明らかにした。売上高の合算をやめる一方、純利益の実質的な取り込み額は変わらないとしており、財務諸表の「見た目」が大きく変わる可能性がある。投資家や市場関係者の間では、この変更の意図と影響を巡って注目が集まっている。
変更の概要――売上高は「連結除外」、利益は「そのまま」
FPTグループが今年(2026年)から採用する新たな会計処理の骨子はシンプルだ。これまでFPTはFPTテレコムの売上高を自社の連結財務諸表に合算(グロス計上)してきたが、今後はこの売上高の合算を行わない。一方で、FPTテレコムからFPTグループが実際に取り込む純利益(ròng)については、従来と変わらず計上し続けるという。
つまり、FPTの連結売上高の数字は見かけ上「縮小」するが、最終利益への実質的な影響はないという構図だ。FPT側はこの点を強調し、投資家に対して「業績の実態は何も変わっていない」と説明している。
FPTテレコムとはどんな会社か
FPTテレコム(FPT Telecom Joint Stock Company)は、ベトナム国内でインターネット接続サービスや有料テレビ(IPTV・ケーブルテレビ)などを展開する有力通信企業だ。ホーチミン市に本社を置き、国内全63省・市への展開を完了しているほか、カンボジアやラオスといった近隣諸国にも進出している。
FPTグループはFPTテレコムの筆頭株主であり、同社の経営を実質的にコントロールしている。ホーチミン証券取引所(HoSE)にも上場しており、一般投資家も株式を保有できる独立した上場企業でもある。FPTグループ全体の収益構造において、テレコム事業は安定したキャッシュフローを生み出す「稼ぎ頭」の一角を担ってきた。
なぜ今、会計処理の変更なのか――背景と考えられる理由
FPTがこのタイミングで会計処理の変更に踏み切った背景には、いくつかの要因が考えられる。
第一に、国際財務報告基準(IFRS)への対応圧力だ。ベトナム政府・財務省は近年、上場企業に対してIFRSへの移行を段階的に促しており、大手企業を中心にその対応が急務となっている。IFRSの考え方では、支配権や実質的な影響力の程度によって、売上高をグロス(総額)で計上するかネット(純額)で計上するかが厳格に判断される。FPTテレコムがホーチミン証券取引所に独立上場している実態を踏まえれば、売上高をグロスで合算することへの会計上の疑義が生じる余地もある。
第二に、FPTグループ全体の「IT・デジタルトランスフォーメーション(DX)企業」としてのブランディング戦略との整合性だ。FPTは近年、ソフトウェア開発・輸出やAI、クラウドサービスといったテクノロジー事業を成長の主軸と位置づけ、グローバルIT企業としての地位確立を目指している。日本をはじめ米国・欧州への海外展開にも積極的で、売上高に占めるテクノロジーセグメントの比率を高めることが経営上の優先事項となっている。この文脈において、通信インフラ事業の売上高を「分離」することで、テクノロジー事業の比率や成長率をより鮮明に打ち出せるという狙いも透けて見える。
第三に、少数株主保護の観点だ。FPTテレコムには一般株主も多数存在する。FPTグループとFPTテレコムの財務数値を明確に分離することで、両社の少数株主にとって財務実態がより透明化されるという側面もある。
投資家への影響――「数字のマジック」に惑わされるな
市場関係者が最も注意すべき点は、この会計処理の変更が「業績の実態」を変えるわけではないという点だ。FPT自身が明言しているように、FPTテレコムからFPTグループが受け取る純利益の金額は変わらない。したがって、FPTの株主にとっての実質的な利益水準は維持される。
ただし、投資家が注意しなければならないのは、連結売上高の数字が大幅に縮小して見える可能性がある点だ。FPTテレコムはベトナム国内で数十万件以上の顧客基盤を持つ大規模通信企業であり、その売上高規模は小さくない。前年比で売上高が「減少」したように見えるケースも出てくるため、単純な前年比較で業績を評価することは危険だ。アナリストや機会投資家はこの変更を織り込んだうえで、比較可能なベースでの業績分析を行う必要がある。
また、FPTの連結売上高に占めるテクノロジーセグメント(ソフトウェア開発・輸出、AI、DXなど)の比率は見かけ上高まることになる。これはFPTが対外的に訴求する「グローバルITカンパニー」としてのナラティブ(物語)と一致しており、海外機関投資家からの評価向上につながる可能性もある。
日本との接点――FPTと日本市場の深い関係
この話題は日本のビジネス関係者にとっても他人事ではない。FPTグループは日本をベトナム以外で最大の海外事業拠点と位置づけており、FPTジャパン(FPT Japan Holdings)を通じてソフトウェア開発・オフショア開発・DX支援などを幅広い日本企業に提供している。日立製作所、NTTデータ、富士通などの大手ITベンダーとも協力関係を持ち、日本のIT人材不足を補う重要なパートナーとして認知されている。
FPTグループの財務透明性が高まり、テクノロジー事業の実力がより明確に開示されるようになれば、日本の機関投資家がFPT株式への直接投資を検討する際の判断材料も充実する。また、日本企業がFPTとのアライアンスや資本提携を検討する際にも、財務実態の把握が容易になるという効果が期待される。
今後の注目点
今回の会計処理変更の影響が本格的に数字として現れるのは、2026年第1四半期以降の決算発表からだ。投資家や市場関係者が注目すべきポイントとして、以下が挙げられる。
まず、新たな会計基準のもとでFPTの連結売上高がどの程度「縮小」するか、そしてFPTテレコム単体の売上高・利益がどのように開示されるかだ。次に、FPTテレコム自体の独立上場企業としての株主還元方針に変化が生じるかどうかも注目点だ。FPTグループとの関係が会計上「距離を置く」形になることで、FPTテレコムが独自に株主に対してより積極的なメッセージを発する可能性もある。
さらに、FPTグループが中長期的にIFRSへの完全移行を目指す場合、今回の変更はその布石となる可能性がある。ベトナムの会計・開示基準がグローバルスタンダードに近づく動きの一環として、今後の関連発表にも目を向けておく必要がある。
まとめ
FPTグループによるFPTテレコムの会計処理変更は、一見すると「技術的な経理上の変更」に過ぎないように見えるが、その背景にはIFRS対応、グローバルIT企業としてのブランド戦略、財務透明性の向上といった複合的な意図が読み取れる。純利益への実質的な影響はないとしても、財務諸表の「見た目」は大きく変わるため、投資家は単純な前年比較に惑わされることなく、実態を正しく把握することが求められる。ベトナムを代表するテクノロジー企業の一角として、FPTの今後の動向から目が離せない。
出典: VnExpress
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