半導体業界の巨人・Nvidia(エヌビディア)のCEO、ジェンスン・フアン氏が衝撃的な予測を打ち出した。2025年中にチップの受注額が1兆ドルに達するとの見通しを示したのだ。その原動力として同氏が挙げるのは、AIの新たなフロンティアとも呼ぶべき「推論(Inference)」フェーズの本格的な勃興である。
「推論」こそがAI次なる爆発の震源地
これまでのAIブームを牽引してきたのは、主に大規模言語モデル(LLM)の「学習(Training)」フェーズだった。ChatGPTをはじめとする生成AIモデルを訓練するためには、膨大な計算資源が必要であり、Nvidiaの高性能GPU(グラフィック処理装置)、とりわけH100やH200といったデータセンター向けチップへの需要が爆発的に拡大した。
しかしジェンスン・フアン氏は、次のステージは「推論」フェーズにあると断言する。推論とは、すでに学習済みのAIモデルが実際のユーザーリクエストに応答する際に行う計算処理のことを指す。たとえば、ユーザーがChatGPTに質問を投げかけたとき、その回答を生成するプロセスそのものが「推論」に該当する。
AIサービスの利用者が世界規模で急増する中、推論処理の需要も指数関数的に膨らんでいる。学習は一度行えば済むが、推論はサービスが稼働している限り継続的に発生し続ける。その意味で、推論フェーズはチップメーカーにとって「永続的な需要源」ともいえる市場なのだ。
1兆ドルという数字の意味——半導体市場の地殻変動
フアン氏が示した「1兆ドルの受注額」という数字は、半導体産業の歴史において前例のない規模感だ。世界の半導体市場全体の年間売上高がおよそ5,000億〜6,000億ドル規模であることを考えると、Nvidia単独でその倍近い受注残高を積み上げつつあるという事実は、業界の力学がいかに劇的に変化しているかを物語っている。
Nvidiaは2024年度(2025年1月期)の通期売上高として約1,300億ドルを記録し、前年比で約2倍という驚異的な成長を遂げた。フアン氏の予測が現実となれば、同社の収益基盤はさらに盤石なものとなり、AI半導体市場における独占的ポジションは一層強固になる。
AI覇権をめぐる熾烈な競争——DeepSeekショックとその後
2025年初頭、中国のAIスタートアップ「DeepSeek(ディープシーク)」が少ないパラメータ数で高い性能を発揮するモデルを公開し、「Nvidiaの高価なチップがなくてもAIは動く」との見方が広まった。この「DeepSeekショック」は一時的にNvidiaの株価を大幅に押し下げ、市場に動揺をもたらした。
しかしフアン氏は、このナラティブに真っ向から反論してきた。DeepSeekのような効率的なモデルが普及すれば、むしろAIサービスのコストが下がり、利用者が増加する。利用者が増えれば推論処理の総量は増大し、結果としてチップへの需要は減るどころか拡大する——いわゆる「ジェフリーズの法則」的な逆説が働くとの主張だ。1兆ドル受注という強気な予測の背景には、こうした論理が横たわっている。
ベトナムとNvidiaの深い縁——フアン氏の「母国」への肩入れ
ジェンスン・フアン氏とベトナムの関係は、単なるビジネス上のものにとどまらない。フアン氏はベトナム系アメリカ人であり、その出自ゆえにベトナムへの思い入れは格別だ。
2024年12月、フアン氏はベトナムを訪問し、グエン・フー・チョン書記長(当時)らベトナム政府の最高指導部と会談を行った。この会談でNvidiaはベトナム国内にAI研究開発センターを設立する意向を表明。フアン氏は「ベトナムはAI時代において戦略的に非常に重要な国だ」と語り、同国への投資拡大に意欲を示した。
ベトナム政府も、Nvidiaとの連携を国家的なAI戦略の柱の一つに位置づけている。テク・チョン・ズン首相はデジタル経済の育成を最重要課題に掲げており、Nvidiaの技術・資本・ブランドをテコにして、製造業依存からAI・ハイテク立国へと産業構造を転換させる青写真を描いている。
日本企業への影響——サプライチェーンと投資機会の両面から
Nvidiaの爆発的な成長と「推論時代」の到来は、日本企業にも多角的な影響をもたらす。
まずサプライチェーンの観点では、Nvidiaのチップ製造を担う台湾積体電路製造(TSMC)、HBM(広帯域幅メモリ)を供給するSKハイニックスや韓国サムスン電子との競争において、日本の半導体関連メーカーのポジションが問われる。先端半導体の製造に不可欠なフッ化水素などの特殊化学品、フォトマスク、シリコンウエハーといった素材・部材分野では、信越化学工業、JSR、東京エレクトロンなど日本企業が依然として高い競争力を持っており、AI需要の拡大は追い風となる。
次に、データセンター投資という観点では、ソフトバンクグループがAI関連インフラへの巨額投資を進めており、Nvidiaチップの主要顧客の一つとして存在感を高めている。孫正義氏が推進する「人工超知能(ASI)」構想の実現においても、Nvidiaとの協業は不可欠だ。
また、ベトナムに製造拠点を持つ日本企業にとっては、同国でのAI産業勃興が新たなビジネス機会を生み出す可能性がある。部品調達、人材育成、ITサービス提供など、Nvidiaのエコシステム拡大に乗じた展開が期待される。
今後の焦点——Blackwellアーキテクチャと競合の動向
Nvidiaは2025年、次世代GPUアーキテクチャ「Blackwell(ブラックウェル)」シリーズの本格量産・出荷を進めている。前世代の「Hopper」アーキテクチャから大幅に性能向上を果たしたBlackwellは、推論処理においても従来比で飛躍的な効率化を実現するとされる。
一方、競合勢力も着実に力をつけつつある。AMDは「Instinct MI300X」シリーズでデータセンター向けGPU市場への食い込みを図り、GoogleはTPU(テンソル処理装置)、AmazonはTrainium・Inferentiaといった自社開発チップの展開を加速させている。さらにマイクロソフト、Meta、テスラも独自AIチップの開発に巨額を投じており、長期的にはNvidiaの独占的地位が揺らぐリスクも否定できない。
しかしフアン氏は、こうした競合環境を十分に織り込んだ上でなお「1兆ドル」という数字を提示した。AI需要のパイそのものが急拡大しており、複数のプレイヤーが存在してもNvidiaの取り分は十分に確保できるとの自信の表れといえる。
まとめ——「推論革命」が書き換えるAI経済の地図
ジェンスン・フアン氏の「1兆ドル受注」予測は、単なる強気の宣言ではない。AI産業が「モデルを作る時代」から「モデルを使い倒す時代」へと移行しつつあることを示す、時代の転換点を告げるシグナルだ。
推論フェーズの爆発的拡大は、クラウドサービス、自動運転、医療診断、金融リスク管理、製造ラインの品質検査など、あらゆる産業のデジタル変革を加速させる。その恩恵を受ける国・企業・人材が世界規模で再編成されようとしている今、日本企業そしてベトナムへの進出・関与を深める関係者にとって、この潮流を正確に読み解く視点は不可欠だ。
出典: VnExpress
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