R&D費用200%控除の優遇策、ベトナム企業はなぜ恩恵を受けられないのか――裾野産業育成の理想と現実

Ưu đãi khấu trừ 200% chi phí RD nhưng doanh nghiệp vẫn khó tiếp cận

ベトナム政府は裾野産業(サポーティングインダストリー)の育成や研究開発(R&D)投資の促進を目的に、税制優遇や補助金など数々の支援策を打ち出してきた。中でも注目を集めるのが、企業のR&D費用を実際の支出額の最大200%まで損金算入できるという大胆な優遇措置である。しかし、現場の企業からは「制度はあっても使えない」という悲鳴が上がっている。グローバルサプライチェーンに深く組み込まれ、年間数千万ドル規模の部品を輸出する企業ですら、複雑な書類手続きや実態に合わない認定基準に阻まれ、優遇策の恩恵にたどり着けないのが実情だ。

この問題は、ベトナム民間経済発展研究委員会(通称「第IV委員会」)がこのほど公表した報告書で明らかにされた。同報告書は、科学技術・イノベーション・デジタルトランスフォーメーション関連政策の困難や障害を総合的にまとめたもので、共産党中央委員会の第68号決議(68-NQ/TW)の実施状況を迅速に反映する目的で作成されたものである。

目次

裾野産業企業の「証明」が困難を極める現実

ベトナムでは、裾野産業の発展を後押しするため、2015年に公布された政令第111号(111/2015/NĐ-CP)が裾野産業の定義や発展に向けた活動を比較的明確に規定している。同政令はその後、2025年の政令第205号(205/2025/NĐ-CP)で改正・補足された。しかし、各業界団体や企業からの報告によると、自社が「裾野産業企業」に該当することを実際に証明するプロセスは依然として多くの障壁に直面しているという。

たとえば、部品・パーツを製造しグローバルサプライチェーンに深く参画している企業の中には、裾野産業製品の輸出額が年間数千万ドルに達するケースも少なくない。それにもかかわらず、優遇策の申請手続きに入ると、自社製品が「優先発展対象の裾野産業製品リスト」に該当することを証明できない、あるいは「裾野産業企業」としての基準を満たしていることを立証できないという壁にぶつかるのである。

第IV委員会によれば、この状況により多くの企業が信用(融資)、税制、土地利用、裾野産業発展プログラムなどの支援策にアクセスできず、政策の実効性が大きく損なわれているという。

実態と乖離する認定条件と煩雑な手続き

政令第205号第11条に定められた優遇措置の適用条件についても、企業の実際の事業活動と合致しない点が複数指摘されている。

具体例として挙げられたのは、何年も前に投資証明書を取得済みの企業が、裾野産業企業向け優遇制度の適用を申請する際、従来の事業規模に対して最低20%の拡張プロジェクトであることを証明しなければならないケースである。これにより企業は、業種の追加や生産拡大を反映させるために投資証明書の変更手続きを行う必要に迫られる。

審査の過程では、「旧プロジェクトが終了していないのに新たな生産項目を追加している理由」や「拡張が優遇措置の享受を目的としたものではないか」といった点について、詳細な説明を求められるという。さらに、同一敷地内で2種類の異なる裾野産業製品を製造している場合、両方の活動に対して優遇措置を適用してもらうことも困難だとされる。

プロジェクト変更手続きが完了した後も、環境影響評価(ĐTM)などの関連手続きが待ち受けており、このプロセスだけで約1年を要し、相当な費用も発生する。中小企業にとっては、優遇措置を得るためのコストが優遇そのものの恩恵を上回りかねない深刻な問題である。

欧州規格の要求が日本向け輸出企業に合わない矛盾

技術的な認定要件にも実態との乖離が見られる。政令第205号第11条では、製品が欧州標準化委員会(CEN)の技術基準またはそれに相当する基準に適合していることの証明が求められている。しかし、多くのベトナム企業の主要輸出先は日本であり、日本市場ではCEN規格は通常求められない。

部品メーカーの場合、その製品は他の製造企業への中間投入財であり、CEN認証の取得はそもそも必要性が低い。一方で認証取得にかかるコストは高額であり、完成品メーカー向けの基準を部品メーカーに一律に適用することの不合理さが浮き彫りになっている。日系企業のサプライチェーンに組み込まれたベトナム企業にとって、この規定は特に理不尽に映るだろう。

R&D費用200%控除――画期的な制度も書類の壁で形骸化

報告書が指摘するもう一つの重大な問題が、R&D費用に対する税制優遇の運用である。2025年法人税法(67/2025/QH15)および政令第320号(320/2025/NĐ-CP)により、企業の研究開発・イノベーション活動に要した費用は、実際の支出額の最大200%を損金算入できるようになった。先進国でも類を見ない手厚い制度であり、ベトナムがイノベーション主導の経済成長を目指す強い意志の表れといえる。

しかし、この優遇措置を実際に利用しようとする企業は、複数の法令を同時に参照しなければならないという困難に直面している。具体的には、法人税法、科学技術・イノベーション法、そしてそれぞれの施行細則である政令第320号と政令第265号(265/2025/NĐ-CP)を横断的に確認する必要がある。政令第320号は税務上の損金算入条件を定め、政令第265号はR&D活動の支出内容や必要書類を規定しているが、この2つの制度間をつなぐ運用指針がいまだ整備されていないのである。

企業側は、どの書類を用意し、どの手続きを踏めばR&D費用が「適格」と認められるのか判断が難しいと訴えている。

国家予算の研究管理と同等の書類を民間企業に要求

R&D活動に関して現在求められている書類は、進捗報告書、実験日誌、試験報告書、検収報告書、研究成果報告書など多岐にわたる。さらに、研究成果の証拠として試作品、特許出願書、学術論文、知的財産権証明書などの提出も求められる。

業界団体や企業が強く問題視しているのは、この管理手法が国家予算を使った研究プロジェクトの管理方式とほぼ同等であるという点だ。民間企業のR&D活動、とりわけ先端技術分野における研究開発は本質的にリスクが高く、必ずしも具体的な研究成果を生み出すとは限らない。失敗も含めた試行錯誤こそがイノベーションの本質であるにもかかわらず、成果物の提示を厳格に求める制度設計は、企業の挑戦意欲を削ぐ結果になりかねない。

業界からの具体的な提言

各業界団体と企業は以下の3点を主な提言として掲げている。

第一に、各地方の税務当局と科学技術局が連携し、科学技術・イノベーション関連費用の条件について企業に具体的なガイダンスを提供すること。第二に、政令第265号の施行細則を定める通達(通知)を早急に公布し、R&D支出の具体的な手続きと書式を明確化すること。第三に、R&D活動に関する書類要件、とりわけ科学技術上の研究成果の証明要件を簡素化し、民間企業のR&D活動の特性に即した制度とすることである。

日本企業への示唆――ベトナム投資の「制度リスク」を見極める

今回の報告書が浮き彫りにした問題は、ベトナムに進出する日本企業にとっても無縁ではない。ベトナムの裾野産業には多くの日系企業が部品調達先として関与しており、現地サプライヤーが税制優遇を受けられないことはコスト競争力に直結する。また、日本向け輸出が主力であるにもかかわらず欧州規格の認証が求められるという矛盾は、日越間のサプライチェーンの実態を反映していない制度設計の典型例といえる。

一方、R&D費用200%控除という制度自体は、ベトナムが製造拠点から研究開発拠点へと進化しようとする野心を示すものであり、制度の運用が改善されれば、日系企業にとっても大きなメリットとなり得る。ベトナム政府が今後、第IV委員会の提言をどこまで迅速に制度改善に反映させるかが注目される。制度の「存在」だけでなく「実効性」が問われる局面に入ったベトナムの産業政策を、引き続き注視していく必要があるだろう。

出典: Vn Economy

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