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ベトナムのホーチミン証券取引所(HOSE)に上場する大手国営コングロマリット、ベカメックスIDC(Becamex Investment and Industrial Development Corporation、証券コード:BCM)が、証券法で定められた「公開会社」の株主構成要件を満たしていないことを正式に公表した。国有持株比率が95.44%に達する同社は、少数株主の保有比率がわずか4.56%にとどまり、法定の10%最低基準を大幅に下回っている。ただし、経過措置規定により直ちに上場廃止とはならず、2026〜2030年の期間で国有比率を65%超まで引き下げる計画を提出済みである。
法的要件と現状のギャップ
2024年に改正されたベトナム証券法(法律第56/2024/QH15号)では、2021年1月1日以前に上場した公開会社に対し、2026年1月1日までに株主構成要件を満たすことを義務付けている。具体的には、大株主(持株比率5%以上)を除く100名以上の投資家が、議決権付き株式の10%以上を保有していなければならない。
ベカメックスが2026年5月25日を基準日として作成した株主名簿によると、同社の株主総数は9,221名で、大株主を除く株主は9,220名に上る。人数要件の「100名以上」は大幅にクリアしているものの、これら少数株主の保有比率は合計でわずか4.56%にすぎず、10%の基準を満たしていない。つまり、ホーチミン市人民委員会が事実上95.44%の株式を握る圧倒的な国有企業構造が、証券法上の公開会社要件と矛盾する状態となっている。
経過措置による上場維持
本来であれば公開会社の資格を喪失し、上場廃止のリスクに直面するところだが、ベカメックスは2025年8月1日施行の「国家資本管理・投資法」(法律第68/2025/QH15号)第59条第7項の経過措置規定に該当するとしている。同規定では、国が100%出資していた企業から株式会社に転換し、すでに証券取引所に上場・登録している企業が、権限ある機関の承認を受けた再編計画の実施期間中にある場合、株主構成要件を満たさなくても公開会社の資格が取り消されないと定められている。
ベカメックスはビンズオン省(Bình Dương、ホーチミン市北部に隣接する工業都市)を本拠とするベトナム有数の産業開発グループである。同社は工業団地の開発・運営、不動産、インフラ建設、貿易など幅広い事業を展開しており、特にビンズオン新都市やVSIP(ベトナム・シンガポール工業団地)シリーズへの関与で知られる。もともとビンズオン省人民委員会の管轄下にあったが、現在はホーチミン市人民委員会の傘下で管理されている。
国有比率引き下げ計画:95%から65%超へ
ベカメックスは、この問題に対する具体的な対応策として、2026年から2030年の期間で国有持株比率を現在の95.44%から65%超まで引き下げる方針をホーチミン市人民委員会に提案・申請済みであると明らかにした。手法としては、公募増資(公衆向け株式発行)を通じて少数株主の比率を拡大する計画である。
この計画が承認・実行されれば、市場に流通する浮動株が大幅に増加することになる。現在の発行済み株式総数に基づけば、約30%分の株式が新たに市場に供給される可能性がある。これは既存株主にとっては大幅な希薄化(ダイリューション)を意味するが、同時に流動性の劇的な改善にもつながる。
なお、2026年6月25日にはベカメックスホテル(ビンズオン市内)にて2026年度定時株主総会が開催される予定であり、この問題が主要議題の一つになると見られる。
2026年第1四半期の業績
業績面では、ベカメックスの2026年第1四半期の連結税引後利益は2,880億ドン超となり、前年同期比で21.1%の減益となった。減益の主な要因は以下の通りである。
- 売上総利益(販売・サービス提供)が前年同期比220億ドン減少
- 金融収益および関連会社・合弁会社からの利益が900億ドン減少
- 販売費・一般管理費は700億ドン減少(コスト削減効果)
- 金融費用が360億ドン増加
金融収益の大幅減少と金融費用の増加が利益を圧迫した構図であり、金利環境や関連会社の業績動向が影響しているものと推察される。
投資家・ビジネス視点の考察
本件は複数の観点からベトナム株式市場の投資家にとって重要な意味を持つ。
①浮動株比率と流動性の問題:BCMは時価総額こそ大きいものの、浮動株比率が極めて低く、機関投資家にとっては投資対象としにくい銘柄であった。国有比率が65%まで低下すれば、少数株主比率は30%以上に拡大し、取引流動性が飛躍的に向上する可能性がある。ただし、大量の新株供給は短中期的に株価の下押し圧力となりうる。
②FTSE新興市場指数格上げとの関連:ベトナムは2026年9月にもFTSE新興市場指数への格上げが決定される見込みであるが、格上げの恩恵を最大限に受けるには、個別銘柄の浮動株比率と外国人投資枠が重要な要素となる。BCMが浮動株を拡大すれば、FTSE指数への組み入れ対象として浮上する可能性もあり、中長期的には海外資金流入の恩恵を受ける展開も考えられる。
③国営企業改革の試金石:ベトナム政府は長年にわたり国営企業の株式会社化・民営化(エクイタイゼーション)を推進してきたが、実際には多くの企業で国有比率が90%超のまま放置されてきた。ベカメックスの事例は、証券法の厳格化により「形式的上場」の状態にあった国営企業が本格的な資本市場改革を迫られる象徴的なケースである。今後、同様の状況にある他の国営上場企業にも波及する可能性が高い。
④日本企業への影響:ビンズオン省はベカメックスが開発するVSIPをはじめ、多数の日系製造業が進出する一大工業集積地である。ベカメックスの資本構造変化やガバナンス改善は、同地域に進出する日系企業にとってもパートナー企業の経営透明性向上という観点からポジティブな材料と捉えられる。
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