こんにちは、ベトナム経済&株式投資ニュース解説のベトテク太郎です。
雨季が近づくたびに、ハノイに住む人間はある種の覚悟を決めます。どこで雨宿りするか、靴はどれを履くか、帰り道にどの路地を避けるか。タイ湖周辺に住んでいる私も例外ではなくて、激しいスコールの翌朝には近所の低地がプールみたいになっているのを何度も見てきました。「また水が出た」という感覚、13年住んでいても慣れることはないんです。
そのハノイが本腰を入れた洪水対策に乗り出しました。しかも100年スケールで、です。
ハノイ首都圏マスタープランに盛り込まれた「スポンジシティ」構想
ハノイ市はこのほど、「決定2512/QD-UBND」として首都100周年を見据えたマスタープランを承認しました。その核心にあるのが「スポンジシティ(Sponge City)」モデルへの転換です。
スポンジシティとは、都市そのものが雨水を吸収・貯留・浄化できる構造に変えていくという都市設計の考え方です。コンクリートで固めて水を流すのではなく、土壌や緑地、透水性舗装を組み合わせて雨水を「受け止める」仕組みを都市全体に埋め込んでいく。中国の武漢や成都でもすでに導入が進んでいるモデルで、気候変動対応の文脈でASEANでも注目が高まっています。
ハノイが目指すのは、このモデルを地下インフラと組み合わせた独自バージョンです。
三層構造の治水インフラ計画
今回のマスタープランで注目すべきは、地下から地上、河川まで三つのレイヤーで対策が組まれている点です。
まず地下レイヤー。「多目的地下貯水池」システムの建設が計画されています。雨季の初期に降る大量の雨水を一時的に地下に溜め込み、排水システムへの集中負荷を分散させるものです。地下鉄や地下道と組み合わせた「多用途インフラ」として整備されるとのことで、土地が限られるハノイの都市構造にフィットしたアプローチといえます。
次に地上レイヤー。調整湖の造成、水路の浄化、緑地の植林、大容量ポンプ場の新設が挙げられています。特に洪水被害が頻繁な地域では、局所的なポンプ場の設置と、ト・リッチ川など市内排水路への給水対策が「緊急対策」として明記されています。ト・リッチ川といえばハノイ市民には馴染み深い川ですが、かつての劣悪な水質からの改善も含め、大規模なリノベーション対象になるわけです。
そして河川レイヤー。紅河(ホン川)、ズオン河、デイ河、カロ河へのダム建設を検討しています。これは乾季の水位維持と都市景観の創出という複合目的を持つ大型プロジェクトです。同時に、紅河、ズオン河、ダイ河、ブイ河の危険地域から住民を移転させる計画も含まれています。
これだけの規模の都市改造が同時進行するとなると、単純な洪水対策ではなく「都市そのものの再設計」に近い話です。
農業環境省・建設省との連携という意味
気になったのは、ハノイ市が今後、農業環境省および建設省と連携して堤防システムの見直しと河川の治水基準改善を検討するという部分です。これはつまり、現行の治水基準が「ますます複雑化する気候変動」には対応しきれていないという現状認識が市当局にある、ということです。
正直なところ、私がハノイに来た13年前と今とでは、大雨のときの街の様子がかなり変わっています。昔は「ちょっと降ったらすぐ浸水」という感じだったのが、インフラ整備が進んだエリアでは確かに改善しているところもある。一方で、急速な都市開発で緑地や池が潰されて逆に排水能力が落ちているエリアもある。スポンジシティという方向性は、この開発と排水能力のトレードオフを解消しようとする試みとして理解できます。
投資の視点から見たスポンジシティ計画
このプロジェクトが動き出すとなると、建設・土木・水処理関連セクターに中長期的な事業機会が生まれます。地下貯水池、ポンプ場、護岸工事、ダム建設、透水性舗装——いずれも大型の公共調達を伴うインフラ工事です。
ベトナム建設セクターで上場している企業としては、Vinaconex(VCG)、Coteccons(CTD)、Hoa Binh Construction(HBC)などが思い浮かびます。ただし、今回のマスタープランはあくまでも「方針」の段階であり、個別プロジェクトの発注・入札情報が出てくるのはこれからです。計画の全体像と個々の案件化の進捗は、丁寧に追跡していく必要があります。
また、危険地域からの住民移転が伴う場合、代替住宅の供給という観点でReal Estate(不動産)セクターへの波及も考えられます。首都圏のどのエリアに代替居住地が設けられるかは、土地の需給に直接影響する情報です。
そういう意味で、このニュースはインフラ投資の長期テーマとして継続的に追うべき案件だと私は見ています。もちろん、現時点では「計画が承認された」段階に過ぎないため、具体的な資金調達や案件進捗を確認しながら判断していく必要があります。投資判断はご自身の責任でお願いします。
100年計画が意味すること
「100年先を見据えた計画」というフレーズを読んで、最初は大げさだと思いました。でも考えてみると、今のハノイは建国から80年も経たずにここまで変わった都市です。100年後を見据えた都市設計を「今」やる意味は、十分あります。
富の南下という大きな流れの中で、ベトナムの都市がどこまで成熟できるかは、この国への長期投資の前提条件でもあります。インフラが脆弱なまま成長しても、気候変動リスクで帳消しになりかねない。そういう意味で、ハノイが「スポンジシティ」という都市設計の思想を選んだことは、単なる洪水対策を超えた、首都の長期競争力に関わるニュースだと思っています。
そういうことなんです。
いかがでしたでしょうか。今回のハノイ洪水対策・スポンジシティ計画について、皆さんのご意見もぜひお聞かせください。コメント欄や@viettechtaroのDMでお待ちしています。
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