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イラン戦争の勃発により、世界有数の海上交通の要衝であるホルムズ海峡がほぼ完全に封鎖された。湾岸地域への物流は陸路への転換を余儀なくされ、コンテナ運賃はコロナ禍のピークを超える史上最高値を記録している。英フィナンシャル・タイムズ(FT)が報じた。この混乱はベトナムを含むアジアの輸出国にも深刻な影響を及ぼす可能性がある。
ホルムズ海峡封鎖の実態—1日135隻が通過していた要衝が機能停止
ホルムズ海峡は、ペルシャ湾とオマーン湾を結ぶ幅わずか約50kmの狭い水路で、世界の原油輸送量の約2割、LNG輸送量の相当部分が通過する戦略的要衝である。2月28日に始まったイラン戦争以前は、1日あたり約135隻の船舶が航行していたが、現在はごく少数の船舶しか通過できない状態に陥っている。さらに、通過を試みた38隻が攻撃を受けたとされ、事実上の航行不能状態である。
世界的海運大手が陸路輸送に転換—しかし能力は圧倒的に不足
マースク(Maersk、デンマーク)、MSC(スイス)、CMA-CGM(フランス)、ハパックロイド(Hapag-Lloyd、ドイツ)といった世界の大手コンテナ海運会社は、紅海やオマーン湾側の港からトラック輸送に切り替える対応を取っている。具体的には、サウジアラビアのヤンブー港やキング・アブドゥラ港、UAEのフジャイラ港などから、サウジアラビアのダンマーム港、イラクのバスラ港、UAEのジュベル・アリ港へとトラックで陸送するルートが開設された。
マースクのビンセント・クラーク(Vincent Clerc)CEOは「大量の陸上輸送力が動員されている」と述べ、サウジアラビアやイラクの協力のもと、イラク、ヨルダン、さらにはトルコからも大量のトラックが投入されていると説明した。しかし、ハパックロイドのロルフ・ハッベン・ヤンセン(Rolf Habben Jansen)CEOは「この地域に貨物を届ける唯一の方法は陸路だが、その能力は極めて限定的だ」と指摘している。
湾岸地域への貿易量は戦前比で60〜80%減少しており、各港は食料品や医療物資といった必需品を優先的に取り扱わざるを得ない状況である。
運賃はコロナ超えの史上最高値—上海〜湾岸で4,131ドル/TEU
物流の混乱は運賃の急騰という形で数字に表れている。海運調査会社クラークソンズ・リサーチ(Clarksons Research)のデータによれば、上海から湾岸・紅海地域への20フィートコンテナ(TEU)1本あたりの運賃は、戦前の980ドルから5月15日終了週には4,131ドルへと約4.2倍に跳ね上がった。これは2021年のコロナ禍ピーク時に記録した3,960ドル/TEUをも上回る史上最高値である。
また、物流プラットフォームのフレイトス(Freightos)によると、上海からUAEジュベル・アリ港への40フィートコンテナ運賃は、戦争開始時に4倍以上の8,000ドル超に急騰した後、需要減退により約5,700ドルまで低下しているものの、依然として高水準にある。
各産業への波及—肥料は「悪夢」、食料援助にも深刻な遅延
インドの大手財閥タタ・グループの消費者製品部門(Tata Consumer Products)は、中東市場向けの茶・塩・豆製品をサウジアラビアのジッダ港やUAEのホルファカン港に送り、そこから陸路で最終目的地に届けている。同社のトニー・スタブス(Tony Stubbs)サプライチェーン担当上級副社長は、輸送遅延が最大60日に達していると述べた。
肥料業界への影響はさらに深刻である。肥料取引会社ヘキサゴン・グループ(Hexagon Group)のクリスティアン・ヴェンデル(Christian Wendel)会長は、肥料の輸出ロットは通常3万〜5万トン規模であるのに対し、トラック1台の積載量は約30トンに過ぎないと指摘し、「物流面で、これはまさに悪夢だ」と語った。サウジアラビアのSABICアグリニュートリエンツやマーデン(Maaden)といった企業は、尿素肥料をサウジ国内で約14〜15時間かけて陸送しており、価格情報会社アーガス(Argus)の試算では、この方法により輸送コストが1トンあたり80〜90ドル上乗せされている。
穀物取引業者も紅海やオマーン湾の港に穀物を集め、トラックと小型船舶を組み合わせてカタール、バーレーンなど湾岸諸国に配送するルートを構築している。
国際引越し会社ジョン・メイソン・インターナショナル(John Mason International)のデビッド・オザード(David Ozard)総支配人は、戦争前に船積みされた6コンテナが依然として滞留していると明かし、「貨物の滞留は極めて深刻になる。解消されたとしても数カ月かかるだろう」と警告した。自動車業界の関係者も、中東向け貨物がモザンビークやスリランカで足止めされていると述べている。
人道支援にも影響は及んでいる。国連世界食糧計画(WFP)は、イエメンやジブチへのアクセスがフーシ派(Houthi)の脅威により困難になっていると報告。スーダン向けの援助物資は喜望峰経由への迂回により62日遅れで到着した。アフガニスタンへは従来イラン経由で物資を送っていたが、最新の援助物資はUAEからアゼルバイジャン、カスピ海を渡ってトルクメニスタンを経由するという9カ国を通過するルートを取り、43日の遅延が生じた。WFPのコリンヌ・フライシャー(Corinne Fleischer)サプライチェーン担当ディレクターがこの状況を明らかにしている。
投資家・ビジネス視点の考察—ベトナムへの影響は
今回のホルムズ海峡封鎖は、ベトナム経済・株式市場にとっても無視できない影響を持つ。以下の観点から整理する。
1. ベトナムの中東向け輸出への打撃:ベトナムは中東・湾岸諸国に対して農産物、水産物、繊維製品、電子部品などを輸出している。湾岸地域への貿易量が60〜80%減少している現状では、ベトナム企業の中東向け出荷にも遅延・コスト増が避けられない。特に水産加工のヴィンハオ(Vinh Hao)やコーヒー輸出関連企業にとっては、運賃上昇が利益率を圧迫する要因となる。
2. 海運・物流関連銘柄への影響:ベトナム株式市場では、海運大手のベトナム海運総公社(VIMC、銘柄コード: MVN)やジェマデプト(Gemadept、GMD)、物流大手のベカメックス・ロジスティクス(BCM)などが注目される。グローバルな運賃高騰は、これら企業の業績にプラスに作用する可能性がある一方、中東向け航路の混乱は運航スケジュールの乱れを通じてコスト増要因にもなり得る。
3. 原油・エネルギー価格への波及:ホルムズ海峡は世界の原油輸送の要であり、封鎖の長期化は原油価格のさらなる上昇を招く。ベトナムは原油の純輸出国から純輸入国に転じつつあり、エネルギーコストの上昇はペトロリメックス(PLX)やPVガス(GAS)の業績、さらにはベトナム全体のインフレ率にも影響する。
4. FTSE新興市場指数格上げとの関連:2026年9月に予定されるFTSE新興市場指数へのベトナム格上げ判断に向けて、マクロ経済の安定性は重要な評価要素である。ホルムズ危機が長期化し、輸入インフレや貿易収支の悪化が顕在化すれば、格上げ判断にマイナスの影響を与える可能性も否定できない。
5. 日系企業への影響:中東に拠点を持つ日系企業のベトナム工場からの部品調達・製品出荷にも遅延が生じる可能性がある。トヨタ、ホンダなど自動車メーカーのサプライチェーン、さらには総合商社の中東向けトレードにも注意が必要である。
ホルムズ海峡の封鎖がいつ解除されるかは、イラン戦争の行方次第である。短期的には運賃高騰と物流混乱が続く見通しであり、投資家は海運・物流セクター、エネルギーセクターの動向を注視すべきである。
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