ハノイ在住13年の現地投資家による、より深い企業分析・投資戦略は👉 メンバーシップで公開中
シンガポールのインフラ大手ケッペル(Keppel Ltd.)と、ベトナムの大手複合企業サングループ(Sun Group)が、持続可能エネルギーインフラの分野で戦略的な協力覚書を締結した。両社は観光・リゾート・航空の3領域にまたがる計10プロジェクトを対象に、「エネルギー・アズ・ア・サービス(Energy-as-a-Service)」モデルの導入可能性を共同で研究する。ベトナムが再生可能エネルギー転換を加速させるなかで、外資と国内大手が具体的な事業レベルで手を組んだ今回の動きは、同国のグリーン・インフラ市場の本格的な離陸を示すものとして注目に値する。
提携の概要—エネルギーを「サービス」として提供するモデル
今回の覚書で焦点となるのは、「エネルギー・アズ・ア・サービス(EaaS)」と呼ばれるビジネスモデルである。従来、大規模リゾートや空港などの施設はそれぞれが独自に電力設備を保有・運用してきたが、EaaSモデルでは専門のエネルギー事業者が太陽光発電、蓄電池、省エネ設備などを一括で設計・導入・運用し、施設側は初期投資を抑えつつ、月額料金としてエネルギーサービスを利用する仕組みだ。
ケッペルとサングループは、サングループが保有・運営する観光、リゾート、航空分野の計10プロジェクトにおいて、このEaaSモデルの適用可能性を調査・検討する。具体的なプロジェクト名は現時点で公表されていないが、サングループが展開する主要施設を考えれば、ダナン(中部の経済都市)、フーコック島(南部の人気リゾートアイランド)、サパ(北部の山岳観光地)、ハロン湾(世界遺産)周辺のリゾートや、同社が運営するサンエア(Sun Air)関連の航空インフラなどが対象となる可能性が高い。
ケッペル(Keppel)とは何者か
ケッペルはシンガポール証券取引所に上場するインフラ・資産管理の大手企業である。かつては海洋・オフショア掘削リグの製造で知られていたが、近年は大胆な事業転換を進め、現在はデータセンター、再生可能エネルギー、持続可能な都市開発、資産管理といった成長分野に注力している。特にアジア太平洋地域でのグリーンエネルギーインフラへの投資を拡大しており、ベトナムはその重点市場のひとつに位置づけられている。シンガポール政府系投資会社テマセク・ホールディングスが主要株主であり、信用力と資金力の裏付けがある点も見逃せない。
サングループ(Sun Group)の事業ポートフォリオ
一方のサングループは、ベトナムを代表する民間コングロマリットの一つである。2007年の設立以来、観光・リゾート開発を軸に急成長を遂げ、バーナーヒルズ(ダナン近郊のテーマパーク型リゾート、巨大な「ゴールデンブリッジ」で世界的に有名)、サンワールド・フーコック(フーコック島の大規模テーマパーク・リゾート)、サパのファンシーパン山ロープウェイなど、ベトナムの象徴的な観光インフラを数多く手がけてきた。
さらに近年は航空分野にも進出し、サンエア航空の運航を開始。不動産開発でも高級住宅・商業施設を展開しており、ベトナム国内でのプレゼンスは極めて大きい。これら大規模施設の電力需要は膨大であり、持続可能なエネルギー調達は同社にとって経営上の重要課題であると同時に、ESG対応という観点からも喫緊のテーマとなっている。
ベトナムのエネルギー転換と政策的背景
今回の提携は、ベトナム政府が推し進めるエネルギー転換政策と密接にリンクしている。ベトナムは2050年までにカーボンニュートラルを達成する目標を掲げており、2021年のCOP26(国連気候変動枠組条約第26回締約国会議)でファム・ミン・チン首相(当時)が表明して以来、政策の具体化が進んでいる。
2023年に承認された「国家電力開発計画第8次(PDP8)」では、2030年までに再生可能エネルギーの発電容量を大幅に引き上げる方針が示された。特に太陽光発電と風力発電への投資拡大が柱であり、外資の参入を積極的に促す制度整備も進められている。
しかし、ベトナムの再エネ市場はこれまで買取価格制度(FIT)の突然の変更や送電網の整備遅れなど、政策の不透明性に悩まされてきた経緯がある。こうした環境下で、EaaSのような「施設単位での分散型エネルギーソリューション」は、大規模送電網に依存せずにグリーンエネルギーを導入できるため、実効性の高いアプローチとして期待されている。
観光・航空セクターにおける脱炭素の意義
ベトナムの観光産業は同国GDPの重要な柱であり、コロナ禍からの回復も順調に進んでいる。2025年には外国人観光客数が過去最高を更新する勢いを見せており、リゾート施設や空港の電力需要は増加の一途をたどっている。国際的なESG基準を重視する外国人観光客やグローバル企業の需要を取り込むうえで、リゾートや航空施設のグリーン化は競争力の源泉となりつつある。
特に欧州やオーストラリアからの観光客はサステナビリティへの意識が高く、「カーボンフットプリントの低いリゾート」を選好する傾向がある。サングループがケッペルのノウハウを活用してグリーン認証を取得できれば、国際市場でのブランド価値向上に直結するだろう。
投資家・ビジネス視点の考察
今回の提携は、以下の複数の観点からベトナム市場に関心を持つ投資家・ビジネスパーソンにとって重要なシグナルである。
1. ベトナムのグリーンインフラ市場の拡大
ケッペルのようなグローバルプレーヤーが具体的なプロジェクトレベルでベトナムに参入していることは、同国のグリーンインフラ市場が「構想段階」から「実装段階」に移行しつつあることを示している。太陽光パネル、蓄電池、省エネ機器などのサプライチェーンに関わる日本企業(パナソニック、京セラ、住友電工など)にとっても、ベトナム市場での商機が広がる可能性がある。
2. 関連上場銘柄への影響
サングループは非上場企業であるため、直接的な株式投資の対象にはならない。しかし、同社と取引関係にある建設・建材・電力関連の上場企業には間接的な恩恵が期待できる。また、ケッペルはシンガポール市場で上場しており、同社のベトナム事業の進展はシンガポール株投資の観点からもウォッチすべきポイントである。ベトナム株式市場では、再生可能エネルギー関連銘柄や観光インフラ関連銘柄に注目が集まる可能性がある。
3. FTSE新興市場指数への格上げとの関連
ベトナムは2026年9月にFTSE新興市場指数への格上げが決定される見込みである。格上げが実現すれば、グローバルな機関投資家からの資金流入が大幅に増加すると予想されている。こうした環境下で、ベトナム企業がESG・サステナビリティ分野で国際的なパートナーシップを構築している事実は、格上げ審査においてもポジティブな材料となり得る。機関投資家はESG対応を重視する傾向が強く、グリーンインフラへの取り組みは市場全体の評価向上に寄与するだろう。
4. 日本企業への示唆
日本企業にとっても、ベトナムのグリーンインフラ分野は有望な進出先となる。特にEaaSモデルは、東京ガス、大阪ガス、ENEOSなど日本のエネルギー企業が国内で蓄積してきた知見を活かせる領域である。ベトナム政府が外資参入を歓迎する姿勢を示しているいま、ケッペルに続いて日本企業が同様のパートナーシップを模索する動きが出てくる可能性は十分にある。
総じて、今回のケッペル=サングループの提携は、ベトナムにおけるグリーン・トランジション(緑の転換)が大手民間企業レベルで実装フェーズに入ったことを象徴する出来事である。観光立国としての成長とカーボンニュートラル目標の両立を目指すベトナムの動向は、引き続き注視していく必要がある。
いかがでしたでしょうか。今回のニュースについて、皆さんのご意見もぜひお聞かせください。コメント欄や@viettechtaroのDMでお待ちしています。
この記事が参考になったら、ぜひXでシェアしていただけると嬉しいです。より多くの方にベトナム投資の魅力を伝えたいと思っています。
ハノイ在住13年日本語で毎日配信。
✅ 個別銘柄の詳細分析 ✅ FTSE格上げ関連速報 ✅ 現地だからわかるリアルタイム情報
👉 月額980円でメンバーシップに参加する
出典: 元記事












コメント