こんにちは、ベトナム経済&株式投資ニュース解説のベトテク太郎です。
ハノイが変わろうとしています。ホアンキエム湖周辺に「低排出ゾーン(LEZ)」を設ける計画——聞いた瞬間、正直「ついにここまで来たか」と思いました。タイ湖(Tay Ho)周辺に住んで13年、バイクとともに生きてきたこの街が、排ガス規制によって少しずつその姿を変えようとしています。
ただ、今回の発表を読んで感じたのは「ハノイらしいな」というある種の安堵感でした。理想と現実の間で、きちんとソフトランディングしようとしている。
当初案から何が変わったのか
ハノイ市人民委員会が市人民評議会に提出した新しい提案書では、ホアンキエム湖周辺の試験エリアにおいて、配車アプリのガソリンバイクを「即日禁止」する当初計画を撤回しました。代わりに運行を「抑制しながらクリーンエネルギー車への移行を促す」という表現に変わっています。
なぜ見直したのか。市が説明しているのは数字です。対象エリアで働く配車ドライバーが約4,000人、月間取引件数が100万件超、ユーザー数が約35万人、パートナー店舗が1,000件以上。これだけの規模の経済活動が走っているゾーンに対して、いきなりガソリンバイクを締め出せば何が起きるか——市はそれをきちんと計算したわけです。
「配慮した」とも言えますし、「現実に負けた」とも言える。でも私は前者だと思っています。
3段階のロードマップ
計画は3段階に分かれています。
まず2026年7月1日〜12月31日が第1段階の試験期間です。ホアンキエム街区が対象で、ホアンキエム湖周辺の「エリア1」では毎週金〜日の夜19時から24時まで全車両が乗り入れ禁止になります。旧市街エリアを含む「エリア2」では配車ガソリンバイクの禁止はなく、EVへの移行誘導に留まります。
次いで2027年1月からの第2段階では、対象エリアがホアンキエム街区全域とクアナム街区に広がり、ここで初めて配車ガソリンバイクの乗り入れ禁止が始まります。そして2028年以降の第3段階では環状1号線内の全域に拡大し、排出基準レベル3を満たさない個人のガソリンバイクも規制対象になります。
約2年かけてじわじわと締めていく構造です。
少し脱線しますが
ホアンキエム湖の周辺が週末の夜に全車両通行止めになるというのは、正直かなり大きな変化です。あのエリアはハノイ観光の心臓部で、夜になればバイクが縦横無尽に走り、フォーを食べながら人と話して、外国人観光客がたむろしている。それが「静かな歩行者天国」に変わる週末があるとしたら——想像するだけでちょっと不思議な気持ちになります。
いい変化だと思います。でも、なくなってしまうものもある気がして。
さて、ここからが本題です。
「誰が得をするのか」を整理する
このニュースを読んで「投資家として誰が恩恵を受けるのか」と思った方は多いはずです。規制が入るのはわかった。では具体的にどのセクターのどの企業が動くのか。順番に整理していきます。
まず真っ先に名前が挙がるのがVinFast(ビンファスト)です。これは正しい着眼点です。2025年のVinFastの電動バイク販売台数は前年比473%増の約40万台に達しており、2026年3月には月間出荷台数が9万3,000台超と過去最高を更新するほどの急成長フェーズにあります。ハノイだけで月2万台以上が納車されており、LEZ規制はこの需要をさらに加速させる「行政的追い風」になるのは間違いありません。
ただし、VinFastはNASDAQ上場(ティッカー:VFS)であり、ベトナム証券市場(HOSE)への直接投資ではありません。また黒字化はまだ実現しておらず、財務支援を親会社Vingroupに依存している状態が続いています。「ベトナムEVの成長を株式で取りたい」と考えたとき、VFSを買うことは「ベトナム株投資」ではなく「米国上場ベトナム企業株投資」という整理になります。
VingroupのVICはどう見るか
「ではHOSE上場銘柄でLEZの恩恵を取れないのか」という疑問が当然出てきます。ここで登場するのがVingroup本体(VIC)です。
Vingroupは複数のセクターにまたがるコングロマリットで、VinFast(EV製造、NASDAQ上場)、Vinhomes(住宅不動産、HOSE:VHM)、Vincom Retail(商業施設、HOSE:VRE)などの上場子会社を持ちます。VIC自体はHOSE上場であり、日本の証券会社経由でもアクセス可能です。2026年6月2日時点のVIC株価は211,300VNDで、52週レンジは40,800VND〜232,000VNDという広い値幅の中に位置しています。
VICを保有することでVinFastの成長を間接的に享受できるロジックは成り立ちます。ただし注意点があります。VingroupはVinFast以外にも不動産(VHM)が利益の中核を担っており、EVセクターの成長だけでVIC株価が動くわけではありません。むしろVHMの業績とハノイ不動産市況のほうがVIC株価への影響が大きい局面もある。VICはEVの純粋プレーではなく、あくまで「ベトナム最大コングロマリット株」という性格が強いことを念頭に置く必要があります。
充電インフラの動きと金融機関への波及
EVが普及するためには「充電できる場所」がなければ話にならない。この充電インフラ事業を担っているのがV-Greenです。VingroupからスピンオフしたEV充電インフラ専業企業で、10兆VND(約3.8億ドル)を投資し、年内に全国99カ所の充電ハブを整備する計画を発表しています。2028年までに国内50万ポートの展開を目指すという野心的な規模です。
ただし現時点でV-GreenはHOSEに上場していません。将来のIPOが期待されますが、現段階では直接投資の手段がない状態です。
充電インフラという観点で見えてくる別の切り口として、HDBank(HDB)があります。HDBの完全子会社であるVikki銀行がV-Greenと戦略的協力協定を締結しており、充電スタンドやバッテリー交換設備の設置場所の提供と、V-Greenへの資金調達支援を行うことになっています。EVシフトの恩恵が金融機関にも波及しているという構図は、ベトナム株投資家として覚えておいて損はないポイントです。
配車アプリ事業者への影響は追い風か逆風か
規制の対象になる業者側の話も気になるところです。月間100万件超の取引が走るエリアで、配車ガソリンバイクの運行が抑制される。これは配車アプリ事業者にとってコスト増を意味します。
ただし、見方を変えると「EV配車プラットフォームへの先行シフト」が競争上の優位につながる可能性もあります。VinFastの電動バイクと電動車を活用した配車・タクシーサービスXanh SMは、2024年第4四半期の配車アプリ市場シェアでGrabを抜いてトップになったと発表しています。「クリーンな配車プラットフォーム」へのブランドシフトはすでに始まっており、LEZ規制はその流れを一段と加速させる可能性があります。
これはハノイだけの話ではない
「ハノイだけの話?」という疑問は当然です。答えはノーです。ホーチミン市でも15の橋と20の主要道路で囲まれた中心部に低排出ゾーンを設ける計画が進んでおり、2026年からは基準を満たさない排ガスの配車サービスへの乗り入れ制限が、2027年〜2030年にかけてはバイクの排ガス検査の全面展開と段階的な進入制限が予定されています。
ベトナム政府は2040年までにガソリン車を段階的に廃止する方針を決定第876/QD-TTg号で明確にしており、2050年のカーボンニュートラル達成という国際公約と一体の政策です。ハノイとホーチミンという二大都市が歩調を合わせているという事実は、これが一時的な実験ではなく国家レベルのEVシフト戦略であることを示しています。
そういうことなんです。LEZは「規制」ではあるけれど、それは同時に「EVエコシステム全体への補助金」のような効果をもたらします。ガソリン車を排除することで、EVを選ぶインセンティブが自動的に高まる。ハノイの夜が静かになっていく過程で、ベトナムの投資地図もまた少しずつ塗り替えられていきます。
現時点ではまだ「試験期間の入口」であることを忘れてはなりません。5月の市人民評議会では書類不備で承認が見送られたばかりで、今回は修正版を次回会議に提出している段階です。正式承認がなければ2026年7月のスタートも不透明です。このリズムを読みながら、焦らず動向を追っていきたいと思います。
いかがでしたでしょうか。今回のハノイLEZ計画と関連する投資テーマについて、皆さんのご意見もぜひお聞かせください。コメント欄や@viettechtaroのDMでお待ちしています。
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