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2026年4月17日、ハノイにてベトナム商工会議所(VCCI)が主催したカーボン市場に関するフォーラムが開催され、急速に整備が進む法的枠組みの全容と、オーストラリア政府による多面的な技術・資金支援の実態が明らかになった。ベトナムは国内炭素取引所の試験運用を目前に控え、企業の信頼構築と能力向上が喫緊の課題となっている。
法的枠組みの急速な整備——4つの政令・決定が市場の骨格を形成
VCCI副会長のホアン・クアン・フォン氏は、ベトナムのカーボン市場に向けたロードマップが一連の法令によって急ピッチで具体化していると説明した。その骨格は以下の通りである。
- 政令第06/2022/NĐ-CP号——温室効果ガス削減とオゾン層保護に関する基本的な枠組みを定めた土台となる政令。
- 政令第119/2025/NĐ-CP号——企業のコンプライアンス責任と市場運営メカニズムを明確化。
- 首相決定第13/2024/QĐ-TTg号——温室効果ガスのインベントリ(排出量の棚卸し)を義務付ける対象業種・大規模排出施設を具体的に指定。
- 政令第29/2026/NĐ-CP号——国内カーボン取引所の運営メカニズムを規定。商業銀行が決済仲介として参加する仕組みを導入。
- 政令第112/2026/NĐ-CP号——排出削減成果およびカーボンクレジットの交換メカニズムを規定。
フォン副会長は、カーボン市場は単なる「排出への課金」ではなく、クリーン技術で先行する企業を評価する場であると強調した。カーボンクレジットは実質的な経済資産であり、企業のガバナンス能力とイノベーション力の証明でもある。市場参加は「コンプライアンスの負担」ではなく、省エネによるコスト最適化、国際市場でのブランド力向上、そしてグリーンファイナンスへのアクセスという3つの価値をもたらすと述べた。
2012年から続く準備の歩み——2050年ネットゼロへの道筋
農業環境省気候変動局の代表であるファム・ナム・フン氏は、ベトナムのカーボン市場構築に至る準備期間の長さを振り返った。2012〜2013年に排出削減の基盤整備に着手し、2015年に国際社会へ初の温室効果ガス削減コミットメントを表明。2021年にはCOP26(国連気候変動枠組条約第26回締約国会議)で2050年までのネットゼロ達成を宣言し、単なる気候変動「適応」から「能動的貢献」へと姿勢を転換させた。この長い助走期間を経て、いよいよ実装フェーズに入ろうとしている。
オーストラリアの多層的支援——資金・技術・政策の三位一体
在ベトナム・オーストラリア大使館の経済担当参事官セシリア・ブレナン氏は、ベトナムの制度的基盤は大きく前進しており、今こそ実行段階への移行が重要だと評価した。両国は2050年ネットゼロという共通目標を持ち、気候・環境・エネルギー分野の協力は二国間関係の重要な柱となっている。
具体的な支援プログラムは以下の通りである。
- ビジネス・パートナーシップ・プラットフォーム(BPP)——2016年以降、約1,000万AUDを投資。2022年からはメコンデルタ(ベトナム南部の穀倉地帯)での低排出型稲作や自然ベースのソリューションなど、自主的カーボン市場における多者間協力の実証事業を展開。
- オーストラリア気候金融パートナーシップ(ACFP)——ベトナム初の電気バス車隊の導入を優遇融資で支援。さらにVPBank(ベトナム繁栄商業銀行)の信託融資基金に出資し、持続可能なインフラ整備を後押し。
- Aus4Innovation——予算3,350万AUDで、気候適応型スマート農業のエコシステム構築を推進。
- エネルギー転換パートナーシップ——UNOPS(国連プロジェクトサービス機関)と連携し、政策・法制度・技術・資金・能力構築を包括的に支援。
ブレナン参事官は、現在世界の温室効果ガス排出量の約3分の1がカーボンプライシング(炭素の価格付け)メカニズムでカバーされていると指摘。一方で、プロジェクトの健全性・透明性・品質に対する国際的な要求水準は年々高まっており、ベトナムがパイロット市場を立ち上げるにあたって、企業が技術的基準を理解し適応するための支援が不可欠だと強調した。
「効果的に運営されるカーボンクレジット制度は、資金動員、費用対効果の高い排出削減、企業競争力の向上、そしてベトナムの長期的な開発・気候目標の達成に重要な役割を果たし得る」とブレナン氏は述べた。
企業に求められる準備——法務・ガバナンス・技術インフラの三本柱
財務省法制局のド・タイン・ラム氏は、カーボン市場への参加に向けて企業が取り組むべき事項を具体的に示した。排出枠(アロワンス)を割り当てられる企業やカーボンクレジットを保有する企業は、まず関連法令を徹底的に研究し、排出枠・クレジットの管理計画を体系的に策定する必要がある。加えて、市場参加能力の自主的な底上げ、コンプライアンスコストを最適化するための取引戦略の構築も求められる。法務面、ガバナンス能力、技術インフラの三方面での事前準備が不可欠だとラム氏は強調した。
投資家・ビジネス視点の考察
今回のフォーラムが示す最大のメッセージは、ベトナムのカーボン市場が「構想段階」から「実装段階」へ明確に移行しつつあるという点である。投資家・ビジネスの観点から、以下の点に注目すべきである。
1. 関連銘柄への影響:政令第29/2026号で商業銀行が決済仲介を担うことが明記されたことは、VPBank(VPB)をはじめとする銀行セクターにとって新たな手数料収入源となる可能性がある。また、再生可能エネルギー関連企業やESG(環境・社会・ガバナンス)評価の高い企業は、カーボンクレジットの創出・売却を通じた収益機会を得る。鉄鋼・セメント・電力など大規模排出セクターの企業はコンプライアンスコスト増が見込まれるが、早期に対応した企業には競争優位が生まれる。
2. 日本企業への示唆:ベトナムに製造拠点を持つ日系企業にとって、排出量インベントリの義務化は直接的な影響を及ぼす。省エネ技術やMRV(測定・報告・検証)システムの導入支援など、日本が強みを持つ分野でのビジネス機会も拡大する。JCM(二国間クレジット制度)を通じた日越間のカーボンクレジット取引との整合性にも注意が必要である。
3. FTSE新興市場指数への格上げとの関連:2026年9月に決定が見込まれるFTSE新興市場指数への格上げにおいて、ESG基準の充実は市場の評価を底上げする要素となる。透明性の高いカーボン市場の整備は、海外機関投資家がベトナム市場を評価する際のプラス材料であり、格上げの「質」を補強する効果が期待できる。
4. グリーンファイナンスの拡大:オーストラリアをはじめとする国際パートナーからの優遇融資・技術支援は、ベトナムのグリーンボンド市場やサステナブルファイナンスの拡大を後押しする。カーボン市場の本格稼働は、ベトナムの資本市場全体の厚みを増す要因となるだろう。
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出典: 元記事












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