ハノイ在住13年の現地投資家による、より深い企業分析・投資戦略は👉 メンバーシップで公開中
ベトナムで2026年1月に施行予定の「デジタル技術産業法」に基づく行政処罰の政令案が公開され、組織に対する罰金上限を2億ドンとする規定に対し、「大手テクノロジー企業への抑止力として不十分ではないか」との批判が相次いでいる。半導体やAIといった国家重点分野での違反が巨額の損害をもたらしうる中、罰金制度の設計が今後の産業育成と規制のバランスを左右する重要な論点として浮上している。
政令案の概要——罰金上限は個人1億ドン、組織2億ドン
2025年6月12日、ベトナム司法省は「デジタル技術産業分野における行政違反処罰に関する政令」の審査書類を公開した。この政令案は、科学技術省が起草したもので、主な処罰形態として「警告」と「罰金」を規定している。加えて、違反の程度に応じて許可証の取消しや証拠物の没収といった補充的措置も適用可能とされている。
注目すべきは、罰金の上限額である。政令案第4条では、個人に対する罰金上限を1億ドン、組織に対しては2億ドンと定めており、同一の違反行為に対して個人は組織の半額が適用される。特に高額の罰金(1億5,000万ドン〜2億ドン)が科されるのは、投資優遇・特別投資支援の対象プロジェクトに関して虚偽の情報を提供したり、違法な書類や偽造書類を使用して優遇措置を不正に受けようとした行為である。
地方自治体から相次ぐ「抑止力不足」の指摘
意見集約の過程で、ハイフォン市(ベトナム北部の直轄市で、大規模工業団地を擁する主要港湾都市)の人民委員会は、罰金額の妥当性を再検討するよう求めた。同市は、デジタル技術産業法が半導体産業、人工知能(AI)、デジタル技術集中区(いわゆるデジタルテクノロジーパーク)を「特別優先分野」と位置づけている点を指摘。これらの分野での違反は極めて大きな損害をもたらす可能性がある一方、組織に対する罰金上限2億ドンでは、特に大手テクノロジー企業にとって抑止力になり得ないと警鐘を鳴らした。
同様の見解を示したタイニン省(ベトナム南部、カンボジア国境に接する省)の人民委員会は、罰金額を売上高に対する割合(%)で設定するか、違反の程度に応じた段階的な金額設定とすることを提案している。これは、EU(欧州連合)のGDPR(一般データ保護規則)やデジタルサービス法などで採用されている「売上高連動型」の罰金制度を想起させるアプローチである。
起草機関の反論——「補充措置で抑止力を確保」
これらの指摘に対し、起草を担当した科学技術省は、現行の「行政違反処理法」第24条で定められたデジタル技術産業分野の上限枠がまさに2億ドンであるとし、法律の範囲内で最大限の罰金額を設定済みであると説明した。
さらに同省は、罰金だけでなく、違反の程度に応じた補充的処罰や是正措置を組み合わせることで十分な抑止力と違反防止効果を確保できるとの立場を示した。具体的な是正措置としては、情報・データの提供・更新・連携・共有の強制、違反行為の即時停止命令、違反によって得た不法利益の返納命令、違反に関連する証拠物・手段のベトナム国外への再輸出・廃棄処分などが規定されている。
科学技術省は、政令案の設計方針として「抑止力を確保しつつも、イノベーション活動を阻害しない」ことを掲げている。デジタル技術産業の重点製品の製造、半導体チップの設計・製造、デジタル技術集中区のインフラ運営といった特殊な活動に関する政策の不正利用行為に対しては、特に厳格な対応を取る姿勢を示している。
背景——デジタル技術産業法の成立と2026年施行
今回の政令案の根拠法となる「デジタル技術産業法」は、2025年6月14日にベトナム国会で可決され、2026年1月1日に施行される。同法はデジタル技術産業に関する国家管理の法的基盤を整備するものであり、ベトナムが掲げる「2030年までにデジタル経済をGDPの30%に引き上げる」という目標の実現に向けた重要な法的インフラとなる。同法は半導体、AI、クラウドコンピューティング、IoT(モノのインターネット)など、ベトナムが外国直接投資(FDI)の誘致を積極化している分野を包括的にカバーしている。
投資家・ビジネス視点の考察
本件は、ベトナムのデジタル産業における規制環境の成熟度を測るうえで重要なシグナルである。以下の観点から注目に値する。
1. 半導体・AI関連銘柄への影響:ベトナムはFPTコーポレーション(ティッカー:FPT、ベトナム最大手IT企業)をはじめ、半導体後工程やAI関連の投資を拡大している。罰金上限が低水準にとどまることは、短期的には企業側のコンプライアンスコスト負担が限定的であることを意味する。一方、規制の実効性に疑問が残れば、産業全体の信頼性に影響する可能性もある。
2. 日本企業への示唆:ベトナムの半導体産業には、日本からもレゾナックやアマタなどが進出・検討を進めている。投資優遇措置の不正利用に対する罰則が軽微であれば、公正な競争環境が担保されるか懸念が生じる。日系企業にとっては、現地パートナーやサプライチェーン上の取引先のコンプライアンス体制を精査する重要性が一層増すであろう。
3. FTSE新興市場指数への格上げとの関連:2026年9月に決定が見込まれるFTSE新興市場指数への格上げに向け、ベトナムは法制度の透明性・予見可能性の向上を急いでいる。デジタル技術産業法とその関連政令の整備自体は法的基盤の充実として評価されるが、罰金制度の抑止力不足が国際的な投資家から「規制の甘さ」と見なされるリスクには留意が必要である。
4. 今後の展望:売上高連動型の罰金制度への移行は、行政違反処理法そのものの改正を伴うため短期的には実現しにくい。しかし、デジタル産業の急成長に伴い、中長期的には罰金上限の引き上げや制度設計の見直しが不可避となる可能性が高い。この分野の規制動向は、ベトナム株式市場のテクノロジーセクター全体のバリュエーションに影響を及ぼし得るため、継続的なウォッチが求められる。
いかがでしたでしょうか。今回のニュースについて、皆さんのご意見もぜひお聞かせください。コメント欄や@viettechtaroのDMでお待ちしています。
この記事が参考になったら、ぜひXでシェアしていただけると嬉しいです。より多くの方にベトナム投資の魅力を伝えたいと思っています。
ハノイ在住13年日本語で毎日配信。
✅ 個別銘柄の詳細分析 ✅ FTSE格上げ関連速報 ✅ 現地だからわかるリアルタイム情報
👉 月額980円でメンバーシップに参加する
出典: 元記事












コメント