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ベトナム国会の経済財政委員会に所属するファム・ティ・ホン・イエン委員は、個人事業主(ホーキンドアイン)に対する課税免除の売上基準を現行の倍となる10億ドン(1 tỷ đồng)に引き上げる方針について言及した。これにより、小規模事業者の税負担が大幅に軽減され、資本蓄積や事業拡大が促進されると期待されている。ベトナム経済の屋台骨を支える零細・小規模事業者への税制優遇は、内需振興策としても極めて重要な意味を持つ。
免税基準の倍増——何が変わるのか
ベトナムでは、一定の年間売上高以下の個人事業主は付加価値税(VAT)および個人所得税の納税義務が免除される仕組みが存在する。現行の免税基準は年間売上5億ドン程度とされてきたが、今回の議論ではこの基準を10億ドンへと引き上げる案が検討されている。ファム・ティ・ホン・イエン委員は、この引き上げによって個人事業主の税負担が軽くなり、手元に残る利益を事業の再投資や拡大に振り向けることが可能になると強調した。
ベトナムの個人事業主(hộ kinh doanh)は、統計上500万以上存在するとされ、その多くが飲食店、小売店、修理業、手工芸品製造など生活密着型のビジネスを営んでいる。都市部だけでなく農村部にも広く分布しており、ベトナムの雇用と消費を草の根レベルで支える存在である。しかし、インフレや原材料費の上昇、コロナ禍後の消費回復の鈍さなどから、経営環境は厳しさを増しており、税制面での支援を求める声が以前から強かった。
背景にある経済的課題と政策の文脈
ベトナム政府はここ数年、経済成長率の維持と国内消費の底上げを最重要課題の一つに掲げてきた。2025年にはGDP成長率目標を高く設定し、公共投資の加速や金融緩和と並行して、税制改革を通じた民間セクターの活性化にも力を入れている。今回の免税基準引き上げ案は、こうした一連の政策パッケージの一環として位置づけられる。
特に注目すべきは、個人事業主の「法人化」促進との関係である。ベトナムでは、多くの事業者が法人登記をせず個人事業主のまま活動しており、税収の把握や経済統計の精度向上の観点から、政府は法人化を促してきた。しかし、法人化すると税務申告や会計処理のコストが増えるため、小規模事業者にとってはハードルが高い。免税基準の引き上げは、こうした事業者に対し当面の負担を減らしつつ、事業規模の拡大を後押しし、将来的な法人化へのステップとする狙いもあると見られる。
また、ベトナムの税制改革はグローバル最低法人税(第2の柱、ピラー2)への対応とも無関係ではない。大企業向けの国際課税ルールが変わる中で、国内の中小・零細事業者に対してはむしろ負担を軽減し、国内経済の裾野を広げるというバランス感覚が政策当局に求められている。
地方経済と個人事業主の実態
ベトナムの個人事業主は、ハノイやホーチミン市といった大都市だけでなく、メコンデルタ地域や中部高原、北部山岳地帯など全国各地に存在する。例えば、メコンデルタでは水産加工や農産物の仲買業を営む事業者が多く、中部では観光関連の小規模サービス業が盛んである。これらの事業者にとって、年間売上10億ドンという基準は現実的なラインであり、免税の恩恵を受ける対象が大幅に拡大することになる。
日本で言えば、消費税のインボイス制度導入に伴い免税事業者の基準が議論されたケースに近い構図である。ベトナムの場合は基準を「引き上げる」方向であり、小規模事業者の保護色がより鮮明だ。
投資家・ビジネス視点の考察
今回の税制措置が直ちにベトナム株式市場の個別銘柄に大きなインパクトを与えるわけではないが、中長期的には以下の観点で注目に値する。
1. 内需関連セクターへの追い風:個人事業主の手取りが増えることで、消費財、日用品、小売りチェーンなど内需関連銘柄にプラスの波及効果が期待できる。特に、地方部への浸透力が強い小売企業やFMCG(日用消費財)メーカーは恩恵を受けやすい。モバイルワールド(MWG)やマサングループ(MSN)など、地方消費と関連の深い上場企業の動向に注目したい。
2. フィンテック・デジタル決済の普及加速:免税基準が上がることで、個人事業主の事業規模が拡大すれば、電子決済やデジタル帳簿の導入ニーズも高まる。ベトナムではキャッシュレス化が急速に進んでおり、関連企業にとってはユーザーベース拡大のチャンスとなる。
3. 日系企業への影響:ベトナムに進出している日系の小売・サービス業にとって、現地の個人事業主は仕入先やパートナーとなるケースも多い。彼らの経営基盤が安定することは、サプライチェーン全体の安定にも寄与する。また、日系企業が現地で小規模な事業形態をとる場合、免税基準の引き上げは直接的なメリットとなり得る。
4. FTSE新興市場指数への格上げとの関連:2026年9月に判断が見込まれるFTSE新興市場指数への格上げにおいて、ベトナムの税制透明性や事業環境の改善は間接的な評価ポイントとなる。今回のような制度整備の積み重ねが、海外機関投資家からの信頼向上につながる可能性がある。
5. マクロ経済への影響:免税基準引き上げにより短期的には税収が減少する可能性があるが、事業者の成長を促すことで中長期的には課税ベースの拡大につながるとの見方が政策当局側にはある。ベトナムの財政赤字動向や公共投資の財源確保とのバランスも引き続き注視が必要である。
総じて、今回の免税基準の倍増は、ベトナム政府が「成長のすそ野を広げる」方向に舵を切っていることを示す象徴的な動きである。大型インフラ投資やFDI誘致と並行して、国内の零細・小規模セクターを底上げする施策は、ベトナム経済の持続的成長にとって不可欠なピースと言えるだろう。
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