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ベトナム内務省が、労働災害・職業病保険基金への強制社会保険料率を現行水準から引き下げる政令案を公表した。2027年末まで0.3%に据え置き、2028年1月1日から0.5%に戻すという時限的な企業支援策であり、約1,810万人の加入者に影響を及ぼす大型の制度改正提案である。
政令案の概要—一律0.3%で手続きも大幅簡素化
内務省が意見公募にかけている政令案の骨子は以下の通りである。
- 使用者(雇用主)が毎月負担する労災・職業病保険料を、社会保険料算定基礎となる賃金総額の0.3%とする(政令施行日〜2027年12月31日)
- 2028年1月1日以降は0.5%に引き上げる
- 農業・林業・水産業・製塩業の対象者については、月次・3カ月・6カ月単位の納付方式を引き続き適用
- 従来の「条件付き減額申請制度」を廃止し、全対象者に一律0.3%を直接適用する方式へ転換
現行制度(2020年政令第58号)では、一定の条件を満たした企業のみが通常より低い保険料率の適用を申請できる仕組みだったが、条件が厳格で手続きも煩雑なため、実際にはほとんど活用されていなかった。今回の改正案は、この条件審査・書類手続きを丸ごと撤廃し、一律の低料率を直接適用するという大胆な簡素化に踏み切るものである。内務省は「政策の透明性向上、コンプライアンスコスト削減、企業の利便性向上」を改正の狙いとして挙げている。
基金の財務状況—約8兆6,442億ドンの累積黒字
ベトナム社会保険庁の報告によると、労災・職業病保険基金の2025年の状況は以下の通りである。
- 年間収入:約7,368.9億ドン(7,368億9,000万ドン)
- 加入者数:約1,810万人
- 2025年末時点の累積剰余金:約8兆6,442億ドン
- 前年(2024年)比で約8,000億ドンの剰余増加
内務省の試算では、0.3%の料率を2027年に適用した場合、基金の収入は約3,000億ドン減少する見込みだが、短期的な収支バランスには問題がないとしている。一方で、賃金引き上げや給付水準の向上方針により、中長期的には支出圧力が高まる傾向にあることも認めており、0.3%はあくまで「時限的支援措置」と位置づけている。2028年以降0.5%に戻すのは、基金の安全性確保と社会保険の相互扶助原則の維持、そして将来の給付財源確保のためだと説明されている。
高齢労働者への適用拡大
政令案にはもう一つ重要な改正点がある。労働法に基づく高齢労働者(定年後も就労を継続する者)を、労災・職業病保険の対象に新たに加えるという内容である。現行制度では、高齢労働者について使用者に保険料の強制納付義務がなく、実際に就労していても労災・職業病の給付を受けられないという制度の穴が存在していた。ベトナムでは急速な高齢化が進行しており、定年後も働き続ける労働者が増加している現実を踏まえた対応である。
投資家・ビジネス視点の考察
今回の保険料引き下げ提案は、以下の観点から注目に値する。
第一に、企業の人件費負担の軽減効果である。0.5%から0.3%への引き下げは、率としては0.2ポイントに過ぎないが、製造業を中心に数千〜数万人規模の従業員を抱える企業にとっては、賃金総額の0.2%分が約2年半にわたって浮くことになる。ベトナムに生産拠点を構える日系メーカーにとっても、直接的なコスト減となる。
第二に、ベトナム政府の「ビジネス環境改善」姿勢の一環として読める点である。手続きの大幅簡素化は、共産党決議第68号(民間経済発展に関する決議)の精神に沿ったものであり、外資誘致・民間企業支援を重視する現政権の方向性を改めて示している。2026年9月に判断が見込まれるFTSE新興市場指数への格上げに向けても、制度の透明性・予見可能性の向上は間接的にプラスに作用する。
第三に、労働集約型産業の上場企業への影響である。ベトナム株式市場では、縫製・履物・食品加工など労働集約型セクターの銘柄が多い。これらの企業にとって社会保険料は無視できないコスト要因であり、わずかな料率変更でも利益率に影響しうる。ホーチミン証券取引所(HOSE)上場の主要製造業銘柄には、短期的にポジティブな材料となる可能性がある。
ただし、2028年以降は0.5%に戻るため、恒久的なコスト削減ではない点には留意が必要である。また、基金の中長期的な支出増圧力を考えると、将来的にはさらなる料率引き上げの議論が浮上する可能性も否定できない。ベトナム進出企業としては、時限措置の恩恵を享受しつつも、社会保険制度全体の改正動向を継続的にウォッチしておくことが重要である。
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出典: 元記事












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