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ベトナム政府は2026年7月1日より、公務員等の給与計算の基準となる「基礎給与(lương cơ sở)」を月額234万ドンから253万ドンへ引き上げる。これに伴い、基礎給与を基準に算出される社会保険料、医療保険料、各種手当についても一斉に増額される。労働者の手取りや企業の人件費負担に直結する重要な制度変更である。
基礎給与の引き上げ—政令161/2026/NĐ-CPの概要
今回の引き上げは、政令161/2026/NĐ-CP(Nghị định 161/2026/NĐ-CP)に基づくものである。基礎給与は、ベトナムにおける公務員の給与テーブル、各種手当、活動費・生活費の算出基準として幅広く用いられる指標であり、社会保険制度の保険料計算にも直結する極めて重要な数値である。
新たな基礎給与は月額2,530,000ドン。従来の2,340,000ドンから約8.1%の引き上げとなる。ベトナム政府はここ数年、消費者物価指数(CPI)の上昇や経済成長率を勘案しつつ、段階的に基礎給与を引き上げてきた。今回もその延長線上に位置する施策である。
社会保険料への影響
2024年社会保険法では、強制社会保険の保険料算出基準となる給与額の下限を「参照額(mức tham chiếu)」と定め、上限をその20倍としている。基礎給与が廃止されるまでは、この参照額は基礎給与と同額が適用される。
したがって、2026年7月1日以降の強制社会保険における保険料算出基準は以下のとおりとなる。
- 下限:2,530,000ドン/月
- 上限:2,530,000ドン × 20 = 50,600,000ドン/月
基礎給与の引き上げにより、特に下限付近の給与水準で保険料を納付している労働者にとっては、保険料負担が直接的に増加することになる。一方で、将来受け取る年金や各種手当の算出基準も上がるため、長期的には給付面でのメリットも見込まれる。
医療保険料への影響
2024年改正医療保険法においても、医療保険料の算出基準となる月額給与の上限は参照額の20倍と規定されている。基礎給与が引き上げられれば、医療保険料の上限額も自動的に引き上がる構造である。
世帯加入型医療保険の新負担額
ベトナムでは、企業等に雇用されていない住民は「世帯加入型医療保険(bảo hiểm y tế hộ gia đình)」に加入する。この保険料は基礎給与の4.5%を基準に、世帯内の加入順に応じて逓減する仕組みとなっている。
- 1人目:基礎給与の4.5%(2,530,000ドン × 4.5% = 113,850ドン/月)
- 2人目:1人目の70%
- 3人目:1人目の60%
- 4人目:1人目の50%
- 5人目以降:1人目の40%
基礎給与の引き上げに伴い、すべての世帯員の保険料が比例して増加する。農村部の低所得世帯にとっては家計への影響が小さくない。
学生・生徒の医療保険料
国民教育体系に属する学校に通う学生・生徒は、世帯加入型ではなく学校を通じて医療保険に加入する。月額保険料は基礎給与の4.5%で、国庫が最低50%を補助する。
年間の保険料は4.5% × 2,530,000ドン × 12カ月 = 1,366,200ドン/年となり、国庫補助50%を差し引くと、学生・生徒の自己負担額は最大683,100ドン/年である。支払い方法は3カ月、6カ月、12カ月のいずれかを選択できる。
各種手当も連動して増額
基礎給与の引き上げは保険料だけにとどまらない。基礎給与を基準に算出される以下の手当・給付も連動して増額される。
- 功労者優遇手当
- 産休手当(出産手当金)
- 傷病手当
- 労働災害手当
- 年金
- 一時金
- 葬祭費
これらの制度はベトナムの社会保障の根幹をなすものであり、基礎給与の引き上げは国民全体の社会保障水準の底上げにつながる。
投資家・ビジネス視点の考察
基礎給与の引き上げは、ベトナムで事業を展開する日系企業にとっても看過できない変更である。直接的には公務員・公的セクターの給与基準であるが、民間企業においても最低賃金や社会保険料の負担増につながる波及効果が生じやすい。特に労働集約型の製造業を展開する日系企業にとっては、人件費上昇への対応が引き続き課題となる。
一方で、賃金上昇は消費購買力の向上を意味し、内需関連セクター——小売、食品、不動産——にはポジティブな材料となり得る。ホーチミン証券取引所(HOSE)上場の小売大手や消費財メーカーの業績にプラスに作用する可能性がある。
また、2026年9月に決定が見込まれるFTSE新興市場指数への格上げに向けて、ベトナム政府は制度の透明性向上や市場改革を加速させている。社会保障制度の段階的な整備・拡充もまた、国際的な投資家から見たベトナムの制度的成熟度を示す一つのシグナルと捉えることができるだろう。
ベトナムの基礎給与はここ数年連続で引き上げられており、この傾向は中間所得層の拡大というベトナム経済の構造的トレンドを反映している。投資家としては、人件費上昇をコスト要因として警戒しつつも、1億人市場の購買力向上という長期的な成長ストーリーの一部として評価すべきである。
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出典: 元記事












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