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ベトナム、6月29日にカーボン取引所が始動—5.11億トンの温室効果ガス排出枠が初上場

511 triệu tấn CO2e lên sàn carbon vào cuối tháng này
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ベトナムがついにカーボン市場(炭素排出権取引市場)の本格運用に踏み出す。2026年6月29日、火力発電・鉄鋼・セメントの3業種を対象とした5億1,100万トン超のCO2e(二酸化炭素換算)排出枠が初めて取引所に上場される。東南アジアにおけるカーボンプライシングの新たな一歩として、国際的にも大きな注目を集めている。

目次

何が起きるのか——カーボン取引所の概要

ベトナム政府は、温室効果ガスの排出削減を市場メカニズムを通じて推進するため、国内排出権取引制度(ETS=Emissions Trading System)の構築を進めてきた。その第一弾として、6月29日に5億1,100万トン超の排出枠(ハンガク=hạn ngạch、いわゆる排出割当量)が取引所で初めて売買される。対象となるのは、温室効果ガスの排出量が特に大きい火力発電(nhiệt điện)、鉄鋼(sắt thép)、セメント(xi măng)の3セクターである。

これらの産業はベトナムの産業構造において基幹的な存在であると同時に、国全体のCO2排出量の中でも大きな割合を占める。ベトナムの温室効果ガス排出量は近年の急速な経済成長に伴い増加傾向にあり、2021年のCOP26(国連気候変動枠組条約第26回締約国会議)でグエン・スアン・フック首相(当時)が「2050年までにネットゼロ(温室効果ガス排出実質ゼロ)を達成する」と宣言したことが、制度設計を加速させる大きな転機となった。

なぜ今なのか——制度構築の経緯と背景

ベトナムにおけるカーボン市場の法的基盤は、2020年に改正された環境保護法(Luật Bảo vệ Môi trường)に遡る。同法は排出権取引市場の設立を明文化し、政府に対して具体的なロードマップの策定を義務付けた。その後、2022年には政府が首相決定(Quyết định)を通じてカーボン市場の段階的な設立スケジュールを公表。当初は2025年からの試験運用が予定されていたが、制度設計の精緻化や対象企業のデータ整備に時間を要し、2026年6月の本格始動にずれ込んだ形である。

国際的な文脈でも、このタイミングは重要である。EUは2026年から「炭素国境調整メカニズム(CBAM=Carbon Border Adjustment Mechanism)」の本格適用を開始しており、EU向けに鉄鋼やセメントを輸出するベトナム企業は、自社の排出量を正確に報告し、相応の炭素コストを負担する必要に迫られている。国内でカーボン市場が機能していることは、EU CBAMへの対応において極めて有利に働く。ベトナム企業が国内で排出枠を購入・取引した実績があれば、EU側で追加的な炭素コストを課される額が軽減される可能性があるためだ。

対象3セクターの現状と影響

火力発電:ベトナムの電源構成において石炭火力は依然として大きなシェアを占めている。電力総公社(EVN=Electricity of Vietnam)傘下の火力発電所をはじめ、BOT(建設・運営・移転)方式で参入した外資系発電所も対象となる見通しだ。排出枠の割当量によっては、発電コストに直接的な影響が及ぶ可能性がある。

鉄鋼:ホアファット・グループ(Hòa Phát Group、銘柄コード:HPG)やホアセン・グループ(Hoa Sen Group、銘柄コード:HSG)など、ベトナムの主要鉄鋼メーカーは大量のCO2を排出する高炉を運用している。特にホアファットはベトナム最大の粗鋼生産能力を持ち、排出枠の割当と取引コストが業績に影響を与える可能性がある。

セメント:ベトナムは世界有数のセメント生産国であり、ハーティエン・セメント(Hà Tiên Cement)やビンソン・セメント(Bỉm Sơn Cement)など多くのメーカーが存在する。セメント製造はクリンカー焼成工程で大量のCO2を排出するため、排出枠のコストがセメント価格に転嫁される可能性も想定される。

5.11億トンの排出枠——その規模感

今回上場される5億1,100万トン超のCO2eという数字は、ベトナム全体の年間温室効果ガス排出量(推定約4億〜5億トン)に匹敵する規模である。これは複数年分の排出枠を一度に市場に投入することを意味しており、初期段階では流動性を確保しながら価格発見メカニズムを機能させる狙いがあると考えられる。排出枠の初期価格がどの水準に設定されるか、あるいは市場の需給でどの水準に落ち着くかは、今後の制度運用の成否を左右する重要なポイントである。

参考までに、EUのETS(EU-ETS)では排出枠の価格が1トンあたり50〜100ユーロの水準で推移しており、中国のETSでは1トンあたり50〜100人民元と比較的低水準にとどまっている。ベトナムのカーボン価格がどの水準に形成されるかは、アジア全体のカーボン市場の発展にも影響を与えうる。

投資家・ビジネス視点の考察

ベトナム株式市場への影響:カーボン取引所の始動は、短期的には対象3セクターの企業にコスト増要因として意識される可能性がある。特にHPG(ホアファット)、HSG(ホアセン)、HT1(ハーティエン1セメント)、BCC(ビンソンセメント)などの銘柄は、排出枠の割当量と取引コストの詳細が明らかになる過程で株価が変動する可能性がある。一方で、再生可能エネルギー関連銘柄や、省エネ技術を持つ企業にとっては追い風となりうる。排出枠を余らせた企業が市場で売却して収益を得る構図が生まれれば、環境対応の先進企業が財務的にも報われる仕組みが実現する。

日本企業・ベトナム進出企業への影響:ベトナムに製造拠点を持つ日本企業にとって、カーボン市場の始動は無視できない変化である。特に鉄鋼やセメントのサプライチェーンに関わる企業は、取引先のコスト構造変化を注視する必要がある。また、JCM(二国間クレジット制度)を通じた日越間の排出権取引との連携がどう進むかも、日本企業にとっての重要な論点である。JICA(国際協力機構)や日本の環境省は、ベトナムのカーボン市場設計を技術的に支援してきた経緯があり、今後の制度運用においても日本の知見が活かされる場面は多いだろう。

FTSE新興市場指数の格上げとの関連性:2026年9月に決定が見込まれるFTSEの新興市場指数への格上げは、ベトナム資本市場の制度的成熟を示す指標として注目されているが、カーボン市場の導入もまた、ベトナムが国際的な市場制度の標準に近づいていることを示すシグナルである。ESG(環境・社会・ガバナンス)投資の観点から、カーボン市場の存在はグローバルな機関投資家がベトナム市場を評価する際のプラス要因となりうる。

ベトナム経済全体のトレンド:ベトナムは「グリーン成長戦略」を国家的な優先課題に掲げており、カーボン市場はその中核的な政策ツールの一つである。経済成長と環境負荷の両立(デカップリング)を目指す姿勢は、国際社会からの評価を高め、FDI(外国直接投資)の呼び込みにも好影響を与える。特にグリーンボンドやサステナビリティ・リンク・ローンなど、環境関連の金融商品との相乗効果も期待される。

今回のカーボン取引所始動は、ベトナムが「高成長の新興国」から「持続可能な成長を制度的に担保する国」へと転換を図る重要な一歩である。6月29日の初取引がどのような価格形成と取引量を示すか、市場関係者は固唾を飲んで見守ることになるだろう。


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出典: 元記事

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