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ベトナム公安省が主導する「フェイクニュース(偽情報)防止に関する政令」の草案をめぐり、「偽情報」や「事実と異なる情報」の定義が曖昧すぎるとして、内務省、国防省、中央銀行、科学技術省など複数の省庁から異論が噴出している。個人の分析・予測・意見と「偽情報」の線引きが不明確なまま法制化されれば、経済活動や投資情報の発信にも大きな影響を及ぼしかねない。
草案の概要と経緯
ベトナム公安省は、偽情報・虚偽情報に関する違法行為の防止措置を定める政令草案を策定した。2025年5月6日、司法省(Bộ Tư pháp)がこの草案の審査用資料を公開し、各省庁からの意見聴取が本格化した。
草案では、違法行為として以下の類型を具体的に列挙している。「発言」「作成(新規作成・編集)」「保管」「拡散」「掲載」「共有」「コメント」「虚偽情報の公表」——つまり、偽情報に関わるほぼすべての行為が規制対象となる。さらに、偽情報対策の国家データベースセンターの設立も提案されている。
各省庁から噴出する懸念
内務省(Bộ Nội vụ)は、草案第3条の用語定義について、「偽情報」「一部が事実と異なる情報」といった概念が定性的で明確な基準がないと指摘した。特に、故意に虚偽情報を作成・拡散する行為と、公式情報が十分かつ迅速に提供されない状況下で未検証の情報を共有してしまうケースとの区別が困難だと警鐘を鳴らした。
ベトナム国家銀行(Ngân hàng Nhà nước Việt Nam、中央銀行)は、偽情報・虚偽情報を「故意」と「過失(無意識)」に分類すべきだと提案した。誤解による誤情報、未検証の情報、さらには予測・分析・見解・個人的意見といった性質の情報も存在するため、これらを一律に「偽情報」として扱うことへの懸念を表明した。この指摘は、金融・経済分野で日常的に行われるアナリストの市場予測や企業分析にも直結する論点である。
国防省(Bộ Quốc phòng)は、2024年11月19日付の政令第147/2024/NĐ-CP号(インターネット管理・情報提供に関する政令)第3条第18項に定められた「偽情報」の定義と整合性を取るよう求めた。司法省は主体・行為・目的の明記を、科学技術省(Bộ Khoa học và Công nghệ)は安全保障・経済・個人・AI由来の情報など内容別の分類基準の追加を求めた。
草案の修正と現在の定義
これらの意見を受け、起草機関は定義を修正した。現行の第3次草案では、「偽情報(tin giả)」を「事実に基づかない情報」、「事実と異なる情報(tin sai sự thật)」を「一部が事実に基づかない情報」と定めている。
ただし、政令147とは異なり、行為の「主体」の特定を要件としない方針が示された。実務上、拡散元の主体が特定できないケースでも偽情報として処理・公表する必要があるためである。
危険度による分類
草案第4条では、偽情報・虚偽情報を危険度で2段階に分類している。
「高危険度」は、安全保障・国防・外交、党・国家の威信やイメージ、世論に大きな悪影響を及ぼし得るもの、メディア危機を引き起こす可能性があるもの、党・国家の高位指導者の威信・イメージに影響するものを指す。
「低危険度」は、影響範囲が狭く、個人・組織の合法的な権利・利益に影響するものとされる。
また、情報へのアクセス権に基づく分類も設けられ、「市民がアクセスできない情報を含むもの」「条件付きでアクセス可能な情報を含むもの」「市民がアクセス可能な情報を含むもの」の3類型が示されている。
AI利用への言及
草案は、高度な技術やAI(人工知能)を意図的・組織的に利用して偽情報に関する違法行為を行い、個人・組織の権利・利益に深刻な損害を与える行為も明確に違法と位置づけている。ディープフェイク技術の急速な普及を背景に、ベトナム当局がAI由来の偽情報対策を法的に整備しようとする姿勢が鮮明である。
投資家・ビジネス視点の考察
この政令草案は、ベトナムで事業を展開する日系企業や、ベトナム株に投資する個人投資家にとって見過ごせない動きである。
第一に、市場分析・投資情報の発信リスクが浮上する。中央銀行が懸念を示したように、「予測」「分析」「個人の見解」と「偽情報」の境界が不明確なまま法制化されれば、アナリストレポートやSNS上の投資コメントが規制対象となるリスクがある。ベトナム株式市場では個人投資家がSNSを通じて情報交換する文化が根付いており、萎縮効果は無視できない。
第二に、FTSE新興市場指数への格上げ(2026年9月決定見込み)との関連である。ベトナムは市場の透明性・制度整備が格上げの条件となっているが、情報規制の強化は海外投資家から「言論の自由の制約」と見なされるリスクがある。一方で、偽情報による市場撹乱の防止という観点からは、適切な法整備がプラスに評価される可能性もあり、最終的な条文の精度が鍵を握る。
第三に、テクノロジー・メディア関連銘柄への影響である。FPT(ベトナム最大手IT企業)などAI関連事業を展開する企業は、AI由来の偽情報対策が事業機会にもなり得る一方、コンプライアンスコストの増加も想定される。VNG(ベトナム大手インターネット企業)など、SNS・プラットフォーム事業者は情報管理責任が一層厳格化する可能性がある。
日系企業にとっては、ベトナム国内での広報・マーケティング活動における情報発信の法的リスクを再点検する契機となる。特に、現地法人のSNS運用やプレスリリースの内容が、意図せず「事実と異なる情報」と認定されるシナリオへの備えが求められる。
政令の最終版がどのような形で確定するか、今後の審議プロセスを注視すべきである。
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出典: 元記事












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