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ベトナム政府がAI(人工知能)システムのリスクを3段階に分類し、提供事業者に使用開始前の自己分類を義務付ける政令を公布した。東南アジア地域においてもいち早くAI規制の法的枠組みを整備した形であり、ベトナムで事業を展開するテクノロジー企業や日系企業にとって重要な転換点となる。
政令142号の概要—AI法の施行細則が確定
ベトナム政府は政令第142/2026/NĐ-CP号を公布し、AI法(Luật Trí tuệ nhân tạo)の一部条項の詳細規定および施行措置を定めた。本政令の核心は、AIシステムの提供事業者(nhà cung cấp)に対し、システムを市場に投入する前にリスク分類を自ら実施し、その結果の正確性・真実性について法的責任を負うことを義務付けた点にある。
なお、分類の対象はあくまで「AIシステム」であり、「AIモデル」単体には適用されない。ただし、AIモデルが特定のAIシステムの構成要素として使用される場合は分類対象に含まれる。この区分はEU AI規制法(EU AI Act)における「汎用目的AIモデル」と「AIシステム」の区別と類似した設計思想を反映しており、ベトナムがグローバルな規制動向を意識していることがうかがえる。
3段階のリスク分類—高・中・低
政令が定める3つのリスク分類は以下の通りである。
第1段階:高リスク(rủi ro cao)
AI法第13条第4項に基づき首相が公布する「高リスクAIシステム一覧」に該当するシステムが対象となる。具体的なリストは首相決定で別途公表される見込みであり、医療診断、司法判断支援、重要インフラ制御など、人の生命・権利に重大な影響を及ぼす分野が含まれると予想される。
第2段階:中リスク(rủi ro trung bình)
高リスクには該当しないが、政令第9条に規定する条件に合致するシステムが対象となる。
第3段階:低リスク(rủi ro thấp)
上記の高リスク・中リスクのいずれにも該当しないシステムが自動的にこの区分に分類される。
注目すべきは、システムの導入事業者(bên triển khai)が当初の提供事業者の公表内容から機能や使用目的を変更・統合した結果、新たなリスクやより高いリスクが生じた場合、導入事業者が提供事業者と協力してリスク分類を再評価する義務を負う点である。これにより、AIシステムのライフサイクル全体を通じたリスク管理が制度的に担保される。
科学技術省による支援ツールの提供
ベトナム科学技術省(Bộ Khoa học và Công nghệ)は、事業者がAIシステムのリスクを自己評価・分類するための電子支援ツールを提供する。ただし、このツールの利用は任意であり、行政上の承認手続きや追加義務を発生させるものではないと政令は明記している。これは規制コンプライアンスの負担を抑えつつ、事業者の自主的なリスク管理を促す「ソフトな規制アプローチ」と評価できる。
AIエコシステムと市場の発展政策
政令のもう一つの重要な柱は、AIエコシステムおよび市場の発展に関する包括的な政策体系である。科学技術省がAIエコシステム・市場発展の調整機関として位置付けられ、公共部門におけるインフラ能力、データ、プログラム、AIニーズに関する情報を公開し、供給と需要のマッチングを図る責任を担う。
具体的な政策は3本柱で構成される。
第1の柱:AI技術の供給力強化
計算インフラ、データ、管理された実験環境(サンドボックス)へのアクセスを促進し、商業化可能なAI製品・サービスの開発を後押しする。
第2の柱:市場需要の喚起とAI応用の拡大
情報技術応用、デジタルトランスフォーメーション(DX)、電子政府、デジタル経済、公共サービス提供に関するプロジェクトにおいて、AI製品・サービスの優先的な利用を推進する。イノベーション型の発注・調達モデルの導入も奨励され、経常支出および公共投資の予算配分も関連法令に基づき検討される。
第3の柱:市場接続と商業化の促進
技術の供給・需要をマッチングするプラットフォームの開発を進め、企業・科学技術機関・大学・投資家間の連携を促進する。テクノロジー企業、中小企業、スタートアップ、科学技術機関、大学がAI製品・サービスの開発・提供・応用に参加する場合、上記政策の適用において優先的に取り扱われる。
投資家・ビジネス視点の考察
本政令は複数の観点からベトナム市場に影響を与えうる。
ベトナムIT・テクノロジーセクターへの影響:FPTコーポレーション(FPT、ベトナム最大手IT企業)やViettel(軍営通信大手)など、国内でAIソリューションを展開する企業にとって、明確な規制枠組みの整備はむしろポジティブに作用する可能性が高い。規制の予見可能性が高まることで、大手顧客のAI導入に対する心理的障壁が下がり、受注拡大につながりうるためである。
日系企業への影響:ベトナムに製造拠点やBPO拠点を持つ日系企業は、業務効率化のためにAIシステムを導入する際、本政令に基づくリスク分類を意識する必要がある。特に人事管理や品質検査にAIを活用するケースでは、中リスク以上に該当する可能性があり、コンプライアンス体制の整備が求められる。
FTSE新興市場指数との関連:2026年9月に決定が見込まれるFTSE新興市場指数への格上げにおいて、ベトナムの法制度の透明性・予見可能性は重要な評価要素となる。AIという最先端分野で国際標準に近い規制枠組みを整備したことは、「制度面の成熟度」を示す材料として海外機関投資家にポジティブに受け止められる可能性がある。
東南アジア地域における位置づけ:ASEAN諸国の中でAIに特化した包括的法律を制定・施行している国はまだ少なく、ベトナムはシンガポールと並んでAIガバナンスの先進国として位置付けられつつある。これはベトナムをAI関連の研究開発拠点・投資先として選ぶ際の差別化要因となりうる。
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出典: 元記事












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