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ベトナムが東南アジアにおける越境EC(電子商取引)輸出の中核拠点として急速に存在感を高めている。米アマゾン・グローバルセリング東南アジア部門のラリー・フー(Larry Hu)最高執行責任者が、ベトナムの台頭を「地域の越境EC輸出ハブ」と明確に位置づけた発言は、同国の製造業とデジタル経済の融合が新たな段階に入ったことを象徴している。
Amazon幹部が語るベトナムの競争優位
ラリー・フー氏は、ベトナムが越境ECの輸出拠点として浮上している要因として、同国が持つ製造業の厚みと、急速に進むデジタルインフラの整備を挙げた。ベトナムはすでに繊維・アパレル、電子機器、家具、農産物加工品などで世界有数の輸出国であり、これらの生産基盤がそのままECプラットフォームを通じた越境販売の供給源となっている。
Amazon自身もベトナムのセラー(出品者)の育成・拡大に注力しており、近年はベトナム発の出品者数が東南アジア域内で顕著な伸びを見せている。特に中小企業がAmazonのマーケットプレイスを通じて北米や欧州の消費者に直接販売するケースが増加しており、従来のB2B型輸出とは異なるD2C(消費者直販)モデルが広がりつつある。
なぜベトナムが選ばれるのか——構造的な背景
ベトナムが越境EC輸出の拠点として注目される背景には、複数の構造的要因がある。
第一に、米中貿易摩擦とサプライチェーンの多元化である。2018年以降の関税引き上げを契機に、中国からベトナムへの製造拠点シフト(いわゆる「チャイナ・プラスワン」)が加速した。これにより、ベトナム国内の工場で生産された製品がそのまま越境ECの商品として流通する動線が確立されつつある。とりわけ2025年以降、トランプ政権の関税政策が再び強化される中で、ベトナム経由の輸出ルートの重要性はさらに増している。
第二に、若年層を中心としたデジタルリテラシーの高さである。ベトナムの人口約1億人のうち、平均年齢は約33歳と若く、スマートフォン普及率も高い。EC関連のスキルを持つ人材が豊富であり、Amazonのセラーアカウント運営やデジタルマーケティングに対応できる労働力が比較的安価に確保できる。
第三に、政府の積極的なEC振興政策である。ベトナム政府は2025年までにEC市場規模を大幅に拡大する国家計画を策定しており、物流インフラの整備や税制優遇、デジタル決済の普及促進などを進めてきた。越境ECに特化した支援プログラムも各地で展開されており、ホーチミン市やハノイ市を中心にEC関連のスタートアップ・エコシステムも形成されつつある。
東南アジア域内での競争ポジション
越境EC輸出の分野では、これまで中国が圧倒的な存在感を示してきた。アリババ傘下のAliExpress、PDD Holdings(拼多多)傘下のTemu、さらにはSHEINといったプラットフォームが中国の製造業をバックに世界市場を席巻してきた経緯がある。しかし、関税リスクや地政学的リスクの高まりを受け、バイヤー側・プラットフォーム側の双方が「脱・中国一極集中」を模索する動きが鮮明になっている。
東南アジア域内では、タイやインドネシア、マレーシアもEC市場の成長が著しいが、製造業の輸出競争力とデジタル対応力の両方を兼ね備えた国としてベトナムが一歩リードしている、というのがフー氏の見立てである。ベトナムの2024年の輸出額は約3,800億ドル規模に達しており、GDPに対する貿易依存度は200%を超える「貿易立国」としての性格がEC輸出の拡大にも直結している。
物流・インフラ面の課題と進展
もっとも、ベトナムが越境ECハブとしての地位を確固たるものにするためには、物流面の課題も残る。国際航空貨物の取扱能力は依然として中国の深圳や上海に比べて限定的であり、ホーチミン市のタンソンニャット国際空港やハノイのノイバイ国際空港の貨物処理能力の拡充が急務とされている。また、ラストマイル配送の効率化や通関手続きの電子化・迅速化も、セラーの競争力を左右する重要な要素である。
一方で、南部のカイメップ・ティーバイ(Cái Mép – Thị Vải)深水港をはじめとする港湾インフラの整備は着実に進んでおり、大型コンテナ船の直接寄港が可能になったことで海上輸送のリードタイムも短縮傾向にある。さらに、ベトナム政府が推進するロンタイン(Long Thành)新国際空港(ドンナイ省)の建設が完了すれば、航空貨物のキャパシティは飛躍的に拡大する見通しである。
投資家・ビジネス視点の考察
【ベトナム株式市場への影響】
越境EC関連の成長テーマは、ベトナム株式市場においても注目度が高まっている。物流大手のジェマデプト(Gemadept、銘柄コード:GMD)やベトナム郵政(Vietnam Post)、IT・EC支援企業などが恩恵を受ける可能性がある。また、包装資材や倉庫関連のセクターにも波及効果が見込まれる。工業団地を運営するデベロッパー(例:ベカメックス IDC〔BCM〕やロンハウ工業団地〔LHG〕など)にとっても、EC向け倉庫・フルフィルメントセンター需要の拡大はポジティブな材料である。
【日本企業への影響】
日本企業にとっても、ベトナムの越境ECハブ化は重要なトレンドである。すでにベトナムに製造拠点を持つ日系メーカーが、従来のB2B輸出に加えてAmazonなどのプラットフォームを通じたD2C販売に乗り出す動きが増えている。また、日本の物流企業(日本通運、ヤマトホールディングスなど)がベトナムでの越境EC物流サービスを拡充する動きも加速しており、ビジネスチャンスは多い。
【FTSE新興市場指数への格上げとの関連性】
2026年9月に決定が見込まれるFTSE新興市場指数へのベトナムの格上げは、海外からの資本流入を大幅に増加させると期待されている。越境ECの成長はベトナムのGDP成長を下支えする要因の一つであり、マクロ経済のファンダメンタルズ改善を通じて格上げの追い風となり得る。格上げが実現すれば、物流・IT・工業団地といったEC関連セクターにも海外機関投資家の資金が流入する可能性が高い。
【ベトナム経済全体における位置づけ】
ベトナム政府が掲げる「2045年までに高所得国入り」という長期目標において、デジタル経済の発展は最重要テーマの一つである。越境ECの拡大は、単なる貿易量の増加にとどまらず、中小企業のグローバル市場へのアクセス向上、付加価値の高い産業構造への転換、さらにはデジタル人材の育成といった多面的な効果をもたらす。Amazon幹部がベトナムを「地域の越境EC輸出ハブ」と認定したことは、こうした構造転換が着実に進んでいることの証左と言えるだろう。
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出典: 元記事












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