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2026年4月、ベトナム各地の公安当局が偽の東洋医学(漢方)薬を製造・販売していた犯罪ネットワークを相次いで摘発した。SNSを駆使した巧妙な広告手法、禁止成分の混入、偽の患者を使ったやらせ動画など、その手口は極めて悪質である。ベトナムの医薬品市場の信頼性に関わる問題として、投資家にとっても看過できないニュースである。
ゲアン省:国道沿いにスプレーで「喘息100%完治」と宣伝
4月15日、ゲアン省(ベトナム中北部の省)公安経済警察課は、グエン・ズイ・ソン容疑者(1987年生まれ、ゲアン省チュオンヴィン区在住)を偽医薬品の製造・販売容疑で逮捕・起訴した。
捜査の結果、ソン容疑者とその家族には漢方薬や伝統薬の製造に関する専門知識も資格も一切なかったことが判明している。容疑者はSNS上で出所不明の製品を購入し、自らラベルを貼り替え、虚偽の広告で販売していた。2025年から逮捕時までに約1,000本の偽薬を販売したとされる。
その宣伝手法は驚くほど原始的かつ大胆であった。ソン容疑者はスプレー塗料の缶を持ち歩き、国道1A号線(ベトナムを南北に縦断する幹線道路)沿いの民家の壁、広告看板、交通標識などに「100% KHỎI HEN SUYỄN(喘息100%完治)」という文字と電話番号を吹き付けて回っていたのである。同時にZaloやFacebookといったSNS上でも「30日で喘息が完全に治る」「先祖代々伝わる漢方薬」「100%天然ハーブで副作用なし」といった虚偽広告を展開していた。
公安が容疑者の寝室を家宅捜索したところ、「喘息治療薬 伝統漢方 保存料不使用・副作用なし・100%天然ハーブ」と表示された約200本の偽薬が発見された。
最も深刻なのは、公安省科学捜査研究所(ベトナム公安省直轄の鑑定機関)による成分分析の結果である。偽薬の中からデキサメタゾン(副腎皮質ステロイド)およびクロルフェニラミン(抗ヒスタミン薬)が検出された。これらはいずれも保健省通達第10/2021/TT-BYT号(2021年6月30日付)において、健康食品への使用が禁止されている成分である。ステロイドであるデキサメタゾンは短期的に炎症を抑えるため「効いた」と感じさせる一方、医師の管理なく長期服用すれば骨粗鬆症、免疫低下、副腎不全など重篤な副作用を引き起こす危険性がある。
フンイエン省:偽の患者を使ったやらせ動画でSNS詐欺
前日の4月14日には、フンイエン省(ハノイの東隣に位置する省)公安の内政治安課が主導し、オンライン上で偽医薬品を製造・販売していた犯罪ネットワークを壊滅させた。グエン・ヴァン・ハイ容疑者(1991年生まれ、フンイエン省バクティエンフン社在住)および他2名が「詐欺による財産横領」の容疑で起訴された。
公安のサイバー空間監視活動により、ハイ容疑者が指示して開設・管理していた4つのFacebookページが特定された。「東洋医学伝統薬 – オンヒエン」「乾癬治療 – 東洋医学オンヒエン」「オンヒエン – 皮膚病専門治療」「オンヒエン – タイビン皮膚科No.1」の4ページである。
ハイ容疑者らの手口はさらに巧妙であった。知人を雇って患者役を演じさせ、「東洋医学伝統薬 – 乾癬・アトピー性皮膚炎専門治療」と銘打った診療所での診察・治療の様子を撮影した「やらせ動画」を制作。これをFacebook上で公開し、自らを「4代続く伝統漢方の名医」と称して、乾癬、白癬、なまず(癜風)、汗疱、アトピー性皮膚炎などの皮膚疾患を「完全に治す」と謳っていたのである。
偽漢方薬問題の構造的背景
ベトナムでは伝統医学(東洋医学)への信頼が文化的に根強く、特に地方部では西洋医学よりも漢方薬を好む消費者が少なくない。こうした文化的背景が、「伝統薬」「家伝の秘薬」といったキーワードを悪用した詐欺を生みやすい土壌となっている。
さらに、ベトナムではスマートフォンの普及率が高く、FacebookやZaloの利用者数は人口の大半をカバーしている。SNSを通じた商品販売は正規のEコマースプラットフォームと比べて規制の目が届きにくく、偽薬の販売チャネルとして悪用されやすい状況にある。
公安当局は今回の事件を受け、消費者に対して以下の点を警告している。医薬品を購入する際は出所が明確で当局の認可を受けた製品のみを選ぶこと、そして使用前に必ず医師に相談することが重要である。
投資家・ビジネス視点の考察
今回のニュースは直接的に上場企業の株価を動かす性質のものではないが、ベトナムの医薬品・ヘルスケア市場の構造的課題を浮き彫りにしている点で、投資家にとっても重要な示唆を含んでいる。
第一に、偽薬の横行は正規の医薬品メーカーにとって中長期的にはプラス材料となり得る。取り締まりの強化によって非正規品が市場から排除されれば、ハウザン製薬(DHG)、トラファコ(TRA)、イムエクスファーム(IMP)といった上場医薬品企業の売上拡大につながる可能性がある。ベトナムの医薬品市場は年率10%前後の成長を続けており、正規品への信頼向上は市場全体の健全な発展に寄与する。
第二に、SNSを利用した詐欺の摘発強化は、ベトナム政府がサイバー空間の管理を強化している流れの一環と捉えられる。2025年に施行されたデータセキュリティ関連法令とも相まって、デジタルプラットフォーム上の取引に対する規制環境は今後さらに厳格化する方向にある。これはEコマース関連企業の運営コスト増加要因となる一方、信頼性の高いプラットフォームへの消費者集中を促す効果もある。
第三に、2026年9月に予定されるFTSE新興市場指数への格上げ判定を前に、ベトナム政府は市場の透明性や法執行の実効性をアピールする必要がある。偽医薬品ネットワークの積極的な摘発は、消費者保護と法の支配が機能していることを国際投資家に示す材料の一つとなり得る。
日本企業の観点では、ベトナムのヘルスケア市場に進出している、あるいは進出を検討している企業にとって、偽薬の流通は深刻なリスク要因である。ブランド保護の観点から、正規流通チャネルの確保やトレーサビリティの確立が不可欠であり、現地パートナー選定においても一層の慎重さが求められる。
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