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ベトナムの若年層の間で、生殖医療(リプロダクティブヘルス)に対する意識が急速に変化している。晩婚化・晩産化が進む中、かつてタブー視されていた生殖に関する健康管理が「ライフスキル」の一部として捉えられるようになり、関連市場も拡大の一途をたどっている。ベトナムのIVF(体外受精)市場は2028年に約2億300万ドル規模に達する見通しだ。
世界的な晩産化トレンドとベトナムの位置づけ
OECDおよびEurostatのデータによると、先進国における女性の第一子出産時の平均年齢は過去20年以上にわたり上昇を続けている。2000年代初頭にはOECD諸国で27歳前後だったこの数字は、現在30歳を超えている。韓国、日本、イタリア、スペインなど出生率が特に低い国では、第一子出産年齢は31〜33歳が一般的となっている。
ベトナムもアジア全体の潮流と無縁ではない。結婚・出産の時期が後ろ倒しになることで、成人してから家庭を築くまでの期間が長期化し、将来の生殖能力に影響し得る要因について早期から関心を持つ若者が増えている。妊娠を具体的に計画する段階になってから初めて調べるのではなく、キャリア形成や学業と並行して生殖健康を「管理」するという発想への転換が起きているのである。
急拡大する世界のフェムテック・生殖医療市場
個人の行動変容と並行して、生殖技術(fertility technology)産業も急速に発展している。従来、生殖医療サービスは不妊治療と結びつけられることが多かったが、現在では生殖健康の評価検査、ホルモンモニタリング、個別化された生殖カウンセリング、長期的な健康データの保存など、多岐にわたる領域へと市場が拡大している。
米国の大手生殖医療企業Kindbody(カインドボディ)は、2023年4月から2024年4月にかけて、生殖能力保存(卵子凍結など)サービスの利用者が約50%増加したと報告している。また、女性と家族向けのデジタルヘルスプラットフォームであるMaven Clinic(メイブン・クリニック)は、複数の国で数千万人規模のユーザーに家族計画・生殖医療サービスを提供している。
さらに、Apple、Meta(旧Facebook)、Goldman Sachs(ゴールドマン・サックス)といったグローバル大手企業が、不妊治療やIVF、卵子凍結を従業員向け福利厚生に組み込む動きも広がっている。生殖医療テクノロジー企業のProgyny(プロジニー)は、企業と従業員を結び、生殖関連検査から卵子凍結、IVFまでを一括提供するモデルを構築しており、数百万人規模の労働者にサービスを展開している。英ガーディアン紙は、生殖医療の福利厚生を「高度人材獲得における戦略的な新兵器」と評している。
デジタルヘルス分野でも、生殖健康の日常的なトラッキングが急速に普及している。月経周期・生殖健康トラッキングアプリの世界最大手Flo Health(フロー・ヘルス)は月間アクティブユーザー7,000万人超を擁し、ドイツ拠点の同種アプリClue(クルー)もグローバルで1,200万人以上のユーザーを持つ。生殖健康の管理は、睡眠や栄養、運動の記録と同様に、日常的なヘルスケアの一部として定着しつつある。
ベトナム国内の動向—IVF市場は年平均7.47%成長へ
ベトナムの生殖医療市場も着実に拡大している。調査会社Research and Markets(リサーチ・アンド・マーケッツ)によると、ベトナムのIVF市場は2023年〜2028年の期間に年平均成長率(CAGR)7.47%で成長し、2028年には約2億300万ドル規模に達すると予測されている。
国内の大手医療機関は生殖医療関連の設備投資や専門カウンセリングサービスの拡充を進めており、最新の生殖医療ソリューションへのアクセスが改善されつつある。
こうした変化の背景には、経済・社会的な不確実性の中で、個人が自らの人生設計をより能動的にコントロールしたいという意識がある。以前の世代が生活基盤を安定させてから将来を計画する傾向が強かったのに対し、現在の若年層は具体的な時期が定まっていなくても「備え」を早期に始める傾向が見られる。
ただし、専門家からは慎重な声も上がっている。卵子凍結をはじめとする生殖医療技術は、将来の妊娠を完全に保証するものではなく、医学的情報の透明性が欠けたまま商業化が進めば、消費者に非現実的な期待を抱かせるリスクがあるとの指摘がなされている。
Z世代の意識変革と情報リテラシーの課題
ハノイ国家大学医薬大学病院(リンダム院区)で開催された「Gen Zと生殖・性の健康管理」をテーマとするシンポジウムでは、同大学泌尿器科・男性医学・性医学講座のルウ・クアン・ロン医師が、デジタル環境は若者の知識へのアクセスを飛躍的に広げる一方、正確な情報を見極める能力が不可欠であると指摘した。情報の選別スキルが不足すれば、誤った認識の形成や健康・心理面に悪影響を及ぼす判断につながりかねないという。
一方、ベトナム青少年メディア・イベントクラブ副主任のヴォー・クオック・ダット氏は、科学的かつ正確な生殖健康の知識を若者に提供することは現代において不可欠な要請であり、個人の自己防衛にとどまらず、より文明的で安全な社会の構築にも寄与すると述べている。
生殖は「自然の成り行き」から、計画的に管理・投資する人生の一領域へと変容しつつある——これはベトナムにおいても否定し難い現実となっている。
投資家・ビジネス視点の考察
ベトナムのIVF市場が2028年に2億ドル超に到達するという予測は、同国のヘルスケアセクターの成長ポテンシャルを改めて示すものである。ベトナム株式市場においては、病院運営や医療機器関連の上場企業(例:ホーチミン市医科大学病院系列に関連する銘柄や、民間病院チェーン)への中長期的な追い風となる可能性がある。
日本企業にとっても、この分野は注目に値する。日本は生殖医療技術で先行しており、不妊治療クリニックの運営ノウハウや医療機器の輸出、デジタルヘルスアプリの技術提携など、ベトナム市場への参入余地は大きい。実際、日本の不妊治療関連企業がベトナムの医療機関と提携する事例は今後増加が見込まれる。
また、2026年9月に決定が見込まれるFTSE新興市場指数へのベトナム格上げが実現すれば、ヘルスケアを含む内需系セクターへの海外資金流入が加速する。人口構造の変化に伴う「少子化対策関連」「生殖医療関連」は、ベトナム株の中でも中長期テーマとして投資家の関心を集める分野になり得るだろう。
ベトナムの若年人口は依然として多いが、都市部を中心に急速に少子化・晩婚化が進んでおり、この構造変化がもたらす新たな消費・サービス需要は、投資判断においても見逃せないファクターである。
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出典: 元記事












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