ハノイ在住13年の現地投資家による、より深い企業分析・投資戦略は👉 メンバーシップで公開中
ベトナムのトー・ラム(Tô Lâm)共産党書記長兼国家主席が、シンガポールで開催された第23回シャングリラ対話(アジア安全保障会議)の開幕セッションで基調講演を行い、世界が直面する「3つの根本的危機」を提示するとともに、アジア太平洋地域における平和・安定・発展のための包括的ビジョンを提唱した。ベトナムの最高指導者がこの場で基調講演を務めること自体が、同国の国際的プレゼンス向上を象徴する出来事である。
世界が同時に直面する「3つの根本的危機」
トー・ラム書記長兼国家主席は、現在の世界の不安定さの根底には、相互に影響し合う3つの危機が同時進行していると指摘した。
第一に「国際秩序の危機」である。公正な秩序は世界の変化を反映して調整されるべきだが、その調整はあくまでルール・対話・自制に基づくべきであり、強制・押し付け・武力の威嚇によって行われてはならないと強調した。ルールの拘束力が弱まり、宣言された約束と実際の行動が乖離する状況は、とりわけ中小国に新たな圧力をもたらすと警鐘を鳴らした。
第二に「発展モデルの危機」である。貿易・投資・技術・サプライチェーンといった従来のグローバル成長のエンジンが、新たな圧力にさらされている。成長の鈍化、公的債務の増大、気候変動、技術格差の拡大、さらには貿易・金融・エネルギー・データを圧力の道具として利用する動きが、持続可能な発展に対する深刻な脅威となっている。トー・ラム書記長兼国家主席は「多くの国にとって、発展は安全保障に次ぐ二次的な選択肢ではなく、持続的安全保障の基盤そのものである」と述べた。
第三に「戦略的信頼の危機」である。これは「静かだが危険な危機」であり、各国が互いの行動を猜疑と不安のレンズを通して見るようになる状態を指す。戦略的信頼とは、相違点の解消や競争の否定を意味するのではなく、ルールの枠内で相違を管理し、責任ある・限定的・予測可能な競争を確保することだと定義した。AI、ビッグデータ、量子技術、サイバー空間、自律型システムの急速な発展がこれらの課題をさらに複雑化させており、対話・透明性・行動規範の構築が急務であると訴えた。
アジア太平洋こそが「解の出発点」
トー・ラム書記長兼国家主席は、上記3つの危機がアジア太平洋地域に最も鮮明に集約されていると指摘した。同地域は世界で最もダイナミックな成長の中心地であると同時に、激しい戦略的競争の舞台でもある。その上で、平和・安定・発展・自強を備え、リスクを早期に遠ざけるアジア太平洋を共に構築するための複数の方向性を提案した。
まず、ルールと対話をリスク軽減の有効な手段とすることを求めた。対話は単に立場を表明する場にとどまらず、危険を早期に認識し、連絡チャネルを維持し、相違がエスカレートして危機に至ることを防ぐ機能を果たすべきだとした。
海洋問題については、海と大洋は共有の接続空間であり、貿易・エネルギー・食料・グローバルサプライチェーンの生命線であると位置付けた。南シナ海(ベトナム名:ビエンドン=東海)に関しては、国際法、とりわけ1982年の国連海洋法条約(UNCLOS)に基づく平和的手段による紛争解決というベトナムの一貫した立場を改めて表明し、国際法に基づくベトナムの独立・主権・主権的権利・管轄権を断固として粘り強く守る姿勢を示した。
地域の枠組みについては、ASEAN(東南アジア諸国連合)を中心に据えた、開放的で包摂的な地域構造の構築を要請した。新たなイニシアチブはASEANの中心性を弱めるものであってはならず、東南アジアを大国間の対立空間に変えてはならないと釘を刺した。
さらに、人間の安全保障と社会のレジリエンスを持続的安全保障の中心に据えることを提唱し、災害救援・医療・水資源安全保障・食料安全保障・エネルギー安全保障・サイバーセキュリティ・重要インフラ保護における協力の推進を呼びかけた。
信頼の構築、リスクの軽減、平和の強化
トー・ラム書記長兼国家主席は、新技術や国防産業に対する責任ある規範の構築を求め、安全保障に重大な結果をもたらす意思決定においては人間が最終責任を担うべきだと主張した。フェイクニュース・情報操作・過激化・社会の分極化といったリスクに対して、社会基盤の強化や情報空間の保護、市民の意識向上が必要であるとした。
また、地域における予防外交・和解・仲介の能力向上を訴え、協議チャネル・柔軟な仲介メカニズム・対話フォーラム・信頼醸成イニシアチブの活用を提案した。域内外の影響力ある大国に対しては、アジア太平洋は開かれた空間であり、国際法を尊重し、ASEANの中心的役割を支持し、緊張緩和に貢献する透明で責任ある関与を歓迎すると述べた。
講演の締めくくりとして、現在の3つの危機は受け入れざるを得ない必然ではないと強調。受動的な対応から能動的な構築へ、原則の反復からメカニズムの運用へ、危機発生後の管理から危機勃発前のリスク軽減へと転換すべきだと訴えた。ベトナムは自国の歴史から平和の価値を、ドイモイ(刷新)と国際統合の歩みから発展の価値を深く理解しており、域内外の各国とともにルールの強化・信頼の醸成・対話の推進・協力の深化・リスクの軽減に取り組み、より安全で自強的かつ繁栄するアジア太平洋の構築に貢献する用意があると表明した。
投資家・ビジネス視点の考察
今回のシャングリラ対話での基調講演は、ベトナムが地政学的リスクの中で「対話と協調の推進役」というポジションを明確に打ち出したことを意味する。これは投資家にとって以下の点で重要である。
1. 地政学リスクのヘッジ先としてのベトナムの立ち位置強化:米中対立が激化する中、ベトナムは双方と良好な関係を維持しつつ、ASEAN中心主義とルールに基づく秩序を訴えるバランス外交を展開している。これはサプライチェーンの「チャイナ・プラスワン」戦略の受け皿としてのベトナムの信頼性をさらに高める要因となる。
2. FTSE新興市場指数への格上げとの関連:2026年9月に決定が見込まれるFTSE新興市場指数への格上げに向け、ベトナムは市場改革だけでなく、国際社会における政治的安定性と予見可能性のアピールも重要である。今回の講演で示された「責任ある競争」「ルールに基づく秩序」「リスクの早期軽減」というメッセージは、機関投資家がカントリーリスクを評価する際にプラス材料として働く可能性がある。
3. 南シナ海リスクの管理:南シナ海問題に関するベトナムの立場は従来通り一貫しているが、シャングリラ対話というハイレベルの場で改めて国際法遵守と平和的解決を訴えたことは、同海域での偶発的衝突リスクの軽減に向けた外交努力として評価できる。エネルギー関連株(ペトロベトナム系列)や海運・水産関連銘柄にとっては、南シナ海の安定は事業環境の前提条件である。
4. 日本企業への示唆:ベトナムが「開放的で包摂的な地域構造」を唱え、大国間の対立空間化を拒否する姿勢は、日本のODA・インフラ投資・製造業進出にとって安定した事業環境の継続を示唆する。日越関係は「包括的戦略パートナーシップ」に格上げされており、防衛・安全保障面での協力深化も今回の文脈と整合的である。
いかがでしたでしょうか。今回のニュースについて、皆さんのご意見もぜひお聞かせください。コメント欄や@viettechtaroのDMでお待ちしています。
この記事が参考になったら、ぜひXでシェアしていただけると嬉しいです。より多くの方にベトナム投資の魅力を伝えたいと思っています。
ハノイ在住13年日本語で毎日配信。
✅ 個別銘柄の詳細分析 ✅ FTSE格上げ関連速報 ✅ 現地だからわかるリアルタイム情報
👉 月額980円でメンバーシップに参加する
出典: 元記事












コメント