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ベトナム北部の主要港湾都市ハイフォン(Hải Phòng)市が、工業団地・工業クラスター内のハイテク企業、中小企業、革新的スタートアップ企業を対象に、土地賃料の最大100%免除を5年間にわたって実施する計画を提案した。2026年7月1日からの施行を目指しており、実現すれば北部経済圏への投資環境が一段と強化されることになる。
提案の具体的な内容
2025年5月19日、ハイフォン市人民委員会が明らかにしたところによると、同市は工業団地(khu công nghiệp)、工業クラスター(cụm công nghiệp)、テクノロジーインキュベーター(vườn ươm công nghệ)における土地賃料・転貸土地賃料の減免計画を策定中である。対象となるのは、民間経済セクターに属するハイテク企業、中小企業、革新的スタートアップ企業の3カテゴリーだ。
提案の骨子は以下の通りである。工業団地・工業クラスター・テクノロジーインキュベーター内で土地を転借する企業が、以下のいずれかに該当する場合、5年間にわたり土地賃料が100%免除される。
- ハイテク企業:ハイテク企業認定証(giấy chứng nhận doanh nghiệp công nghệ cao)を取得済みの企業
- 中小企業:中小企業支援法(Luật Hỗ trợ doanh nghiệp nhỏ và vừa)の規定に基づく企業
- 革新的スタートアップ企業:科学技術・イノベーション法(Luật Khoa học công nghệ và đổi mới sáng tạo)の規定に基づき認定された企業
さらに、工業団地・工業クラスター・テクノロジーインキュベーターの開発事業者が、公定地価表(bảng giá đất)よりも高い単価で企業に土地を転貸している場合、その差額分についても土地賃料からの減額が検討される。ただし、減額幅は転貸契約締結時点の公定地価表に基づく納付額を超えない範囲とされている。
ハイフォン市の産業基盤と現状
ハイフォン市人民委員会によると、現時点で同市においてハイテク企業認定証を取得している企業はわずか3社にとどまる。いずれも韓国LGグループの現地法人で、LGディスプレイ・ベトナム(LG Display Việt Nam)、LGエレクトロニクス・ベトナム(LG Electronics Việt Nam)、LGイノテック・ベトナム(LG Innotek Việt Nam)の3社である。3社ともチャンズエ工業団地(KCN Tràng Duệ)で操業している。なお、革新的スタートアップ企業の認定を受けた企業は現時点でゼロである。
一方、ハイフォン市財政局の統計によれば、工業団地内で土地を賃借する中小企業は865社、工業クラスター内で土地を賃借する中小企業は282社に上る。つまり、この政策が実現すれば、少なくとも1,100社以上の中小企業が恩恵を受ける可能性がある。
ハイズオンとの合併で拡大する工業団地ネットワーク
ハイフォン市は隣接するハイズオン(Hải Dương)省との行政合併を経て、工業団地の数が45カ所、総面積は1万2,800ヘクタール超に拡大した。ベトナム政府が進める行政区画再編の一環であり、これにより北部経済圏における同市の産業集積力は飛躍的に高まっている。
さらに、2030年までの計画では、工業団地を85カ所、総面積2万2,800〜2万3,300ヘクタールにまで拡大する構想が示されている。ハイフォン市人民委員会は、20年以上前に設立された既存の工業団地とは異なり、新設される工業団地・工業クラスターではハイテクプロジェクトや高付加価値プロジェクトの誘致を優先する方針を明確にしている。
ハイフォン市の企業動態
統計によると、ハイフォン市では現在約5万3,820社の企業が活動しており、そのうち85%以上が中小企業である。毎年約6,500〜7,000社が新規設立されており、特に中小企業が同市のGDP成長に大きく貢献している。ハイフォン市人民委員会は、今回の政策について「民間経済セクターおよび中小企業への支援メカニズムを整備し、イノベーションを促進するとともに、ハイテク投資を誘致するためのものである」と位置づけている。
施行予定日は2026年7月1日とされている。
投資家・ビジネス視点の考察
今回のハイフォン市の提案は、複数の観点から注目に値する。
第一に、北部工業回廊の競争力強化である。ハイフォンはハノイから約100キロメートルに位置し、ベトナム最大級の深水港であるラックフエン(Lạch Huyện)国際港を擁する。中国南部からのサプライチェーン移転(いわゆる「チャイナ・プラスワン」)の受け皿として、ここ数年で急速に存在感を高めてきた。土地賃料の全額免除は、ホーチミン市近郊のビンズオン省やドンナイ省と比較した際のコスト優位性をさらに際立たせる。
第二に、LGグループへの依存構造からの脱却という意図が読み取れる。ハイテク企業認定を受けているのが現時点でLG系列3社のみという事実は、裏を返せばハイテク産業の裾野がまだ狭いことを示している。今回の免税措置は、LG以外のハイテク企業や国内スタートアップの誘致を本格化させるための布石である。
第三に、日本企業への影響も小さくない。ハイフォンにはすでに多数の日系製造業が進出しており、チャンズエ工業団地やノムディン・ブーイェン(NOMURA-HAIPHONG)工業団地には日系企業が集積している。中小規模の日系サプライヤーにとって、5年間の土地賃料免除は初期投資負担を大幅に軽減する効果がある。ベトナム進出を検討中の日本の中小製造業にとっても、ハイフォンの優先度が上がる可能性がある。
第四に、ベトナム株式市場との関連である。工業団地開発・運営を手掛ける上場企業への好材料となり得る。ハイフォンおよび北部に工業団地を展開する企業としては、ディンヴー・カットハイ工業団地(DVP)やキンバック都市開発(KBC)などが挙げられる。入居率向上や新規開発への追い風となれば、中長期的な収益拡大期待が高まる。また、2026年9月に決定が見込まれるFTSE新興市場指数への格上げが実現すれば、海外機関投資家のベトナム株への資金流入が加速する。ハイフォンのような地方主要都市の産業政策強化は、ベトナム経済のファンダメンタルズ改善を裏付ける材料として、格上げ審査においてもプラスに作用するだろう。
総じて、ハイフォン市の今回の提案は、単なる地方自治体の優遇策にとどまらず、ベトナム全体が推し進める「量から質へ」の産業構造転換を象徴する動きである。2026年7月の施行までに中央政府の承認プロセスがどう進むか、引き続き注視が必要である。
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