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ベトナムの首都ハノイ市が、歩道(vỉa hè)を商業利用する零細商人に対して使用料を徴収する方針を打ち出し、現場から不安と困惑の声が相次いでいる。1日わずか数時間しか営業しない露店商が月単位で料金を支払わなければならない仕組みへの疑問、そして賃借の安定性に対する懸念が噴出しており、ハノイの都市管理と庶民経済の両立という根深い課題が改めて浮き彫りになった。
歩道使用料徴収の背景—ハノイの「歩道経済」とは
ハノイの歩道は、ベトナムの都市文化を象徴する空間である。朝はフォー(ベトナムの国民的麺料理)やバインミー(フランス統治時代に起源をもつサンドイッチ)の屋台が並び、昼はカフェの椅子が歩道にはみ出し、夕方にはビアホイ(生ビールの路上飲み屋)が賑わう。こうした光景はハノイを訪れる外国人観光客にとっての魅力であると同時に、数十万人規模の零細商人の生計を支える重要な経済基盤でもある。
しかし、歩道の商業占拠は以前から深刻な都市問題として指摘されてきた。歩行者が車道を歩かざるを得ない状況や、交通事故リスクの増大、景観の悪化などが繰り返し問題視されてきた。ハノイ市当局はこれまでも断続的に「歩道秩序回復キャンペーン」を実施してきたが、取り締まりが厳しくなると一時的に屋台が消え、緩むとまた戻るという「いたちごっこ」が何年も続いていた。
今回の使用料徴収の提案は、こうした状況を「禁止」ではなく「管理・有料化」によって秩序化しようとする新たなアプローチである。歩道を一定の条件のもとで合法的に商業利用できるようにし、その対価として使用料を徴収するという仕組みだ。これにより、市の財政収入を確保しつつ、無秩序な占拠を抑制することが狙いとされている。
零細商人たちの懸念—短い営業時間に月額料金の矛盾
しかし、この方針に対して多くの零細商人(ティエウトゥオン=小規模商人)が強い不安を表明している。最大の懸念は、課金の単位が「月額」である点だ。ハノイの歩道で商売をする多くの露店商は、朝の数時間、あるいは夕方から夜にかけての数時間だけ営業するスタイルが一般的である。1日あたりの実稼働時間がわずか2〜3時間というケースも珍しくない。にもかかわらず、月単位で使用料を支払う必要があるとすれば、売上に対する負担が過大になるという懸念は理解できる。
また、賃借の安定性に対する不安も大きい。歩道の使用許可がいつ取り消されるか分からない、あるいは行政の方針転換によって突然利用できなくなるリスクがあるのではないか——こうした声が多く聞かれる。零細商人にとって、歩道での営業は生活そのものであり、固定店舗を構える資金力を持たない層にとっては代替手段が限られる。使用料を支払ったにもかかわらず、短期間で契約が打ち切られれば、投資した費用が無駄になるという恐れがある。
ハノイ市の都市管理と「歩道改革」の歴史
ハノイ市における歩道問題は、実は長い歴史を持つ。2017年にはグエン・ドゥック・チュン元ハノイ市人民委員会委員長のもとで大規模な歩道整理キャンペーンが展開され、違法な占拠物が強制撤去されるなど一時的に大きな話題を呼んだ。しかし、その効果は長続きせず、数か月後には元の状態に戻ったとされる。
ベトナム全体を見ても、ホーチミン市をはじめとする主要都市で同様の問題が存在する。ホーチミン市では一部の地区で歩道使用料の試験的な徴収が行われた実績があり、ハノイの今回の提案はこうした先行事例を参考にしたものと見られる。ただし、各都市で歩道の幅や商業密度、住民の生活スタイルが異なるため、画一的な制度設計では実情に合わないとの指摘もある。
今回の方針では、歩道を商業利用できる区域とできない区域を明確に区分し、幅が十分にある歩道に限って使用を許可する方向で検討が進められている模様だ。歩行者の通行空間を確保しつつ、商業活動も認めるという「共存モデル」を目指すものだが、その具体的な運用ルールや料金体系が明確になっていないことが、零細商人の不安をさらに増幅させている。
制度設計の課題—時間制・日割り制の導入は可能か
零細商人側からは、月額ではなく時間制や日割り制の料金体系を求める声が出ている。テクノロジーの活用(QRコード決済やアプリでの利用申請など)によって、利用時間に応じた柔軟な課金を実現することは技術的には可能であろう。実際、ベトナムではキャッシュレス決済の普及が急速に進んでおり、特にMoMo(モモ)やVNPay(ベトナムペイ)といった電子決済アプリの利用率は都市部で非常に高い。こうしたインフラを活用すれば、利用実態に即した柔軟な料金徴収の仕組みを構築できる可能性がある。
一方で、行政側にとっては月額制のほうが徴収コストが低く、管理が容易であるという事情もある。数十万人にのぼる零細商人から時間単位で料金を徴収するためのシステム構築には相応の初期投資と運用コストが必要であり、費用対効果の観点から慎重な検討が求められる。
投資家・ビジネス視点の考察
今回のニュースは、一見するとベトナム株式市場や大型投資案件とは直接関係がないように見えるかもしれない。しかし、以下のような観点から注目に値する。
1. ベトナムの都市ガバナンス改革の方向性を示すシグナル
歩道の商業利用を「禁止」から「有料化・管理化」へ転換する動きは、ベトナムの行政が規制一辺倒から市場メカニズムを活用した都市管理へとシフトしつつあることを示している。こうしたガバナンスの成熟は、2026年9月に判断が見込まれるFTSE新興市場指数への格上げ審査においても、制度的な透明性・予測可能性の向上として間接的にプラス評価される可能性がある。
2. 不動産・小売セクターへの間接的影響
歩道ビジネスが有料化されることで、零細商人の一部が固定店舗やショッピングモール、市場施設内への移行を検討する可能性がある。これは長期的にはビンコム・リテール(Vincom Retail、ティッカー:VRE)などの商業施設運営企業や、伝統的市場のリノベーションに関わる不動産開発会社にとって追い風となりうる。ただし、短期的にはコスト増を嫌った零細商人の廃業や消費活動の縮小といったマイナス面も考慮する必要がある。
3. 日本企業への示唆
ベトナムに進出している日本のコンビニエンスストアチェーンやファストフード企業にとって、路上の露店が合法的に管理されるようになれば、競争環境がより公平になるという側面がある。一方で、歩道文化そのものがベトナムの消費行動に深く根づいているため、制度変更が消費者の購買パターンにどのような影響を与えるかは注視が必要である。
4. デジタル決済・行政DX関連銘柄
歩道使用料の徴収にデジタル決済や行政プラットフォームが活用される場合、FPTコーポレーション(FPT、ベトナム最大手IT企業)やVNPTグループなどの行政DX関連企業にビジネスチャンスが生まれる可能性がある。ベトナム政府が推進する電子政府化の流れとも合致する動きであり、関連銘柄への波及を中長期的に注視しておきたい。
ハノイの歩道という「最もローカルな経済空間」をめぐるこの議論は、ベトナムが経済成長と都市秩序の両立をどう実現するかという、より大きなテーマを映し出している。零細商人の生活を守りつつ、都市としての機能と魅力を高めるバランスの取れた制度設計が実現するかどうか、今後の動向に注目である。
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ハノイ在住13年日本語で毎日配信。
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出典: 元記事












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